第50話 覚悟

あっという間に着いてしまった。着いて欲しくないと思えば思うほど早くついてしまう。まあ、感覚の問題なんだけど。いつもは普通に見える建物が魔王城のように感じてしまっていた。宿の前で立ち止まってしまう。



「これなら、フロワさんに捕まっていた方がマシだったかな。

さて、どうするかな。」



まとめて相手をするべきか、別々に相手をすべきか。

俺が尻込みしていると声を掛けられる。今回魔王になるだろう人に。



「あら、どうしたのビス。こんな早い時間に?そんなところに突っ立ってないで入ったら?」



冷や汗が止まらない。覚悟していたことだとは言え緊張が拭えない。討伐に向かっている方が楽だ。だが、ずっとここに突っ立っているわけにはいかないのだ。ゆっくり、ゆっくりと歩を進めた。魔王城の入り口へと。これからどんなことが待ち受けていようとも立ち向かうと決めたのだから。宿に入ると、モルテの姿はなかった。




「ん?ああ、モルテは帰ってきてないわよ。時々あるのよ。それも特定の日にね。」



初耳だった。毎日家に帰っているものだと思っていた。特定の日っていうのも気になったがその特定の日が何なのか辺りを見回して理解する。テーブルにはハウが座っていた。朝っぱらから酒を飲んでいる。



「おう。ビスか。お前も飲むか。」



「やめておくよ。俺まだ未成年だし。」



「なんだよ、付き合い悪いな。」



相当酔っているらしい。息が酒臭い。テーブルを注視するとすでに5本空き瓶が並んでいた。今話すのは得策ではないと思うが、時間がない。



「それより、ハウさん、リベさん話いいかな?」



俺の改まった言い方にリベは困惑していた。ハウの方は酔っぱらいすぎていて何を考えているのかわからない。



「わ、わかったわ。でも、ちょっとそこに座って待ってて。片付けなきゃいけないことがあるから。」



そういうとリベが2階に向かっていった。



「おい、話ってなんだ?」



「リベさんが来てから話すよ。」





モルテがいなくてよかったと心から思う。ハウの機嫌が相当悪いように感じる。

気を引き締めなければ。




リベが戻ってくるまでに流れていた空気感がとても堪えられないものだった。

辺りには酒をコップに入れる音、流し込む音、コップをテーブルに下ろす音、その三つだけが木霊していた。

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