第24話
電話で仕事先と島田に連絡をして、しばらく仕事は休むことにしたと言った。
「夜鶴―! 俺も連れていけー!」
と島田だ。
田場さんにも同じことを言われたが、無理だった。
ガソリンスタンドの喫茶店には、背広姿の客が二人いた。カウンター席にいる。私たちは窓際のテーブル席に落ち着いた。
ネズミを思わせる髭面のマスターにコーヒーを注文すると、私は口を開いた。
「奈々川さん。君は何時頃家出したの?」
「確か二年前です」
奈々川さんが俯いた。
「あの家は君の?」
「ええ。空き家だったので、大屋さんを呼んだら契約してしまって」
「お金は家から持って来たんだ?」
奈々川さんが頷いた。
「私……家から貯金を一億ほど父に内緒で下ろしてきたんです」
い……一億も……。か……金って、一体?
「そういえば、奈々川さんはハイブラウシティ・Bのことをどこで知ったの?」
「何年も前です。夜、父にコーヒーを淹れて、父の書斎へ行ったら机の上で父が感心していました。都市開発企画書類を見つめて、この方法なら私の目的も達成できると……」
「その都市開発企画書類が……」
「ええ……。ハイブラウシティ・Bです。それと矢多辺さんにも言われたんです。父と目的が一緒になったと言ってました。今の都市開発プロジェクトが一変するとも言っていました」
コーヒーがきた。
熱いコーヒーを一口飲むと、
「奈々川首相と矢多部の目的って、一体何だろうか?」
「私にも解りません……。父は自分の目的だとか政治のこととかは一切話さないのです」
確かに、奈々川さんが政治の知識をあまり持っていないのはそのためなのであろう。
「?」
二杯目のコーヒーを頼もうと、店の奥に視線を向けると、喫茶店のマスターがいない。二人の客がこちらに近づいていた。
「奈々川首相の娘さんですね?それと、夜鶴 公さん。首相がお待ちかねです」
私たちははたと気が付いた。
首相の情報網に引っ掛かった。
私は銃を取り出そうかと思案した。相手はたかが二人だ。私なら1秒もしないだろう。
しかし、確かにこれから首相に会いに行くのだから、今撃っても仕方がない。
「解りました。父に会います」
よく見ると、だいぶ前に島田とガンショップで会った。あの銃を見ると恍惚になる男がいた。嵐が吹き去った頭をしている。もう一人はごく至って普通の男だ。
「夜鶴さんとやら……抵抗するなよ。死ぬぞ」
銃を見て恍惚になる男ではないもう一人がニコリと言った。
腰には銃を携帯しているようだ。
「それでは、行きましょうか?あ、その前に」
銃を見て恍惚になる男が私に手を出した。
「危ないもの持ちましょう」
「解った」
私は上着のホルスターからS&W500を取り出した。
その銃を見て男は恍惚な表情になった。
「夜鶴さん! 銃は持って来ちゃダメです!」
「……すまない」
「さあ、では行きましょう」
銃を見て恍惚になる男が先導し、私たちは愛車ではなく彼らの地味な車に乗った。
「あの……。父は怒っていますよね。でも、夜鶴さんは関係ないはずですよ」
車の後部座席に座った私と奈々川さん。
「うーん。そうだねー」
銃を見て恍惚になる男は気楽に言ったが、その言葉はこれから何が起きても可笑しくないといったところである。
「まあ、大丈夫。死んだりしないよ」
私と奈々川さんはもう離れることはないはず……。けれど、これからどうなるのだろうか?
「俺の車に……あのガンショップでの出来事だけれど、犬の絵に傷を付けたのはなんのためだ?」
私は疑問を口にした。
「その時は単純に殺された奈賀の容疑者だと思ったのさ」
「それで、マークをわざわざ付けてその後は?」
「ズドンさ。当たり前だろ」
銃を見て恍惚になる男と話を続けた。
「どうして、犬の絵に傷を付けると解った」
「……若いあんちゃんに、10万払って他人の車に傷をつけろと頼むとどうなるか? 傷を付けるときには必ず目立つところに……そう犬の絵にね。」
銃を見て恍惚になる男はのらりくらりと話した。
「そうか……」
当然、今は藤元のせいで捕まったのだが……。
「その後は、奈賀が何故か生き返ってきて……奈々川お嬢様の捜索に急展開をしたのさ。そして、どうやら奈賀を撃った男と同棲でもしているのだろうと大胆な発想をしたんだけど……どんぴしゃだったね。家が空っぽだったからとっくに逃げたんじゃないかとも思ったけれども……なあ。同棲している男を早くに撃ってもいいのだけど、それだとA区とB区の戦争になる可能性もあるし……。なるだけ戦争を回避してほしいと奈々川首相のお言葉があったものでね」
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