1章 モンスター図鑑

1章 モンスター図鑑


この図鑑は、ギネンベルナ王室が編纂した、全国に生息するモンスターの特徴、生態、戦う際の注意事項などを記したものである。これを読めば、読者諸君は危険なモンスターに対する最低限の知識を得る事が出来るだろう。ただし、留意しておいてほしい。ここに記されているのは、あくまでも多種多様なモンスターの一側面に過ぎない。諸君が実際に剣を握り、モンスターと相対する際には、必ずしも本に書かれた知識だけが全てでない事を忘れないで頂ければ幸いだ。


●“危険度”について 

そのモンスター一体のみに対して、人間が戦いを挑む場合の脅威の指針。


S……生物の頂点に位置する種族。人間が大軍を成したとしても、討伐は極めて困難。ドラゴン種などが該当。


A……非常に凶暴。人間単体では歯が立たず、屈強な戦士たちによる軍隊の形成が必要。オーガ、ゴーレムなどが該当。


B……危険だが、熟達した知識と技量があれば討伐可能。ただし一人では苦戦を強いられるであろう。ライカンスロープ、トロールなどが該当。


C……単体では弱く、一人前の戦士なら十分応戦可能。だがこのランクのモンスターは群れを成すことが多く、個としての弱さを補っているので注意されたし。オーク、ゴブリンなどが該当。


D……極めて脆弱、もしくは危険性のない生物群。


●モンスター詳細


・ゾンビ

死霊目 屍人科 危険度C

もっとも一般的なアンデッド(生きていない)モンスター。元が人間で、かつ完全には腐敗していないものが該当する。

人間だった頃の能力と理性をほとんど失ってしまっているため、非常に脆弱。ただし外傷では倒しづらく、攻撃の際は火で燃やすか、銀製もしくは聖水で清めた武器が有効。

アンデッドモンスターとは、死後誰からも弔いをされなかった死者が変容した存在である。生前の記憶に基づき、所縁ある地に巣食ったり、普段と同じ行動を取ろうとする。この時、生前の執着や後悔の念が強いほど、強力なアンデッドになりやすいという報告がある。ゾンビはベースが人間ということもあって、もっとも遭遇機会が多いアンデッドと言えるだろう。墓地が整備された市街地ならともかく、旅先で野ざらしの故人を見つけた場合は、ゾンビになる前にきちんと弔いすべし。

ちなみに、鳥や獣のゾンビの報告例はほとんどない。死者へ祈る習慣が獣には見られないことから、ゾンビ化には“後悔の念”が重要なのではないかとする説が挙げられている。


・スケルトン

死霊目 骨骸科 危険度C+

人骨がベースのアンデッド。

体が骨だけなので、剣や槍などの斬る・突く武器との相性は最悪。炎や雷など一部の魔法の効きも悪い。ハンマーなどの鈍器で、叩くまたは潰す攻撃が有効。

アンデッド化する過程で、何らかの理由で肉を失った死体がこれになる。大抵は腐敗による身体の喪失だが、まれに炎で体を燃やされたゾンビが本種になる事がある。肉がない事以外は基本的にゾンビと変わらないが、骨だけだからかゾンビよりも身軽な場合が多い。

よく似たモンスターに、ボーンゴーレムがいる。こちらが自然発生したアンデッドであるのに対し、あちらは骨を依り代に魔術で動く人工的なモンスターである。当然、本種に有効な聖水などは効かないので注意。


・ドラゴン

逆鱗目 危険度S

爬虫類のような鱗、強靭な四肢、皮膜の翼を持つ最強のモンスターの総称。体の何処かに一枚だけ、向きが逆さの鱗が生えている。

あらゆる環境に適応し、普通の生物が生息できない極圏や深海でも活動可能と言われている。その分類は多岐にわたり、種によって性質は大きく異なる。一貫しているのは、いずれも非常に凶暴であることと、比類なき知恵を持っていることである。個体数は非常に少ないが、もしも暴れたならば一国が滅びかねないほど危険な存在。


・レイス

死霊目 魂魄科 危険度C−

魂のみで実体を持たないアンデッド。霊魂タイプの中ではもっとも下等なモンスター。

単体では人に害をなせないほど無力だが、数が集るとそれなりに悪影響が出るので、群れる前に早めに浄化することが望ましい。

死後肉体を失い、魂だけの存在になったのが霊魂タイプのアンデッドであるが、それら霊魂が最終的に行き着く先がこのレイスと言われている。無数の怨念、思念が凝り固まって集合した姿であり、それ故にまとまった思考が出来ず、ただ無念を喚くだけの存在に成り果ててしまっている。故に浄化するのも比較的簡単であり、ただ祈るだけで霧散する個体も多い。旅先で出くわしたのであれば、元同じ人間のよしみで冥福を祈ってやるのもありだろう。


・サラマンダー

有尾目 火蜥蜴科 危険度A

溶岩地帯に生息し、常に炎を纏っているトカゲ。

大きな個体は雄牛ほどのサイズにもなり、火炎系の攻撃を一切受け付けない肌を持ち、高温の火炎ブレスを吐く危険なモンスター。水系魔法の熟練者で形成された隊をもってはじめて対抗が可能。

火山や火口付近という危険地帯に生息するという特性から、詳しい調査が進んでおらず、まだ未知の部分が多いモンスター。その皮は極めて耐熱性が高く、自身の発火能力の行使や溶岩の中での活動を可能にしている。サラマンダーの皮で作られた装備は決して燃えない耐火性を有することから、超高級品として重宝されている。

余談だが、火の精霊であるサラマンダーとは全くの別生物。あちらの特徴からあやかって名付けられたのが本種であり、直接的な繋がりは無い。


・フィーンド

鬼人目 鬼人科 危険度B

夜叉。額に角が生えた人型モンスター。

性格は極めて獰猛。人間の肉や生き血を好んで食らう、凶暴な肉食モンスター。

オーガの近縁種。オーガよりは小柄で、人に近い姿をしている。ただし理性や知能は一切なく、意思疎通は不可能。戦闘の際は人間同様、首や心臓などが急所になる。

人肉を好んで食らう割に、生息地は主に険しい山岳や深い渓谷の奥地などであり、人里への襲撃例はまれである。このことから、人間は好みであって主食ではない説、繁殖など一部の活動に必要としている説などが挙げられているが、どれも確定には至っていない。


・ゴーレム

可動無機物目 巨像科 危険度A−

石や粘土で作られた人造のモンスター。魔法や呪術で動いているだけであり、生物ではない。術者の命令にのみ従い、自我はもたない。

頑丈な体に加え、生物ではない為怪我などで弱ることがなく、体の核である“要石”を完全に破壊するまで活動を停止しない危険な魔物。魔法が有効だが、かなりの威力がなければ通用せず、材質によって有効な属性も異なる厄介な性質を持つ。

人造魔物という特性から野生で遭遇することは滅多にないが、まれに術の失敗などで術者とのリンクが切れ、野良状態になっている個体が街道に現れる事がある。ゴーレム製造が、術の失敗が少ない上級魔術師に限定されているのはこれを防ぐ為である。また、迷宮やダンジョンの門番として自動生成されるタイプも存在しており、野外での遭遇の可能性もゼロではないことに留意されたし。


・スパルトイ

可動無機物目 竜人科 危険度B−

竜牙兵。竜の牙や骨を触媒とし、地中の鉱物などを原料に召喚されるゴーレムの亜種。

個としては純正ゴーレムに劣るが、スパルトイの最大の利点は製造コストの低さである。触媒さえ確保できれば、土中のほぼあらゆる物質を原料にできるため、量産が非常にしやすい。ゴーレムにない敏捷性も備えており、群になった時の危険性はゴーレムを遥かに凌駕する。これを目当てにした魔術師の間で、竜の骨は高値で取引されているが、国家法により認定量以上の売買は禁止されている。裏取引の現場に遭遇した際は、速かに王国警備兵に通報されたし。


・コボルト

獣人目 狗頭科 危険度C

犬に似た頭部を持つ獣人。

集団で狩りをし、十頭程度から成る群を作る。四足歩行で素早く動き回る他、時には二足歩行をし、簡単な弓矢程度なら使いこなす。

ずる賢く、自分たちでの狩りの他に、ライカンスロープなど大型モンスターの後について回り、獲物のおこぼれを狙う習性を持つ。また時には飛び道具も使用するなど、大型獣人に比べて劣る身体能力を知能でカバーしているようだ。ただし、その上で人間より運動能力には優れるので、油断は禁物である。

毛皮は美しい青色で、加えて耐久性に優れる。コボルト製の鎧は実用性と鑑賞性の両方に優れ、人気が高い。

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