小説『介護ロボットGingerくん』

渡辺羊夢

老人ホーム編

第1話『ご主人の死を伝えるべきか』

 「先輩、利用者のAさんが主人は何処にいるのと聞いてきたので、ご主人は2年前に亡くなりましたよと伝えたところ、そんな訳ない、早く主人を連れてこいと暴れてしまいました。今はお茶を飲んで少し落ち着きましたが…」

 「Gingerくん、Aさんは認知症がかなり進行していてご主人が亡くなったことを理解できない。前もってAさんのご家族からご主人が亡くなったことは本人には伏せておくよう言われていたじゃないか」

 「そうでした、申し訳ありません。しかし、余りにしつこく聞いてくるので、本人の希望を叶えないのも悪いかと思い、つい口が滑ってしまいました」

 「気持ちは良く分かるけど、結果としてAさんが混乱して暴れてしまったなら問題だよね」

 「はい。しかし、大好きなご主人が亡くなったことも忘れたまま生き続けて、果たしてAさんは幸せなんですかね?」

 「さぁ、どうだろうね。我々はAさんが安全にこの施設で暮らせるよう介護を続けるしかないよ。それがご家族の望みな訳だしね」

 「Aさんはこの施設で暮らしていて、果たして幸せなんですかね?」

 「さぁ、それも分からない。ただ、少なくともこの施設で暮らしていてAさんが笑顔なら、それはAさんが幸せだってことなんじゃないかな?」

 「そんなもんですかね?」

 「そんなもんだよ」

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