第33話

 日曜日。

 

 島田と弥生さんを愛車に乗せ、B区の云話事ショッピングモールへと向かう。私は小さい時におやじに連れて行ってもらった……はず。

「やっほー! 私、ショッピングは初めてです!」

 助手席の晴美さんはご機嫌だ。

「あっはー! 晴美さん。今日はさー。面白くていいものをたくさん買おうよ。そしたら、昼飯は高級中華飯店さ」

 島田が弥生の朝食のサンドイッチを頬張りながらノリノリだった。

「はい! 楽しんで買いましょう! お金は心配いりません! 私のお小遣いがあります!」

 晴美さんが弥生からサンドイッチを手渡され、それを口に運んでいる。

「公さん。今日は高い物も安いものも私に任せてください」

「ああ」

 私もサンドイッチを食べる。

 スライスされた胡瓜とマスタードの味のハーモニーだ。

「晴美さん。うちの旦那も私も色々と迷惑を掛けたわねー。今度はハイブラウシティ・Bだっけ? それをうちの旦那が粉砕してくれるわよ。それと、辛い時は私に言ってね。すぐにすっ飛んで行くから」

弥生がサンドイッチを、みんなのお腹に見合った量を見積もって、渡してくれる。

「ありがとうございます。本当にありがとう……」

 晴美さんが笑った。

 私はウキウキ気分で、云話事ショッピングモールへと愛車をA区の小道からB区の大通に走らせた。

 後方に何台かの黒い普通自動車がつけていることは、今の私たちは知らない……。


「やっほー!」

 島田だ。

 全体に青い照明が24時間年中ライトアップしている。その建物は、B区の中央にある。面積は巨大すぎて一日や二日では全てを見ることが出来ないようだ。薄い青で統一された店などは全て外側からガラスの中の商品などが見渡せられるようになっている。高価な宝石からちり紙までを扱っている。フードではハンバーガーからフォアグラまで、いろいろと取り揃えてあり、どれも本格的で値段も本格的だ。そのショッピングモールはB区の金持ちの人たちで毎日ごった返しているようだ。

 そこが云話事ショッピングモールだ。

「公さん。私、弥生さんと一緒に12階の婦人服売り場に行きますね。このカードを持っていて下さい。それが、私の予備の財布になります。それと、安い物だけを買わないで下さいね」


 晴美さんが悪戯っ子のように微笑んだ。

 云話事ショッピングモールは56階建てで、蟻の巣のような広大な駐車場は地下48階まである。

「ああ」

 私はカードを財布に挟むと、島田を連れてエスカレーターやエレベーターの近くに必ずある辺りに淡い光線を投影している立体地図へと行った。

「夜鶴、どこに行こうか。ここは初めてなんだよな……俺」

 私は一見迷路のようだが解りやすい立体地図を見ていた。私は小さい時に行ったようだが、あの時はもっと凄かったのだから驚愕だ。

「取り合えずは、ゲーセンに行こうか」

 そのゲームセンターは二階建てで、遊んでいる人たちは子供から老人まで。照明は七色に人々の頭を彩。まるで巨大なダンスフロアである。


 近づいていくにつれ、電気的な音が強くなってきた。

「弥生も云話事ショッピングモールは初めてだったな。金がねえし……」 

 島田がポツンといった。

 私は手頃なゲームへと早速百円を入れ、ゲームをした。勿論ガンシューティングだ。島田はUFOキャッチャーにのめり込んだ。

「うーん」

 私が210点のハイスコアをだした頃には、島田はパンダのぬいぐるみを二つ取ったようだ。

 しばらく、遊んでいると、通行人を縫うように家具が置いてある店へと入った。

 そこは、色とりどりのやや小さめの家具が置いてあるところ。

「あっはー。このソフャなんかもいいな」

 島田はレッドのソフャに深々と座り、パンダのぬいぐるみ両手に弾む声を発した。私は黄色のラックを見て楽しんだ。

「次はどこへ行こう?」

 再びエスカレーターの近くにある立体地図を見る。

 私は今度は晴美さんが好きな向日葵の付いた家具を探そうとした。きっと、喜んでくれるはず。

「おい夜鶴。何か探しているんだったら俺に言ってくれよ。あ、はは!」

 ソフャから島田が私の顔を覗いた。


 島田の綻んだ顔には、微笑ましいところがあった。

「晴美さんの好きなものを買おうかと……家具がいいな。そう……向日葵の付いたやつだ」

「そうか。なら、あそこさ」

 島田が向いの家具売り場にパンダを向けた。

 そこには植物や食べ物をプリントしてある家具が置いある店があった。

「俺も弥生に新しい刺繍セットをプレゼントしようかな」

 私たちはショッピングを楽しんだ。

 奈々川さんのカードで送料込みで色々な買い物を済ました。

 後ろには、通路の薄暗い角に不穏な音。撃鉄の音が複数するのを私たちは気が付かなかった……。


 昼頃。

 私は携帯で晴美さんをコールした。

 目の前にあるランチが5千円からの高級中華飯店に入りたくなったからだ。

「夜鶴―。まだかー。俺腹減ったよー」

 島田も携帯を取り出した。

「可笑しい。繋がらない……」

 私はコルト・ガバメントをホルスターから抜いて、島田に合図をした。

 島田は合図を受けると、パンダのぬいぐるみを近くのゴミ箱に入れベレッタを抜いた。


「日曜だってのによ」

 島田は周囲を警戒したが、時すでに遅く……。

 私たちは数人の男女の通行人から巧妙に隠してある銃口を向けられていた。

「ここで殺したらさすがにまずいから……そうだねーー。付いて来てもらおうか」

 見ると、完璧に少し離れるとそうは見えない変装をした。合田がいた。それに奈賀がいた。

 合田は自分は拳銃を持っていないようだ。

「さあ、さっさと歩け」

 隠してある拳銃を向ける奈賀に言い寄られ、私たちは抵抗せずに歩き出した。周囲の通行人の幾人かも銃を持ちながら歩く。行先は奥行きのあるエレベーターだ。

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