第340話 大カオス

「他のガラクタに眼をくれるな! 目標はマニーだ……」


 意識が飛びそうになろうとも、唇をかみ締めながら意識を保つ。

 あの女を逃がすわけにはいかねえ。

 ここで、捕らえる!


「ミーがロードをメイキング!」

「どかんかい! ヴェルト一家のお通りや!」


 前方に立ちふさがる、カラクリモンスター。

 胸部に装着されたミサイル、鋭い爪の代わりに装着されたバルカン。

 俺たちの存在を感知し、敵と認識した瞬間、その武器が俺ら目掛けて火を噴く。


「ハードロッケンロールッ!」

「ワイらがチャカをチラつかせてビビると思っとんのか!」


 キシンの展開する魔法障壁は、そこらの物理攻撃等一切遮断する。


「……ッ、シット!」

「キシン君ッ!」


 だが、ルシフェルとの戦いでそれなりに消耗しているのか、キレが悪い。

 俺も少しでも力を使わねえと!


「ふわふわ………ッ!」


 その瞬間、全身の血が逆流して口から吐き出しそうになった。


「くっ……そ……くそがっ! 今、一番動かねえとって時に!」


 俺の意志とは関係無しに、力が入らねえ。全身が崩れる。

 何でも掴めていたはずのものが、手からするりと抜けていく! 

 よりにもよって、何でこんな時に!

 どれだけ魔王や勇者と戦えても、ここで動けねえで、何の意味があるってんだよ!


「ヴェルト様! 治療しながら動きます、もう少々安静に!」

「ああ、露払いは任せろ、ヴェルト!」

「君はそこに居るだけで、恋する女は最強になれるんだから!」


 そんな時、火が消えそうなほど弱まった俺の周りで一層燃え上がったのは、まさかのこいつらだった。


「お願いします。あの子に命を懸けることは私も異存ありません。ですが、あなたまで……ヴェルト様にまで何かあれば……私とコスモスは……」

「エルジェラ……」

「何のために、妻が複数居ると思っている。父親が動けなくても、残る妻がカバーする」

「ウラ……」

「腹違いであれ、私の娘でもあるのよ? 君が動けなければ、他に動く人が居ないなんて勘違いはしないで欲しいわね」

「アルーシャ……」


 そりゃまた、モテモテで羨ましいね。ああ、俺のことだったよ。


「巨象有象無象!」

「ディープダークネス!」

「シューティングスター!」

「斬空大烈閃!」


 俺たちも忘れるなと、頼もしい奴らが動く。

 俺の、俺たちの娘を助けるために。

 しかし、その時、戦場の空気に異変が起こった。


「お、おお! すごいぞ、あいつら!」

「俺たちが手も足も出なかった、あのモンスターたちを………」

「なにもんなんだ、あいつら!」


 これは、俺たちにとってはコスモスのため。

 だが、一方的に殲滅されていた人類大連合軍たちにとっては……


「アルーシャ姫……それに、あいつは、ロア王子にやられた……」

「信じられねえ、フォルナ姫、タイラー将軍と戦い、さらにはロア王子とも激戦を繰り広げながら……」

「あいつら……あいつらはっ!」


 絶望の中の一筋の……


「おい……」

「……ああっ!」

「俺たちも……!」


 光だった!



「ガラクタ共がッ!我が夫に、そんな鉛を向けるなッ! 廃棄処分してくれる!」



 黄金の舞が見られる。あの女も気合が入ってやがるな。


「ぜ、………全軍ッ! 彼らに続けッ!」


 その時、誰かの声が全軍へ響いた。

 幼い頃から聞いたことのある、懐かしい声。


「シャウト様ッ!」


 それは、シャウトだった。

 自身の隊も半壊し、既に散り散りとなって刈り取られようとしている人類を鼓舞するかのように、剣を空へ掲げた。


「この炎上網の中、外への脱出経路確保は難しい! ならば、戦の原点に立ち戻るべき! 目の前に、この一連の黒幕であるマニーラビットが居るッ! 活路は前だ!」


 あいつにとって、今の俺は敵か味方かは些細なこと。

 無理やり敵の敵は味方という理論を自分に言い聞かせ、この僅かな波に乗るべきだと指揮官として判断した。


「だから………続けッ! ………彼に……彼らに……」


 俺たちは誰だ? 勇者? 英雄? 正義の味方? 違う。


「彼らに……ッ!」


 なら、俺たちは誰だ? 誰に続けというのだ?

 すると、シャウトは言葉を詰まらせながらも、俺たちが何者かを言おうとした。

 だが……



「エヘヘヘヘヘヘ。あ~あ、やっぱり邪魔だよね~、ヴェルト君……」



 その時、空気を伝わって、ゾクリとする声が俺の全身を駆け抜けた。

 あいつだ……マニー……思わず俺は唇を噛み締める。

 待ってろ、今すぐにそこへ行ってやる。

 てめえは、この世で最もやっちゃならねえことを……



「なにより、キシンくんとカイザーくんの二人が味方とか、チョー反則だしね~……これはこれは………スペシャル反則技使わないとダメだったり? うふふ………さ~って、あっちはどうなってるかな~?」



 居た! マニーッ!



「マニーッ!」



 見上げた方角の空に浮かんでいるマニーに叫ぶ。

 だが、マニーは気づいているんだろうが、俺には見向きもしない。

 何やら指を着ぐるみの頭部に当てて、何かブツブツつぶやいてる。


「あっ、もっしも~し、マニーだよ♪ うん、そっちはどーう? ふむふむ、なるほど、へ~~~~~」


 何だ? ひとりごと? 


「へ~、そうなんだ。あの『二人がうまい具合に潰しあって』くれたんだ。それなら、そっちはラクショーだったんじゃない? うんうん、だよねだよね♪ 驚いただろうね~、海上で戦争して、お互い消耗したところで巨大大津波と深海からの攻撃、そしてカラクリモンスターの襲撃でしょ? 他に誰を始末できたの~? ふんふん、なるほどなるほど、エヘヘヘヘヘ」


 違う。誰かと会話しているような……テレパシーか?

 あいつ、あんなこともできるのか?

 しかし、それなら一体誰と話している?


「うんうん『エロスちゃん』と、『キロロちゃん』は行方不明? 六鬼大魔将軍は半壊で、サイクロプスは? ふ~ん。うん、でも大丈夫だよ、だって、そっちには『あの二人』が居るんだから、そこまでパーフェクトは無理だよね♪ ちなみにさ、あの二人は戦ってどっちが勝ったの? え、相討ちで引き分けで両方瀕死? いや~~~ん、それじゃあそっちは、そんな所に横槍入れたんだ~、ヒド~イ。でも、見たかったな~、『弩級魔王VS狂獣怪人』のバトル」


 話の内容から察するに、ジーゴクやらマーカイ関連の話? 

 となると、まさかあの女! もう片方の戦場にも何かやらかしてんのか?

 だが、あっちにも、最強クラスの魔王やママンを含めた四獅天亜人も居るんだろ?

 仮に両軍が潰し合っているところに横槍入れたとして、カラクリモンスターだけでどうにかなるもんなのか?


「まあ、それはさておき~、今、あの二人はどうなってるの? え~~~、きゃーーーーっ! すごいすごい! 君の邪悪魔法はム・テ・キ? えっ、三人が限度? も~、その二人を好きにできるのに、限度がどうとか不満足なんて、ストイック~。ラブにも見習わせたいね♪」


 その時だった。

 マニーはテレパシーで誰かと会話しながら、視線を変えた。

 その先に居るのは、カラクリモンスターに囲まれている、ロアやタイラーたちでも、世界同盟でもない。


「じゃあ、さっそく一人でいいから、どっちかをテレポートで持ってきてよ。私と~、ラブと~、『ピースちゃん』と~、君たちをメチャクチャにする可能性のある~……あのウザイやつ殺しときたいから」


 初めて聞いた、マニーの抑揚のない冷たい声と共に、マニーが視線を俺たちに向けた。

 いや、俺たちじゃねえ。あれは、俺に向けている!

 これは、俺に対する何かの怒り? それに、誰と会話していた? テレポート? 

 あいつは一体何を………ッ!


「え………………………………………」


 その時、この混乱する戦場の中、ただ真っ直ぐマニーを目指していた俺たちの前に立ちふさがる影。

 それは、カラクリモンスターでも、ドリル野郎たちでもなく、一人の亜人。


「うそ………………」


 しかも、それはただの亜人じゃねえ。

 俺たちが、そして世界の誰もが知るほどの亜人。


「なんで!」


 網タイツに黒いレオタードという非常にセクシーな服装でありながら、姿は巨漢。

 肌は色黒で、巨大な口に、スキンヘッド。

 頭部にチョコンと小さな耳二つ。

 異形の姿をした、河馬人族の亜人。

 そして、その河馬は、俺たちの姿を確認しながらも、虚ろな瞳で状態を捻り…………


「レディ暴威!」


 拳を放ったと同時に発せられた衝撃波が、俺たち全員を吹き飛ばし、その進撃を止めた。

 ユズリハの背に乗っていた俺たちは一斉に投げ出され砂漠の上を転がった。


「…………ワッツ?」

「…………なん…………ということだゾウ」

「なんや、こいつ」


 キシンも、カー君も、ジャックも例外じゃない。

 それはそのまま、俺たちの進撃を止めた存在がそれほどの実力者であることを意味し、さらにはその存在が俺たちにとってはあまりにも意外で、そして目を疑ってしまうほどの存在だったからだ。

 そんな中、打ち付けられか痛む体を起こしながら、誰よりも先に叫んだのは、アルテアだった。


「なんで……………………ママンッ!」





――あとがき――

もう訳わからんけど、作者はちゃんとまとめます

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