第13話 攻撃系魔法

 食堂に着き、昼食をとる。

 また、ペルが立ちっぱなしでいる。

 また、同じことを聞きそうになったが、寸でのところで止める。

 同じ言葉が返ってきそうだから。



 テーブルに目をやると、

 オシャレなでもお腹が膨れなさそうな料理がそこにはあった。



「そういえば、ディグニは?」



「まだ仕事があるようですので、先にいただいてください。」



「ほら、早く座って。ビス。」



 椅子をペルが引いてくれる。

 いくつかテーブルに食器が並べられている。僕は外側から使っていく。

 そんな様子を見ていたシェーンが一瞬固まったが

 なにか呟いて自分に言い聞かせていた。



 一つ皿を開けるたびにペルが料理を運んでくる。

 すべて料理がきたのか、ペルが来なくなる。

 美味しかったけど、何か物足りない。お腹もそうだがこの空間自体が。





 昼食を食べ終わって、図書室に移動する時ペルがルトさんに呼び止められていた。

 どうやら用事があるみたいで一旦ペルが抜けた。

 シェーンは気にすることなく進む。いや、気にしないために進んでいるのか。

 図書室についたので、部屋に入るのかと思ったら、シェーンは足を進めていた。



「えっ。図書室ってここじゃなかったっけ。」



「そこよ。ちょっと食休みするわよ。」



 そういってシェーンは足を進める。

 しばらく進むと外に出る。

 行きたかったのは外か、と思ったがシェーンは足を止めない。





 やっとシェーンが足を止める。

 目的地は外にポツンと立っている木下だった。

 シェーンは背伸びをする。



「んー。あー気持ちいい。」



 そういうと、その場に寝転がった。

 こんなことをして大丈夫なのかと心配する。



「大丈夫よ。ここは城から離れているから誰にも見られないわ。

 ほら、そんなとこに突っ立ってないでビスもこっちに来なさい。」



 シェーンの横で寝転がる。

 すると、風がそよぐ。

 心地いい風だ。寝てしまいそうになる。



 そんなことを感じているとシェーンが

「ああ、そうだ。ビス。これはペルには内緒よ。二人の秘密ね。」と言ってきた。


 不覚にも初めて見た無邪気な顔を見てドキっとしてしまった。

 気付かれたくなくて目をそらしてしまう。

 当の本人はそんなこと気にしていない。



「うん。」



「約束よ。小指を出して。」



 言われた通り小指を出すと、シェーンの小指を絡めてくる。

 何回か空中で振ったあとに「絶対よ。」といって小指を離した。

 切実なそして細いが力強い声。

 矛盾しているけれど、僕にはそう聞こえた。「うん。」と小さく答えた。



「ねぇ、ビス。今楽しい?」



「うん?楽しいよ。色々なことが知られて。」



「そう、よかった。」



 そのあと、十分ぐらいそうしていた。



「さあ、食休みはおしまい。図書室にいくわよ。」



 パン、パンと服に着いた草を払い図書室に向かった。






 図書室に戻るとすでにペルがいた。



「ペル。早いわね。用事はもういいの?」



「ええ。思ったより早く終わりました。シェーン様たちはどちらへ?」



「食休みに外に行っていたわ。」



 なんだか不思議な感覚。

 二人とも探りあっている感じではあるが、深く突っ込まない。



「さあ、勉強始めるわよ。」



 シェーンはすぐに勉強モードになる。

 午後は攻撃系魔法について学んだ。攻撃系魔法は治癒魔法より簡単だった。

 攻撃に使うモノをイメージして放つ、これが基本だ。

 イメージしやすいようにそのもの自体がどうできているかを重点的に勉強する。



 水だったら水素と酸素でできているとか、

 火は物質の急激な酸化で引き起こされてできるとか。

 ただ、それだけではわかりづらいと思ったのか、実物も用意してくれていた。



 時々僕が眠気でうとうとしていると、シェーンに頭をパシンと叩かれる。

 それを何度か繰り返す。



 それを見て不便に思ったのか、ペルが「外でやって見ますか」と促してくれる。

 水、火、植物、雷、氷など思いつく限り掌の上に創り出す。

 シェーンはぽかんとしている。

 やっぱり僕は治癒魔法の練習をしたいと思いそのことを伝える。



「わ、わかったわ。図書室へ戻りましょう。」



 そのあとは、治癒系魔法に時間を費やした。





 天井から射す光の色が濃くなっていく。

 シェーンは最初僕が魔法を使うのを見ていたが、

 飽きたのか途中で自分の勉強に夢中になっていた。



「そろそろ夕食の時間ですね。」



 僕はどうするんだろうと思っていると、ディグニがやってくる。

 服の下に白い何かが見え隠れしていた。



「おう、待たせたな。」



「ディグニ、今日はどうするの?」



「ああ、今日というより、しばらく城に泊まる。」



 内心嬉しかった。魔法の練習ができると。



「それとちょっと話がある。こっちに来てくれるか。」



 シェーンたちがいるところから離れる。

 二人に聞かれたくない内容なのだろうか。ディグニについていく。



「ここら辺でいいか。あのな、急で申し訳ないんだが、

 俺は二週間後レーグル王国に向かう。危険な旅になると思う。ビスはどうする?」



 どうするとは?と思ったがディグニの表情を見て

 真剣に答えなくてはならないと思いすぐに決められなかった。





「すぐには決められないよな。まだ時間がある。

 ゆっくり決めてくれ。残る場合、居場所は整えていくから心配するな。」



「わかった。考えとく。」



「ああそれと、まだあの二人には言わないでくれ。」



 ディグニが耳元で囁く。僕の予想はあたっていた。

 あまり表情に出さないように努力しよう。そんな決意をしていると、

 ディグニはすでに二人の元に戻っていた。

 なんだか楽しそうに話している。僕はすぐに駆け寄った。



「ディグニ、今日泊まるなら、あの話聞かせてよ。」



「ああ、いいですよ。ちょうどいいですから夕食を食べながら。」



 シェーンはウキウキしていて、

 食堂までの道のりはなんだかスキップをしているように見えた。






 食堂で二人は楽しそうに話していた。

 知識がないからか話についていけない。



 一段落ついたのか、気を使ったのかわからないが、

 ディグニが僕に話を振ってきた。



「そうだ。ペルから聞いたぞ。魔法を学んでいるんだってな。楽しいか?」



 ディグニに魔法のことを話していいことがわかって嬉しくなる。



「うん。楽しいよ。治癒系魔法はまだ失敗することあるけど

 ・・・でも、攻撃系魔法は完璧だよ。」



 ただ、言ったあとにシェーンに言われたことを思い出し、

 顔から血の気が引いた。ディグニの声さえ聞こえていなかった。



「すごいな。ビス。天才なんじゃないか」



「はあ、ディグニやめてよ。ビスはすぐ調子に乗るんだから。

 これ以上調子に乗ったら大変なんだから。どう責任取ってくれるの。」



 一瞬シェーンが睨みつけるような仕草をしたが、どうやらセーフだったらしい。


 僕は一安心する。



「はははっ、すまん、すまん。」



「笑い事じゃないのよ。もう。」



 楽しい夕食の時間はあっという間に過ぎていった。






 夕食後は、ペルに客室というところに連れて行かれる。

 シェーンは用事があるらしく食堂で別れた。豪華な部屋だった。

 ベッドも見るからにフカフカで飛び込みたくなる。



 ただ、ぺルの目があったので必死に抑える。

 部屋やお風呂についても一通りペルに説明して「それでは、私はこれで。」

 といって部屋を出ていった。




 ディグニに「自由時間だから、好きにしていいぞ。俺はここにいるから。」と

 言われるが、やることがない。正直魔法の練習を早くしたかったが、

 シェーンも用事があるみたいだし、ペルも忙しそうに去っていった。



 さすがにほぼ一日中僕に付き合ってくれたのだからお願いしづらい。

 しばらく考えて図書室に向かう。

 さっき食堂で二人が話していることが気になって。






 図書室に着くとシェーンがいた。



「あら、ビス。あなたも来たの。」



 シェーンは昼とは違う恰好をしている。

 それに机に本とノートを広げて何か書き込んでいた。



「うん。食堂で聞いた話が気になって。」



「へぇ。」という声が飛んでくる。僕は辺りをキョロキョロする。

 そういえば本の場所が分からない。シェーンが指を指してくれる。



「あの話が書いてある本はあっちにあるわ。

 あっちにまとまっているから好きに読んで大丈夫よ。」



「ありがとう。」



 いくつか本をとってシェーンの机と少し離れたところに座って読み始める。






 どれぐらい経っただろうか。すでにシェーンはいなくなっていた。

 僕も本を元に戻して図書室を出る

 。途中道に迷ったが、傭兵がちらほらいたので、聞くと快く答えてくれた。

 僕のことをどう捉えているのだろうと思いながらも道を進んでいく。




 お風呂に入り終わり、部屋に戻るとすでに寝ていた。

 僕も布団に入る。また、あの時間がやってくる。



 それに考えないといけないことがある。

 でも、今日は疲れていたからなのかすぐに意識をなくした。

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