28-5
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セカンドの黒炎……!一たび触れれば、呪われた炎が骨まで焼き尽くし、例え魔法であっても打ち消すことができない、最悪の炎。ついにセカンドが、真の切り札を出してきた……!
「もう尺も十分だろ。つうか、いい加減うぜぇよ、お前たち」
セカンドの周りを、ゆらゆらと黒炎が舞う。その炎は、奴の近くに転がっていた、黒い怪物に燃え移る。あれ……よく見ればあれ、サソリの怪物じゃないか!?俺たちが城から叩き落とした!
「いやー、コレも少しは役に立ったな。残りそんなになかったから、あんま回復できなかったけどよ」
まさか……セカンドは、あの怪物の生命力を吸い取ったのか。あいつは、そのためにあのサソリを隠しておいて……
(それなら……俺が。俺が、あそこであいつを殺さなかったから……?)
俺が立てた作戦のせいで、あの怪物はここまで落っこちた。俺は、セカンドに命を吸い取る機会を与えてしまったんだ……!
「俺の……俺のせいで……」
「っ。危ない!」
誰かが俺の襟を掴んで、ぐいと後ろに引っ張った。次の瞬間、セカンドの反撃が始まる。
「消えろやぁぁぁ!」
ゴオォ!黒炎が勢いを増し、蛇のようにのたうつ。その矛先には、力を出し尽くしたクラークが……!
「クラーク!逃げろ!」
「っ!」
アドリアが叫ぶ。クラークは炎から遠ざかろうとしたが、がくんと膝をついてしまう。無茶な戦い方をした反動が、ここで……!
炎が爆ぜる。クラークの姿が、完全に炎の中に消え……
「クラークッ!」
「いやぁ!クラーク様!」
クラーク、そんな……膝から力が抜けそうになる。そんな俺たちを見て、セカンドはニヤニヤと笑った。
「クククッ。まずは一人……」
「それは、ちと早計だな」
え?黒炎の中から、声が……?炎を突き破って、なにかが飛び出してきた。
「ぺ……ペトラ!」
ペトラは丸めていた体を起こすと、中に抱え込んでいたクラークを放した。無事だったのか!だけど、あの炎に触れても、ペトラは平気なのか……?彼女の全身を覆う黒い甲殻は、多少煙を吐いているものの、傷は見られない。
「私の体は、魔力への耐性が強くてな。そう簡単にはやられてやらんさ」
「チッ。だからテメェは、面倒なんだ……!」
な、なんだよ、ペトラにはあの炎は効かないのか!俺は生き返った心地で、ぶはぁと息を吐いた。ペトラはクラークを再び抱え上げると、ひとっ跳びでこちらに戻ってきた。様子を見ていたフランも戻ってくる。
「クラーク!怪我はないか?」
アドリアがすぐさま駆け寄ると、ペトラの手からクラークを受け取った。
「くそ……いい気分とは言えないな……」
クラークは見るからに苦しそうだ。当然だろう、力と力に挟まれたまま、無理やり戦っていたのだから。
「それよりも、ペトラさんのほうが……あの炎に触れて……」
「心配するな、クラーク。彼女は炎に耐性がある。あれに触れても燃えはしない」
「いいや。それは間違いだ」
え?ペトラは渋い顔で(魔物形態の表情は読み取りづらいが)、自分の腕を見つめている。
「私も、そこまで良い調子だとは言えない」
「だ、だが。あなたは、あの炎に触れても平気なんだろう?」
「いいや、あくまですぐには燃えないというだけだ。さっきの一瞬だけで、外殻の一部が溶かされてしまった」
え……そんな、ペトラですら、そうなのか?
「じゃあ、何度も触れたりしたら……」
「危ないだろうな」
ペトラですら……だが、そう言ったばかりにもかかわらず、ペトラは再びセカンドの方を向く。
「だが、すぐにはやられんのも確かだ。私が奴と、一対一で戦うとしよう」
「だ、だが……」
アドリアは言いかけたが、結局唇を噛んで黙ってしまった。今、あいつとまともにやり合えるのはペトラしかいないからだ。
(俺が余計なことをしなければ、こんなことには……)
後悔してもいまさら遅いってのに、俺の頭の中は、そのことで一杯だった。俺が、殺しはしたくないなんていう、下らない意地を張ったせいで……
「桜下さん……桜下さん!」
はっとした。いつの間にか、ウィルがすぐそばに屈んで、俺を覗き込んでいる。
「ウィル……」
「桜下さん。今、何を考えているのかは、分かりませんけど。私は、桜下さんが間違っていたなんて思いません」
え……ウィルは、その黄金色の瞳でまっすぐに見つめてくる。
「だけど、桜下さんが後悔しているのなら……それを、取り戻しましょう。大丈夫、きっとまだ何とかなります」
「お前……」
「私の魂を使ってください。きっと今が、その時です!」
魂を……そうか!確かにそれなら、あの炎に対抗できる……!俺は悪夢から覚めた気がした。
「ウィル……ありがとな。お前の言う通りだ。よし、やるぞ!」
「はい!」
そうだ。まだ、終わっちゃいない!俺は今にも走り出しそうなペトラに待ったをかける。
「ペトラ!あんた一人だけ戦わせるつもりはないぜ。俺も行く!」
「なに?気持ちはありがたいが……どうする気だ?」
「俺たちにだって、切り札くらいはあるのさ。あの大馬鹿野郎に、一泡吹かせてやる……!」
そう。今の今まで、ただみんなの戦いを遠巻きに眺めていたのは、この時の為に。俺には一度きりの切り札があるからだ!
「ウィル!行けるか!?」
「もちろんです!いつでも行けます!」
ウィルは金色の瞳を輝かせて、俺を見つめる。よし!俺はウィルの胸の上に右手を乗せて、呪文を叫ぶ。
「黄泉の岸辺にて出会いし二つの魂よ!今、ここに一つにならん!」
行くぞ!
「
パアァー!まばゆい光に包み込まれ、俺とウィルの魂が一つになる。
フランでも、ライラでもない。ウィルの力なら、セカンドに対抗できる……!
つづく
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読了ありがとうございました。
続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。
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