3-1 雷鳴

3-1 雷鳴


「きゃあぁぁーー!桜下さんっっ!!!」


「っ!」


「桜下殿!ぬおぉ!?」


カッ!二度目の閃光が爆発し、俺は空高く放り出された。ふわふわとした浮遊感。鳥になったみたいで、気持ちがいい……


「桜下!桜下、しっかりして!」


フランが俺の顔をつかんで、必死に叫んでいる。フランも飛んでいるのか?そうか、一緒に飛ぶのも楽しいかもな……


「おうかっ!」


「……フラン?あれ、俺の名前……」


「気が付いた!大丈夫なの?」


「へ?俺は別になんとも……って、うおおぉぉぉ!?」


どこだここ!俺の周りには、何もなかった。遥か頭上に星空が見えるだけだ。いや、これも正確じゃないな。ちゃんと下を見れば、そこに地面はある……何百メートルも下に、だけど。


「お、おち、落ちてる!落っこちてるぞ!」


「いまさら何言ってるの!自分から落っこちたくせに!」


自分から?もしかしてさっきの浮遊感は、俺が崖から落っこちてたってことなのかよ!


「どっどどどど、どうしよう!」


「知らないよ!でも、どうにかするんだ!あなたはまだ、生きてるんだから!」


フランの言う通りだ。でも、何ができるっていうんだ!俺はフランのガントレットのはまった手を固く握った。フランも俺の手を握り返す。くそ、せめて最期までは一緒だ……大地がぐんぐん迫ってくる……


「ヴィント、ネルケーーー!」


ライラの絶叫が虚空にこだまする。ピュウゥゥ!俺たちの周りに、突然つむじ風が舞い始めた。地面に向かって猛加速していた体ががくんと停止し、すさまじいGに押しつぶされそうになる。


「ぐぇ……内臓が飛び出しそうだ……」


「ぐ……でも、勢いは収まったよ。これ、あの子の魔法だ」


俺たちの体はつむじ風に支えられ、ゆっくりと地面に向かって下降していく。俺たちの頭上からは、エラゼムとライラもつむじ風に乗って降りてくるところだった。


「桜下殿!ご無事でしたか」


「おう!助かったよ。けどなんだ、みんなも落ちてきちゃったのか?」


「いえ、あの勇者が崖の一部を吹き飛ばしましてな……みなまとめて放り出されたというわけです」


「あいつ、そんなことまでできんのか?まあでも、これで流石にあいつももう追っては来れないだろ。へへ、ざまあみろだな」


俺が鼻の頭をこすると、唯一空を飛べるウィルがすぃーっとこちらに駆け寄ってくる。


「桜下さん、得意げになってる場合じゃありませんよ!ここから降りて、どうするんですか?」


「どうするって……?」


「下ですよ、した!」


下?だって足元には、地面があるだけで……あれ?


「川じゃないか!」


「だから言ってるんですよ、もう!」


尾根の上からは糸のようにしか見えていなかった川。それがいま、俺たちの足元いっぱいで、ゴウゴウと激しく流れていた。茶色の濁流が激しく岩肌に打ち付けていて、あれに飲み込まれたら絶対タダじゃすまなそうだ。俺は頭上を見上げて叫ぶ。


「ら、ライラー!横に、もうちょっと横に行けないかー!」


「やってるよ!でもこのまほー、横にはあんまり移動できないの!」


「な、なにー!」


それどころか、風の勢いはだんだん弱まってきている気がする。目に見えて下降するスピードが増してきた。


「くそー、やってやる!泳ぎ切れない荒波はな……」


『主様!防壁を展開します、なるべく一塊になってください!』


俺の決意をぶった切って、アニが鋭く叫んだ。かたまれだって?俺はフランとつないだ手を引き寄せ、片手を上に伸ばしてエラゼムのかかとをむんずと掴んだ。エラゼムがライラに片腕を差し出す。


「ライラ嬢。いい気分ではないでしょうが、今しばらくは堪えてくだされ」


「う……」


ライラはしぶしぶといった様子で、エラゼムの腕につかまった。


「これでいいか、アニ?」


『はい。いきますよ……シルドクリサリス!』


アニが叫ぶと、俺たちの周りに半透明の膜が作られた。俺たちが浮かんでいるのも相まって、シャボン玉の中にいるみたいだ。


「アニ、これって確か、そんなに強度はないんだったよな?」


『その通りです。水に沈むことは避けられるでしょうが、岩肌に激突すれば簡単に崩れます。ですので、着水してから風の魔法を解いて、グール娘のなにがしかの移動魔法で川岸まで移動しましょう』


「なるほど。ライラ、それでいいか?」


「わかった。やってみる!」


よし。あと少しで水面だ。濁流が足元に迫ってくる。濡れないのはわかっているんだけど、それでもドキドキするな。ついにアニの張った膜が水面に触れ、それと同時につむじ風がなくなり、俺たちは膜の中にドサドサと折り重なった。内側が球体になっているから、立ち上がるのに苦労する。それでも何とか全員がまっすぐに立った、その時だった。頭上で雷鳴がとどろき、俺たちのすぐ横の川面が突然爆発した。ドバーーーン!


「わあぁ!な、なんだ!?」


「あぁっ!てっぺんです!山の上から、勇者が追撃してきてますよっ!」


なにぃ!?あいつ、どれだけしつこいんだ。うわっ、また!山の上から雷が降り注ぎ、水面が沸騰したかのように爆発した!機雷原を往く軍艦になった気分だ、くそったれ!


「に、逃げなきゃ!でも、どうやって?」


「川の流れに乗るだけでは動きを読まれますぞ!」


『緊急離脱!グール娘、水魔法で我々ごと押し流しなさい!』


「わ、わかった!」


ドカーーン!またも俺たちのすぐわきで水柱が上がる。こんな状態だったが、さすがにライラは魔法に関しては一皮むけていた。無事に呪文を唱え終わる。


「ダッシュバラクーダ!」


ドドドドッ!俺たちの後方から、ダムが爆発でもしたかのような猛烈な波が押し寄せてきた。激流の前では、俺たちは水面に浮かぶ木の葉も同然だった。あっという間に押し流される。


「うわああぁぁ!」「きゃああ!」


くそ、今日はこんなのばっかりだ!俺はまたしても空と大地のありかを見失い、シャボン玉のなかをゴロゴロと転がった。仲間たちの悲鳴も聞こえるが、だれがどこにいるのかもわからない。


「あぁ!前、まえ!」


誰かが絞り出すように叫んだ。前って言われても、どっちが前かもわからない……ぐるぐる回る視界の中で、俺はなんとか体を安定させ、そして目の前に迫っているものをはっきり見た。


「うおおぉぉ!ぶっ、ブレーキ!ブレーキ……」


あるわけないだろっ!俺が心の中で叫んだその直後、俺たちを包んだ膜が波に跳ね上げられ、ポーンと水面を飛び出した。俺たちは再び宙を舞い、眼前に茂る森の中へと飛び込んでいった。




つづく

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【年末年始は小説を!投稿量をいつもの2倍に!】



年の瀬に差し掛かり、物語も佳境です!

もっとお楽しみいただけるよう、しばらくの間、小説の更新を毎日二回、

【夜0時】と【お昼12時】にさせていただきます。

寒い冬の夜のお供に、どうぞよろしくお願いします!


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