第128話 侵入者と侵略者
「驚かせて申し訳ありません。今、我らの空は、とある理由により警戒が強くなっています。ですが、あなた方に敵意が無いのであれば、一切の危害を加えるつもりはございません」
我らの空って……だが、それにしてもデケえ。
成長したフォルナやウラと比べ物にもならねえ。
しかし、どうしてだ? エロいのに、エロさを感じない。
まるで、清楚と神聖さを絵に書いたようだ。そう、美術品の裸婦画のようなエロさよりも美しさで目を奪われる感覚的なやつか?
「それにしても、でけえ……ん? ひ、姫だと?」
ちょっと待て。なんか、サラッと言われたけど、なんかこの女、スゲー事をアッサリと言ったぞ? つか、何なんだ? 最近のお姫様は、公務以外に戦闘に駆り出されるもんなのか?
もう、頭がグラングランになりそうなほど、唐突な展開に、俺はいっぱいいっぱいだった。
すると、誰も何も言えない状況の中で、ファルガだけがとにかく事態を把握しようと、一番に声を出した。
「驚かせたな。俺は、ファルガ・エルファーシア。お前たちで言う、地上世界に住む、人間という種族だ。ここへは旅の途中に偶然たどり着いた。何か目的があって来たわけではない」
何も間違っていない。素性の所はハショったが、今のファルガの言葉には一切のウソがない。
だが、武装した天使たちは果たしてそれを簡単に鵜呑みにするだろうか?
何よりも、俺たちは知らずに来たとはいえ、紛れもない不法侵入者だ。
国に所属する騎士団。さらには、国を代表する皇女。目の前に居る俺たちは、得体の知れない連中だ。
どういう考えに至るかどうかは…………
「そうですか。それは、大変でしたでしょう」
「って、あっさり信じんのかよ!」
「あら? しかし、そうなのでしょう?」
思わず俺がツッコんじまったが、これはまたすごいな。
「あなた方が我々の国に敵意や害を向けないと言うのであれば、我々が剣を取る必要などありません。大したお持てなしもできませんが、歓迎致します」
エルジェラ。その女は、人の言葉をまるで疑わない、非常にキラキラした目をしている。
「それが今日の、そして未来への平和へとなりますように」
なんか、帝国の時とはエライ違いだな。
「あーあ、姫様は相変わらず誰かを疑うことをしない」
「まあ、姫様がそう仰るのでしたら」
「その豊胸だけでなく、心も広く豊かなお方ですから」
呆れながらも、どこか仕方ないといった表情で、他の戦乙女たちも微笑んだ。
こういうとき、いつもの俺なら「怪しい」とか「罠か?」など思っていたかもしれない。
だが、この時ばかりは違った。
こいつらの目を見れば、何の企みもないことが一目で分かったからだ。
だからこそ、何か苦手な気がした。
「ねえ、ファルガ、どうするの~? とりあえずさ、せっかく来たから歓迎されとく?」
「おお、オイラ、ご主人様にも会いたいっすが、こっちも気になるっす……アレが、本物かも気になるっす」
「う~む、拙者は、殿に従うでござる。しかしウラ殿……あれは、何でござろう。本当に、胸でござろうか?」
「私は、どっちでもいい……いや、どっちでもいいのはここに寄るかどうかの話で……いや、ヴェルトのことを考えると、寄らない方がいい……あんな凶悪な胸は……」
「ったく。だとよ、愚弟」
さあて、どうするか。
ここまで綺麗な女から歓迎されたら、フラフラと男としては誘いに乗りたくなるものだ。
だが、その時だった。
また、弾けた音が響いた直後に、俺たちの頭に何かが流れた。
―――天空戦乙女騎士団に告ぐ。新たな不法侵入の反応あり。数はおよそ三百。先日の地上人たちと思われる。周囲の騎士団は直ちに集結し、これを処理せよ。全騎士団に座標を送る
再び俺たちの脳内に無機質なアナウンスが聞こえた。
「姫様! 数は少ないですが、これは先日の?」
「ええ、それにこの座標、近いです。全員武装準備。迎え撃ちます!」
「「「「「了解!」」」」」
優しい微笑みから一転し、キリッとした表情である方角を見据える戦乙女たち。
一体何がどうなっているのやら。
「申し訳ありません。ゆっくりと歓迎したかったのですが、状況が変わりました。あなた方は我々から少し離れていてください」
いや、それはかまわねえけど、一体どうしたんだ?
「先日より、この世界は、とある地上人の国から襲撃を受けているのです」
「はっ? 襲撃?」
「ええ。目的は、我らの天空領空。我々は国を、世界を、そして民を守るために戦っているのです」
おいおい、ここって伝説の土地じゃねえのかよ。
なんで伝説の場所で、地上ではありふれた理由の戦争をやってるんだよ。
「バカな、天空世界を地上世界の国が見つけたっていうのか? クソが……確かに、この世界の領空を独占できれば……さらには軍事的に活用できれば、その国は、三種族で争う地上世界の戦で大きな力を手にすることになる」
そりゃそーだ。誰も解明していない伝説の土地を手に入れて領土にしちまえば、攻め込まれる心配がなくなる。
さらに、国ごと敵国の真上に移動することだって出来るんじゃねえのか?
もし、好戦的な軍事国家なら、この世界の存在を把握した時点で、手に入れたいと思っても不思議じゃねえ。
「来ました! あなた方は下がってください!」
エルジェラの声と共に俺たちは前方を見た。
すると、雲の隙間をくぐり抜けた、真っ赤に染まった怪物たちがこぞって姿を現した。
「全隊突撃だァ!」
羊の頭に、二足歩行の肉体。
全身真っ赤な体毛に覆われ、三叉の矛を手に、蝙蝠のような翼を羽ばたかせて現れた。
「あれは、魔族の『レッサーデーモン』!」
「バカな、この世界を見つけた地上世界の国ってのは、奴らなのか!」
サイクロプスに続いて、ここでも魔族。
だが、正直その正体を知ったところで俺たちには何もできない。
国を挙げての侵略と防衛。
それが、目の前に広がる世界。
「姫様。先日のような話し合いでは解決しない恐れがあります」
「民を、世界を守るために、ここは戦いましょう」
「もちろんです。ハートの陣形にて迎え撃ちます」
「「「「「了解」」」」」
守る、天空族と。
「っし! 偵察に来たら思わぬ拾いものだぜ! 『天空皇女のエルジェラ』だ! 奴を必ず捕えろ!」
「「「「了解!」」」」
攻める魔族。
その時俺は初めて、人間以外の異種族間の戦いを目の当たりにした。
…………そう思っていたが……
「うわ~、や~ら~れ~た~」
「かてまへ~ん、こうふくしま~す」
……レッサーデーモンの一隊が、メチャクチャわざとらしいぐらい、ゴロゴロと転がって、降参した。
「……またですか……」
なんか、見慣れた光景のように、エルジェラが言った。
「あの、姫様?」
「もちろん、捕虜にします。なるべく情報を得られるように、そして丁重に扱ってください」
「りょ、了解しました……」
どういうことだ?
いや、しかも、レッサーデーモンたちは、何だか嬉しそうにニヤニヤしてる。
こいつら、攻め込んできたんじゃねえのか?
「げへへへ、隊長、やったっすね!」
「ああ、安い給料でこき使われ続けたが、ようやく運が回ってきた」
「へへ、へへへ、天空族には何故か女しか生まれないとか……以前攻め込んで捕らえれた奴らなんか、拷問と言われて……担当の女に……へへへ、男がまったく居ない環境で性欲溜まりまくった天空族の女に立て続けに……代わる代わる」
「俺の先月捕まって解放された俺のダチも言ってた。天国を見たって」
「いいか、野郎ども。情報は小出しにして、たっぷり天空族を堪能するぜ!」
「おうよ! 滅ぼすのは、ずっと先でいいぜ」
……とりあえず、その話が真実がどうかは置いておいて、こいつらどうしようもねえな!
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