第271話 それが正解!


「ヴぇ、ヴェルト君………そ、それって……ぷ、ぷろ、ぷろぽ、ぷろぽ……ち、違うわよね? あ~、びっくりした。そ、そうよね。今のは、ただの例えであって、べ、別に、ヴェルト君と、そのね、エルジェラ皇女が……ねえ、そうでしょ!」


 アルーシャ、やかましいので黙ってください。


「ちょっと、ま、ちょ、待て! 待て! 私も、その、お前のことを忘れていると言ったが、では、教えろ! 私とお前はどういう関係だったんだ! なあ、どうなんだ! 答えろ! そんな、思い出しても居ないうちに、そんな、こ、婚約のような話を進めるな! おい!」


 ワリ……ウラ……とりあえず、今は緊急事態なんでな。


「うおおおおおおお、パナ! パナ! ヴェルト君の子供をダシに使ったドサクサプロポーズ!」

「はあ、マジじゃん! あいつ、神乃とかそういうのぶっとばして、意外なルート行ったじゃん! じゃあ、今日からあのエルっちの胸は、ヴェルトの自由じゃん!」

「いや、まだ受け入れると決まったわけではなさそうだゾウ」

「ヴェルト! 結婚パーティーでの、フレンド代表の歌は、ミーに任せてくれ!」

「おお、あんさん、すごいことするやないか!」

「おい、あのゴミ、私が寝ている間に何をした? なぜ、乳お化け女にプロポーズしている?」


 もういいよ、プロポーズで。

 本当に全てが終わったら、フォルナとウラとママにぶっ殺されればいいだけだから。


「おいおいおい、あの男、マジでどうなってんの? これって、地上世界で言う、あれだよな? エルジェラが受け入れたら、今度からエルジェラはあの男のチンチンとイチャつけるってことだよな!」

「まさか、こんなことになるとは……」


 天空族も状況忘れて、キャーキャー顔を赤くして大はしゃぎ。


「な、な、なんなのだ! い、一体、わ、我々は、どうなっているのだ? ガリガ!」

「ステロイ兄さん、わ、た、私にも何がどうなっているかは……いつの間にか魔王チロタンも復活して、コスモス姫が暴走して……さらにはエルジェラ皇女がプロポーズされているとか……」


 ボコボコにやられていたサイクロプスたちも、もはや状況が理解できずに大混乱中。

 まあ、色々と緊迫していて切羽詰った状況の中で、身内のゴタゴタに巻き込んで悪いが、まあ、すまんとしか言いようがなかった。

 すると……


「パッパにしてくれと言われましても……困ります」

「へっ?」


 あれ? エルジェラに俺は断られた? いや、空気的には良い感じであったけど、やっぱ初対面じゃ無理か?

 いや、そうではない。

 エルジェラは少女のように子供っぽく、プクッと頬を膨らませて。




「だって……あなたはもう、とうにあの子のパッパではないですか……今更違うと言われても、困るんですからね?」


 

 エルジェラらしからぬ悪戯のこもった笑み。

 だがその瞳には涙を溜めている。

 そして、エルジェラは一度頷いてニッコリと微笑んだ。


「あの子は………私と、あなたの子供です。……パッパ……いつまでも」


 エルジェラはそう言って俺に右手をチョコンと差し出した。

 俺は少し顔が熱くなっていると自覚しながらも、その手を左手で受け取った。



「いくぜ、マッマ!」


「ええ、パッパ!」



 俺たちは飛んだ。曖昧にしていたことを本物にして。



「う~~~~、パッパの、バッカ! バッカ! いじわる、うそっこ、うそつきー!」



 だが、まだ状況に気づいていないコスモスは、ダンガムの自由が奪われながらも身を捩り、暴れ、そして更なる攻撃を放つ。

 ダンガムから、なんか板状の物質が無数に飛び出して、その板が空中で縦横無尽に飛行しながら、なんとビームを放った。


「うおっ!」

「ヴェルト様、気をつけて!」


 なんつー器用なことまで出来るんだよ、コスモス!


「うおおお、何アレ! あぶな! マッキー、あれなんなん?」

「何言ってるの、アルテアちゃん! あれは……ファンネ○ビームっしょ! ファン○ル! 男のロマン、ファ○ネル!」


 知らねえよ、何だよ、その何とかビームって!



「パッパは……パッパは、マッマとコスモス、キライなんだ! う、う~~~、やー!」


 

 空中で四方から放たれるビーム。やべえ、食らったらまずいぞ、これ! 

 だが、全部なんてとても回避しきれねえ、


「やべ!」

「コスモス、話を聞いて!」


 当たる! そう思った、その時だった!



「なにをボヤっとしてんだよ、青春夫婦が! テメエらになんかあったら、コスモス泣くだろうがボケが!」



 その強靭な肉体で、俺たちの代わりにビームを食らっているチロタンが、俺たちを覆いかぶさるように守っていた。



「チロタン……テメエは……」


「チロタンじゃねえ。俺様は、チーちゃんだ!」



 その時不覚にも、なんか物凄い男前な顔で笑うチーちゃんに、目を奪われちまった。

 だが、この道を守ってくれるのは、こいつだけじゃねえ!



「宮本剣道・乱回転切り!」



 宙に浮かぶ球体を次々と切り裂いていく、バルナンド。



「ゆけ、ヴェルト君。ワシにはできなかったが、君は家族を守るのじゃ」



 その剣は、その瞳は雄弁と語っていた。「後ろは任せろ」と。

 そして……



「何をしているんだい、まったく」

 


 正面から撃たれたビームが、誰かに防がれた。それは……


「ラガイア……お前、なんで……」

「さあね。理由なんて、考えるのも難しい」


 このガキ……


「ただ、素直にこの物語を最後まで見たくなった」


っ たく、どいつもこいつも……


「魔極神空手・魔空拳砲!」

「アイスガトリング!」


 天空族たちに持ち上げられながら、拳と氷の弾丸を飛ばして球体を打ち落とし、俺たちの隣に現れたのは、二人のお姫様。


「ウラさん! アルーシャ姫まで!」


 危険を顧みずに助太刀……ん? なんか、あんまり面白くなさそうな顔してるな、二人とも。


「おい、私たちも行くぞ。なんかよく分からんが、ここで遅れると、何だかまずい気がする……」

「エルジェラ皇女。あまり、二人だけで話を進められると困るので、私も同行していいかしら?」


 おい、ウラ。なんか昔みたいな嫉妬深い顔に戻ってるぞ? アルーシャ、お前はドサクサに紛れて便乗してねーか?

 まあ、もうここまで来ちまったんなら……


「う~~~~パッパ~ぁ!」


 俺たちの目の前には、ダンガムの頭部。その中から、涙交じりのコスモスの声が聞こえてきた。


「コスモス、話がある」


 語りかける。その瞬間、ダンガムの動きがピタリとやんだ。


「う~、う~、パッパ……マッマ……」


 どうやら、俺たちが傍に居ることに気づいたようだ。すがる様な声で俺たちを呼んだ。



「コスモス。俺が……パッパが悪かったよ……お前に曖昧なこと言って、まともに答えられなかったよ……」


「パッパ~…………」


「これから……パッパは……色んな世界を回らなくちゃならねえ……パッパは……やらなきゃならないことがあるんだ……」


「う~、う~、やー! ききたくないよー! やーったら、やー!」


「全部終わったら迎えに行くから! そしたら、今度こそずっと一緒だ! 今度こそ、俺はコスモスから離れたりしねーから! だから、それまではマッマと一緒に俺の帰りを―――」



 今はやることがある。だから、連れて行くわけにはいかな……



「はぐっ!」



 その時、後頭部に衝撃が……って、え?


「そうじゃないであろう、ヴェルト君!」

「ワシ、『家族を守れって』そういう意味で言ったのではないぞよ!」

「へい、ヴェルト! ロックじゃない!」

「ヴェルト君、パナイ間違ってる! ヘタレっしょ!」

「つーか、ありえねえじゃん! この状況で『また今度』とか、どんだけだし! ヘタレヴェルトのヘタヴェル!」

「あんさんにしては、らしくないでー!」

「ゴミ……焼却されればいいのに……」


 なんか、色んな残骸やら破片やらが仲間たちから俺にぶん投げられていた。


「テメエ、このクソガキ! テメエ、生意気なツラしてどこまでヘタレりゃ気が済むんだ、コラぁ!」


 チーちゃんにまで罵詈雑言。

 いや、それどころか……


「テメエ、地上人! それでもチンチンついてんのかよ!」

「なんとも情けない。男というのは、かくも気の利かないものだとは」

「ありえないであります! あそこまで言って、あの回答は、あんまりであります!」

「所詮、人間などこの程度なり」

「種族が違えど同じ男として、見るに耐えないでしょうが!」


 あっれー? 天空族とロイヤルガードにまでボロクソ言われてるんだけど?

 なんで? つか、俺は何も間違ったこと……


「こんどって……いつ?」

「コスモス……」

「こんどっていつなのっ? あした? あさって? もっとなのっ?」

 

 あ……そういうことか……

 いつなのか……か……本当に泣かせることを聞いてくる……


「やだよ~、コスモス、もうやだ! パッパいないのやだよー!」


 違うな。確かにそうだ。いつかじゃ曖昧だ。まだこれじゃだめだ。

 明確に、いつ、何時何分、世界が何回回ったとき?

 それなら……あ~、もう分かったよ。

 それなら、これで満足か!



「なら、パッパと一緒に来るか?」

 

「ふぇっ?」



 それは、我ながらとてつもない提案というのは良く分かっている。

 世界的に見て正体不明なお尋ね者やら伝説の武人などが集結しているこの集団。

 保護者、臣下、同族、全てを含めた連中の公衆の面前で、俺はお姫様をスカウトしようとしてるんだから。



「パッパと………?」


「ああ、もしお前が、もうこれ以上待てないって言うなら……しばらく、ムサシやジッジ、バッバたちとは会えなくなるけど………それでもいいなら……」


「いく!」



 って、はえーな。少しは迷っても……



「コスモス、パッパと一緒がいい! いっしょ! いっしょがいい! いっしょなの!」



 ……まっ……いっか。

 下を向けば、俺の仲間、そしてチーちゃんに、天空族やロイヤルガードや他の魔族たちまでもが、なんか親指突き立てて「それで正解」みたいな顔して笑ってる。

 だが、こうなると大変になっちまうな。

 でもやるしかねえ。

 お姫様の誘拐を始めるとするか。



「マッマもいっしょだよね?」


「え? いや、マッマは……お留守番?」



 そして……



「へ? 一緒ですよ? 行くに決まっているじゃないですか! 当然です!」



 え……来んの!? いいの? どうなっちゃうの!?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る