第47話 硬直


俺は、今玉座にいる。ルトさんに呼ばれてここにいるのだ。

有無を言わさない感じだったから来ざる終えなかった。

まあ、断ることはなかったと思うが。



「よく来てくれた。ビス。・・・さっきは済まなかったな。

見苦しいところを見せてしまった。」


何とも答えにくい。ハウに言ったみたいに言えればいいのだけれど、相手は一国の王だ。そうもいかない。まあ、ルトさんなら言えるんだろうけど、ね。



「いえ、そんなことはありません。それより、用とは何ですか?」



王様は何だか言いづらそうにしている。なんだ。何があったのか。



「王が言わないのであれば私から伝えますが、いかがしますか?」



「いや、大丈夫だ。私から伝えるのが筋だろう。

実はな。ビス。・・・ディグニが消息を絶った。」



俺は固まってしまった。というか時間が止まったような感覚に襲われる。ディグニが消息を絶った?なんで。確かに最近一人で外に出ていくようになっていたが勝手にいなくなるような人ではないはず。・・・死んだとも考えにくい。いや考えたくないのだ。ヤバい。嫌なことしか頭に浮かばない。



「・・・ビス様・・・ビス様しっかりしてください。王の御前ですよ。」



ルトさんに肩を叩かれてやっと時間が動き出す。



「も、申し訳ありません。少し動揺してしまいました。」



「まだ、まだ子どもですね。それでは誰も守れませんよ。」



ルトさんはそう吐いて王様の横に戻っていく。

痛いな、本当に。確実に痛いところを突いてくる。



「止めぬか。ルト‼はあ、よい。動揺するのは当然だ。気にするな。」



俺は何も答えられなかった。なんと答えればいいかわからなかったのだ。

頭に何も浮かばない。情けないな、王様に気を使わせてルトさんの言う通りではないか。俺からの言葉は返ってこないと判断したのかまた王様が話始める。



「実はディグニは昨日までレーグル王国にいたのだ。

それが今日になってツァールから連絡が入ってな。ディグニが消えたと。

あいつは勝手に消えるようなやつではない。何かあったとしか思えない。」



俺はツァールやクラフトがいたのにどうしてと思ってしまった。

今の思考ではまずい。悪い癖が出始めた。必死に戻そうと藻掻く。



「それと言いにくいことなんだが・・・これは今この場にいる者しか知らないことだ。この話が広がれば混乱するからな。やっと復興が軌道に乗り始めているところだ。そうなるのは避けたい。・・・言いたいことはわかるな。」



正直レーグル王国にすぐにでも向かいたい。

俺は必死に抑え込む。飛び出したい気持ちを。



「・・・はい。」



だが、俺の思っていたことと王様が考えていたことは違った。



「ビス。お前にディグニを探す任を与える。まずはレーグル王国でツァールに詳しく話を聞くとよい。それと連れて行けるのは一人までだ。いいな。」



「止められるのかと思いました。」



「はははっ。私も学習しているのだ。勝手に出ていこうとするものは雰囲気でわかる。」



王様は遠くを見つめている。嫌なことを思い出させてしまっただろうか。もう絶対に触れないあのことを。周りも気を使って触れようとしてこなかったからな。



「そうですね。それでわからなかったら王、あなたは無能ですよ。」



そこまで言わなくてもいいだろう。なんだか今日のルトさんはいつもよりきつい。虫の居所でも悪いらしい。まあ、理由はなんとなくわかるが。



「ビスの次は私か。八つ当たりするのはやめないか。お前らしくもない。」



「何のことでしょう?」



「はあ、まあいい。」



王様は追撃を諦めた。俺でもやめる。いつもの状態でもダメなのにあんな異様な雰囲気を纏ったルトさんに勝てるわけがない。それでも一撃入れた王様はすごかった。



「ビス。今すぐ決められるか?」



心の中では決まっている。本人も快く受け入れてくれるだろう。

ただ、それ以外が問題であった。



「少し時間をいただけませんか。説得に時間がかかりそうなので。」



「うむ。わかった。決まったら教えてくれ。ただ、そんなに時間はやれない。もしダメであれば他をあたって一刻も早く探し出してくれ。・・・もうあんな思いはしたくない。」



「承知しました。」




俺は自室に戻ってきた。以前ディグニと泊まっていた部屋だ。戻る途中ルトさんに呼び止められる”絶対に連れて帰ってきてくださいね”と満面の笑みで言われた。俺は数秒そこで止まっていた。意識が戻るとルトさんはいなくなっていた。おそらく、ディグニが帰ってきたら半殺しでは済まないだろう。



「はあ、今日は疲れた。」



一日にいろんなことがあり過ぎだよ。それに明日も大変なことになりそうだ。でも、あいつしか考えられないからな、仕方ない。それにちょうどいいと思った。今あいつは離れるべきだ。そんなことを考えながら眠りについた。


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