第176話 寸止め

 フォルナがまるで、俺を自分の所有物で絶対に誰にも渡さない的な雰囲気でギュッとしてきた。



「ダメですわー! 百歩、いえ、千歩、いえ、世界一周分譲ってもウラならまだワタクシとしても、側室に一人ぐらいとは思いますが、これ以上は絶対にダメですわ!」


「君ね、なに? 備山さんとどういう展開があったのかしら? なに? 私に対する当てつけ? フォルナと君なら祝福をと思っていたのに、そこに備山さんが絡むの? ねえ、それはさすがに看過できないわね」



 頬を引っ張られながら、ホールド。

 メンドクせー尋問を俺は受けているわけだ。

 さて、ここで気になるのはこれははた目から見てどういう状況か。



「もうイヤですわ! ワタクシの知らないとことでヴェルトが他の女性となんて、絶対にイヤ! そんなの、許しません、やだ、やだやだやだ!」


「何よ、なによなによなによ! 私が前世でどういう気持ちだったのかは既に教えたじゃない! 今だって微妙に私がどういう気持ちなのかは、察してるでしょ? モヤモヤしているのよ! そんな中で備山さんと結婚しそうになった? そんなのあまりにも酷いわよ!」



 待て、待て待て待て! 分かった! 悪かった、だから……


「だから、何度も言ってるだろうが! ちょ、今ヤバいことになってんだから、俺に触んな!」


 だから、後でその文句は聞いて謝るぐらいはしてやるから、まずはどいてくれ。

 触れられて、吐息がかかって、肌が適度に接触して、ナニに微妙な刺激が!

 起立気をつけ状態で、礼をできない状態なんだよ。 


「あっ……」

「っ!」


 そして、二人は硬直した。

 ようやく俺のアレが色々とまあ、なっている状態を見て、顔面紅潮させて、固まった。


「ヴェルト……」

「あう、あ、あわ、あう、え、あ、その」


 二人は絶賛うろたえ中。

 フォルナに関しては帝国に朝、寝込みを襲われて色々と咥……だが綾瀬は前世を通しても初めてだったのか、いつものキリッとした様子はなく、口もうまく回っていない様子。

 なのに、


「ッ、ん!」


 フォルナは何か、顔を赤くしながらも覚悟を決めた的な顔で一度強く頷き、何か俺をお湯から引っ張り上げ、俺を岩に座らせ、フォルナは俺の正面に立った。


「えっ?」

「フォ、ル、あう、あの、ルナ?」


 えっ?

 岩に座った俺の正面に立つフォルナは一切何も隠していない。

 なんちゅうか、やらしい気分よりも、むしろなんか彫刻的な芸術やら美術的な美しさを感じ、思わず見惚れたというか、マジマジと見てしまった。

 

「ヴェルト……ん」

「あっ、うむ」


 呆然としている俺の唇が塞がれた。

 風呂上りであったまってるのか、唇も熱かった。

 だが、そんなことを考えている間も、フォルナの舌は俺の口の中に侵入し、ねぶった。


「ん、にゅ、あむ、れろ、あむ」


 フォルナから漏れる吐息と唾液が重なり合う音が響き、俺の頭はボーっとした。

 魅惑の魔法にでもかかったかのように、俺の頭は正常に回らなかった。


「ぷはっ、はあ、はあ、はあ……」


 体中が濡れていても、唇を離せば明らかに唾液だと分かるほど絡み合ったものが糸を引き、その糸が切れた瞬間、フォルナは俺に小さく微笑んだ。


「ヴェルト……」

「お、お……う」


 俺は相槌しただけで、何も了承したわけではないが、フォルナはお構いなしに、俺の膝の上に向かい合うように足を広げてまたがった。

 女の中でも小柄で体重の軽いフォルナなのに、膝の上には僅かな重み。人ひとり分の重さがしっかりと伝わってきた。


「フォル……ナ」


 あっ、やべえ。いつもの俺なら、「マセガキ」と鼻でもつまんでひっくり返しているのに、なんだろう、抗えないっていうか。


「ヴェルト」


 潤んだ瞳で、緊張しているのかフォルナは若干震えている。それでも勇気を出しながら、両手を俺の首にまわして、俺の額にコツンと自分の額を重ねてきた。


「ん」


 そして、もう一回、俺の唇にキス。だが、今回は少し触れるだけの軽いもので、すぐに俺たちの唇は離れた。

 だが、


「ねえ、ヴェルト」


 俺の首にまわした手の右手だけを外して、その手を段々下に持って行って、その手をフォルナは、俺の、アレに……


「うッお!」

「あっ!」


 ヤバ! ちょっと、ソフトタッチされただけで、俺の全身に稲津が走ったみたいに、体が跳ね上がった。


「ヴェ、ヴェルト、あっ、ごめんなさい、いたかった?」

「あっ、いや、そうでもねえけど、そのいきなりってお前……」

「で、でしたら、こ、これぐらい」

「うおっ! って、だから、やめ、ろって、いうか、おい」


 声が上手く出ねえ。何でだ? 俺、まさか緊張してんのか?

 もうこれから何が起こるのか、何をするのかが大体分かっちまってるから。


「ふふ」


 なんか、フォルナが笑ってるし。


「な、なんだよ」

「いえ、なんか、プルプル震えてるヴェルトが……かわいくって」

「お、い……」

「本当におかしいですわ。今からワタクシたち……もっとすごいことしてしまいますのに」


 あ、もうダメだ。ヤバ、俺の体がまるで拒否してないっていうか、好き嫌いとかそういうもんじゃなくて、体がもう収まりつかねえっていう感じだ。


「ちょ、や、め、やめ、なさいよ、ほ、あなたたち、本当にここでスル気なの!」


 忘れてた。こいつ居たんだ。


「フォルナ! あなた、何考えてるのよ」

「やっ、邪魔しないでくださませ。ワタクシはもう、もう!」

「だからって! こんな、こんな流れで、しかもこんな場所で済ませるなんて、動物じゃないのよ!」

「動物で結構ですわ! それでも、もう、ワタクシは抑えきれませんの。いつ、どうなってしまうかなんて、もう分からないですもの! 後悔だけは絶対に嫌ですわ!」


 フォルナが腰を浮かせる。そして、俺のアレの根元を掴んでその真上に自分の体を移動させる。

 俺はもうされるがままというか、情けねえ。本当は俺がリードしてやるところなのに、完全に魚状態だ。


「ずっと、夢でしたの。ヴェルトとこうなること……心は全部あげているのに、この身だけは年齢や体の構造上、ずっとヴェルトにあげることができませんでしたの」

「フォル……」

「でも、もう、違いますわ。今ならワタクシは、全部、全部、全部!」


 潤んだ涙とともに、フォルナは一度軽く深呼吸をして、一気に腰を下ろそうと……したが……


「ダ、だから、だから! ダメ! そんなのダメ!」


 ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


「はぐおわ!」

「ッ、アルーシャ!」


 まったく予想外の衝撃ってか、何が起こった? 痛くて思わず叫んじまったが、薄眼をあけてみると、俺のアレを綾瀬が両手でしっかりホールドしてやがった。


「あ、あや、せ!」

「もう、正気になりなさい! 大人しくなりなさい!」


 って、ちょっと待て! 最初は痛かったけど、両手ですっぽりされて、ヤバい余計に……


「綾瀬! おま、やめ、ちょっ、まずはな、はなせ」

「邪魔者で……結構よ……こんなこと……よりにもよって、目の前でスルなんて、邪魔してやるわよ! なんだったら、私も加わってやるんだから!」


 なのに、綾瀬は捨てられた子犬のようにすがる目で俺を見てきやがっ、だから、離せって!


「朝倉君、フォルナと仲良くするのはいいけど、どうしてそこまで私にイジワルするの!」

「あ、ああ? や、おま、そんなことより」

「二人でイチャイチャ、そのうえで、こんな、見せつけるかのように、私の前で二人で……こんなこと、イヤよ! たとえ君に嫌われても、邪魔者扱いされても、イヤ! そんなのイヤよ!」


 だから、だから! ニギニギするんじゃねえ! ちょっ、おい! シャレにならん! マジで、なんか、何か出る!


「邪魔はしないでくださいませ、アルーシャ! もう、もうこれ以上、先延ばしはイヤ! ヴェルトのモノから手を離して!」

「イヤよ! そんなの、イヤ! 絶対にイヤ! って、なに? ウソ、手の中で、ビクッて、うそ、も、もっと大きく……ひっ! な、なにこれ!」

「ッ、ヴェルト! イヤ、アルーシャで感じないで! ワタクシが、ワタクシが全部しますの!」

「ダメよ! なら、私もするわ! 朝倉くん、私にもシて! そうよ、今は生きるか死ぬかの瀬戸際……前世に続いて現世でもヴァージンのまま死ぬなんて嫌よ! ならば、ここで前世から好きだった人と――――」

 

 何で? つい数分前までフットサルやってた俺が、どうして神族大陸の森の中で、幼馴染と元クラスメートに、王国の姫と帝国の姫にアレの取り合いされてんの?

 ヤバい、絵面がかなり情けねえ。もう、ダメだ。ヤバい。

 こんなところを誰かに見られたら、俺たち三人は……




「あのさ、もう緊急事態だから、言ってもいいですか?」




 もう取り乱しまくった俺たち三人が一斉に硬直した。

 静まり返った森が、突如吹いた風で木々が揺れる音がするなかで、俺たちは油の切れたロボットのように首を回すと、そこにはまるで汚物を見るような冷たい目で俺たち三人を見る女が立っていた。

 しかも、それが幼馴染の一人だからタチが悪い。



「フォルナ姫、アルーシャ姫、敵軍が動き出したんで本陣に戻っていただけますか?」



 茶髪のショートボブ。白銀の鎧に黒いスカートと黒いニーソ。体は細身なのに、ニーソが食い込んだ、少しムッチリとしたふとももがそそられる。

 だが、そういう感情も一瞬で冷めさせてしまう、いつもガン飛ばしているかのような冷たい目が、いつも人を寄せ付けない。


「お、お、おう、よう!」

「……で、なんでだい?」


 その女の名は、ハウ・プルンチット。

 同期の中で一番クールで、いつも人を鼻で笑ったように見下してた一匹狼的な女だ。


「何であんたが居るの? ヴェルト」

「よ、よお、ま、また、会ったな」

「ふん、粗末なもんおっ立てて、こんな森で二人の姫を相手にスリー○ムのグ○ープセッ○スかい? サカリのついたオス豚野郎が」


 ご、めん、なさい。

 っていうか、お前、意外と難しい言葉知ってるんだな。

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