第73話 謎の行動(2)
だが、その考えは扉を開けた瞬間間違いだったと気付く。
「何してるの?ほら、行くわよ。」
シェーンは扉の前で待っていた。それに使用人がちらほら視線に入ってくる。さっきの音を心配してきたのだろうか。というか使用人の視線が痛い。それなのに、シェーンはゆっくりと歩を進め、それも俺にぴったりとくっついて歩く。
俺だけスペードをあげるのは許されないような気がする。それに俺には選択しなどないに等しい。どちらにしようが視線が襲い掛かってくるのだから。だが、一個だけ抗える点がある。
「あの、シェーン様少し離れて歩きませんか?歩きにくいでしょう。」
「そんなことないわよ。・・・それともビスは私が近くにいるのが嫌?」
そんな言葉をはき捨てた。上目遣いでこちらを見ながら。
「い、いえ、そんなことは。」
視線を外し、そんな言葉が出てしまった。
「じゃあ、このままでいいわね。」
そう言うと、腕を絡めてきた。なぜか辺りから黄色い声が沸き起こっているような気がするが、気のせいだろうか。というかこのままではない。むしろ悪化している。
・・・今頭の中であらぬことを想像してしまった。まさかな。俺をからかいたくてしているだけだ。この状況を変えることは出来ないが、せめてシェーンの思惑通りにならないように、気持ちを静め、平静を装う。
「そうですね。このまま行きましょう。」
笑顔を貼り付けそう言った。もちろん視線は合わせずに。
「ふん。・・・」
鼻を鳴らした後、何か言ったような気がするが、聞こえなかった。
「何か言いましたか?」
「何も言ってないわよ‼」
俺が慌てないことが癪に障ったのだろう。きっとそうだ。俺の勝ちだな。・・・何を争っていたんだっけ?
そのあと会話はなかった。ただ、笑顔は忘れていない。チクチクと視線が刺さってくるがそこだけはやめなかった。
おそらくシェーンも笑顔を張り付けていることだろう。ただ、周りの声が黄色いものではなく、色々な色が混じったものになっている。それでも、俺はシェーンの顔を見る勇気は出なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます