第188話 やけくそ

「確かに吾輩とキシン様は亜人とも死ぬほど戦争を繰り返してきた。だが、強者は強者同士でどこか似たような親近感を覚える。一度戦場で向かい合えば全力で殺し合う。しかし、一度酒を飲み交わせば、同じ世界と領域を共感できる戦友でもある」



 あっ、その感覚、確かママンも同じようなことを言っていた。

 それぞれの抱えて背負うものを理解し合うことができる、尊敬すべき敵でもあったと。

 だからこそ、鮫島が死んだ時は心の底から涙を流したと。


「吾輩たちが人間と戦争をすると知ったイーサムは、ねぎらいの言葉をかけるために、ワザワザ単身で魔王城へと足を運び、極上の酒を吾輩たちにふるった。その時に、自分も面白い奴らと戦ったと、嬉しそうに語っておったわ」


 そんなことが? なんとも迷惑極まりない話だな。

 俺には正直、イーサムが俺の何をそんなに気に入ったのかよくわかんねえ。

 あいつは、俺の腕を何度も斬り落としたりしてマジで死にかけたし、それなのに何故かいきなり爆笑して帰った奴だ。

 だから、こいつが俺の何に期待してんのかがまったく分からねえ。

 だから、そんな「楽しみだ」的な笑顔を見せられても困るんだが。



「いやいや、待つであります! ヴェルト様は、あの武神イーサムに認められた方でありますか! 信じられないであります! 我々の王は、桁違いにすごいお方だったであります! しかも戦い、撤退させたと!?」


「だから、そこんとこを変な風に捉えるじゃねえ!」



 だから、ホントやめてくれ。なんか、変な具合にその話が広まっていく。


「ヴェルトが、あのイーサムにだって?」

「ウソだろ! 本当かよ、ヴェルト!」

「ヴェルトくん、それじゃあ帝国で言ってた話は本当だったの?」

「こんなことがあるの?」

「お、おい、じゃあ、ヴェルトくんが、いや、ヴェルトさん、いや! ヴェルト様が居れば!」

「魔人族を従えて、あの四獅天亜人に認められたヴェルト様がいれば!」

「そう、正に生ける伝説が! フォルナ姫の選んだお方はとてつもない方だったんだ!」

「ヴェルト様……リモコンのヴェルト様!」


 おまえら、マジふざけんな!


「いやいやいやいや、イーサムん時はあいつの気まぐれだし、ファルガたちも居たし……つうか、それでいいのか人類大連合軍!」


 いや、もう遅い。この、俺が「希望」的な目で大衆から視線を注がれている。

 あ、穴があったら、入りたい。

 罰ゲームみてえだ。


「ったく。んで? 感想はどうだよ。あの絶倫ジジイに教えられた俺は、レベルが低くて失望したか?」

「ふはははははは、つまらんことを聞くな。男の姿は、聞いて判断するものでも、見て判断するものでもない。ぶつかって判断するものよ」

「ッ、だからバルトマニアはムカつくんだよ! わけのわからねえ理屈を自信満々に言いやがって!」


 やるしかねえか。だが、どうする? こんな特設リングみたいな場所でタイマンさせられてもな……

 それに、下手したら一瞬で肉片が飛び散る。

 少なくとも、金棒に当たるのもダメ。

 金棒をかわしても、その線上に居るのもダメだ。スイングの風圧で消し飛ぶ。

 だが、俺の攻撃力でダメージを与えられるか?

 チロタンときみたいに、うまくいくか?

 あの時はもう、コスモスという存在が俺にお父さんパワー的なものを与えてくれて何とかなったし、何でもできる気がして、その結果うまくいったが、今度はどうだ?

 いや、うまくやらなきゃ、死ぬ。

 つか、何で生きるか死ぬかの戦争に俺が前面に押し出されてんだ?


「だが、帝国で貴様が参戦した時にも思ったが、イーサムからは、お前は戦争には参加しないタイプとは聞いたが? どうして貴様はここにいる?」


 何故か? いや、もうそんなもんはどうでもいい話だ。


「くだらねえな。男がテメエを曲げてでも体を張るのは、昔から女のためだって相場が決まってんだよ」


 そう、フォルナのために。笑いたけりゃ笑え。呆れたければ笑えと、半ばやけくそに俺は言った。


「ふっ、正直ではあるが、浅い理由だな。それで死んで満足か?」

「不満足だ。だから、テメエが死んでくれたら満足だ!」

「つまり抗うと!」

「不良は反逆してなんぼの存在なんでな!」


 精一杯悪態こもった笑みを浮かべて返してやった。


「不良のやけくそは、ひたすら他人に迷惑だから気をつけな!」


 やるしかねえ。だから、腹をくくるか。フォルナたちみてえに。


「ふわふわ時間タイムを見せてやるよ!」

「面白い。わずか数秒間ではあるが、楽しませてもらおうか!」


 とりあえず秒殺する気なわけか。

 だが、俺としても好都合だ。

 短期決戦で決める。


「一撃一瞬で終わらせてくれる!」


 ゼツキが上空に高らかと舞い上がり、金棒を振りかぶる。

 金棒が目に見えるほどの魔力を帯びて、激しく輝く。

 あの技だ! 巨大クレーターを何個も出現させた力。



「鬼星!!!!」



 楽しむと言っても、勿体ぶるようなネチッこい奴じゃねえ。

 だが、それはそれで好都合だ。

 ここまで来れば、もはや開き直るだけだ。

 できるかできないか。それを絶対できると思い込んでやる。


「うおああああああ!」


 俺も飛ぶ。ゼツキと少しでも距離を詰めるために。


「ふはははは、その特攻姿勢、見事! フォルナ姫とはあの世で結ばれるが良い!」


 飛んだ。何のために? 俺の攻撃力で致命傷を与えられるか?


「ふわふわ金爆撃ゴールデンボンバー!」

「ッッッッッッ!」

 

 ゼツキにとって、俺の攻撃や魔法がまだこいつの常識外であるうちが勝負。

 この攻撃だけは予想外だったのか、まんまとくらいやがった。

 見えない空気爆弾を、ゼツキの股間で大爆発させてやった。

 鬼も人間の男みてーに、そこが急所なのかは分からねえ。

 だが、確実にひるんだ。


「ッ、な、なにを! つっ、おおおお!」


 だが、芯に響く攻撃でも、粉々にぶっ壊すほどじゃねえ。

 痛みは与えたかもしれねえが、更なる怒りを生んだだけかもしれねえ。

 その表情が、夜叉のように怒りの鬼を表していた。

 だが、これは単なる陽動だ。


「本命は、こっちだ!」


 気流を纏ってアップした俺の攻撃力よりも更に強いもんがこの場にはある。

 受け流そうなんて贅沢なことは言わねえ。

 防ごうなんて大それたことは言わねえ。

 爆発が起こるってなら、火傷ぐらいの覚悟はしてやる。


「残念ながら、俺が結ばれなきゃぶっ殺されるのが一人だけじゃねえからタチがワリい!」


 近づくほど俺の魔法の威力が増すってなら、こんだけ近づいたんだ。

 飛び込んでやったんだ。

 さらに、相手を一瞬でも怯ませたおかげで、確実に隙を作った!

 ここまでやったんだから、上手くいかなかったら、俺をぶっ殺す!


「ふわふわ方向転換! 曲がれええええええええええええ!」


 俺が狙ったのはゼツキが持っている金棒。

 超近距離からの浮遊操作。

 

「なっ……なにい!」


 真下にふり下ろそうと、ゼツキが一度振り上げたはずの金棒が、ゼツキの意思を無視して、俺の意思によって金棒の軌道が曲がり、ゼツキの膨大すぎるエネルギーを纏った金棒が、ゼツキの腹部にそのまま炸裂した。


「うごぉぉおおおおおお!!??」


 正に自爆。自滅。

 ゼツキの超絶の力をそのままゼツキにくらわせてやったんだ。

 これは効くに決まっている。


「ぐお、おおおおおおおおおおおお! わ、若造! 何をした!」


 通常なら、今のゼツキを見れば、誰もがゼツキが自分で自分を傷つけて錯乱したと思ったはずだ。

 だが、今は違った。誰もが、理屈ではなく、ただ俺が……「ヴェルトが何かをやった!」と確信した表情をしていた。


「なにが起こった!」

「ゼツキ将軍ッ!」

「ええい! 何が起こったか分からん!」


 状況が分からず激しく動揺するジーゴク魔王国軍の兵士たち。

 奴らはまだゼツキに命じられた通り、待機したまま。

 なら、


「キメる! ここで一気に!」

「ぐっ、ぬっ、か、体が、動かん!」


 千載一遇のチャンス。反撃の隙なんて与えねえ。押しまくれ!

 押して押して押しまくる!


 伝説だろうが、今この場でぶっ倒す!

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