第40話 宿



「リベさん。久しぶり。今日泊まってもいい?」


「あら、ビス。久しぶり。ええ、さっきモルテから聞いているわ、

大丈夫よ。それにいつも一部屋は取ってあるから。」



リベはいつも通りの笑顔を向けてくれる。

どうやら俺の考えすぎだったみたい。



「ありがとう、リベさん。」



「それにしても、そのさん付け止めてくれない。

なんだか背中辺りがくすぐったいのよ。」



「はははっ。ハウさんにも言われたよ。鳥肌が立つって言われた。」



そこにちょこちょここちらに向かってくる物体がいる。俺は膝を下した。



「ビスお兄ちゃん、おかえり。」



自然とにやけてしまう。こんな姿シェーンには絶対に見せられない。



「おう、ベル。ただいま。大きくなったなぁ。」



ベルを持ち上げた腕にはずっしりと重みがかかる。



それにしても、この笑顔を見ると、さっきまでの疲れが癒されるようだ。

しかし、ベルの口から衝撃の言葉が出てきた。



「ビスお兄ちゃん、くさいです。」



その無邪気な笑顔から吐き捨てられる言葉はどんな攻撃よりも痛かった。



「ふふふっ。シャワー浴びてきなさい。ベルに嫌われるわよ。」



「うん。そうするよ。ベルまた後で遊ぼうな。」



ベルを下ろして部屋に向かう。ベルは手を振って見送ってくれる。



「ベル、なんか悪いこと言っちゃったかな。

お母さんがそういったら喜ぶよって言われたから行ってみたんだけど。

さっきモルテお兄ちゃんにも同じこと言ったら様子変だったし。」



「ううん。そんなことないわよ。お兄ちゃんたちも忙しいの。

気にしなくて大丈夫よ。」



怖い会話が聞こえてきた。なんていうことをベルに吹き込んでいるんだ。

前言撤回する。やっぱり怖さが降りかかってきた。一番心を抉ってくる形で。



聞かなかったことにするのが一番だろう。

はあ、ベルがどんな風に育つか楽しみだよ。




部屋に着き、部屋中を見渡す。崩壊前とほとんど変わらない部屋。



「変わってないな。ここも。」



国の復興はまず居住地の整備から行われた。

そしてみんなの苦労の甲斐があって2年ぐらいで国民の住むところは

困らない程度までに回復した。まあ、雨風が防げる程度だけど。


家々はこじんまりしていたがないよりはマシだった。

そしてこの宿ができてすぐの頃はほとんどここに泊まっていた。

ディグニと一緒に。以前より狭くなっていたけれど、

雰囲気は変わらずだった。



でも、傭兵として本格的に仕事をするようになって

ここにはあまり来なくなっていた。ほとんど城で過ごしていた。



一人でも戦えるようにみっちり扱かれていたのだ。いろんな人にね。

それに一人ではどうしても来づらかった。

モルテと組み始めて、久しぶりに泊まってみたくなったのだ。

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