第22話

「やったぞ。奈々川さんが俺と結婚してくれるって」

「本当かー!」

 電話越しに島田が騒いだ。

 家では興奮したスケッシーが奈々川さんと遊びまわっている。

「それで、それで、奈々川さんと一緒になるのはいいけど、戦争はどうする?」

「奈々川さんが総理大臣に話すってさ。きっと、うまくいって、ハイブラウシティ・Bも戦争もなくなるさ」

「やったー! って、式はいつなのか? 俺たちは一応準備の時間がないと」

「だいぶ後になるみたいだ」

「式には来てくれるのは嬉しいけど、弥生さんはどうするんだ?」

 電話越しに島田と弥生が相談している様子が解る。


「行きたいそうだ」

「危険じゃないかな?」

「大丈夫さ。最新式の軽量マシンガンがある。夜鶴、今日は休みか。だったら奈々川さんにマシンガンを買うか?」

「うーん……。いやいい」


 島田が「どうして」と言ったが、私は銃は自分だけが持つのがいいと思った。

 そういえば、奈々川さんはここの現状を知っているのだろうか?結婚するのはA区とB区の戦争をするようなものだと?

「夜鶴さん……。A区とB区の関係が悪化するのは知っています! そう、今よりも。でもA区の人たちはいい人たちです……! そのA区の人たちから労働を取り上げてしまうハイブラウシティ・Bをどうにか打ち消したいのです……! きっと、その政策ではA区の人たちは悲惨なことになるとは思えます!絶対、打ち消さないと……私はもう逃げません。戦います。夜鶴さんのためにも……!」

 奈々川さんが電話をしている私の後ろから、いきなり声高々に言いだしてくれた。まるで、長い間封印されていた政治家の血が騒いで、体内から噴き出したかのようだった。


「ひゅー、ひゅー。言ってくれるぜ奈々川さん」

 島田が電話で茶化す……。私は赤面して下を俯いた。

「なあ、今家に来ないか? 弥生と俺に奈々川さん紹介してー」

 私は後ろを振り向いた。

「いいですよ。私たちの未来のためにもなるんですから」

「ひゅー、ひゅー」


205号室

「お邪魔します」

 奈々川さんだ。島田の家にスケッシーと入ると、奈々川さんが挨拶をした。

「よく来たね。奈々川さん。うちの旦那がお世話になっているよ」

 コーヒーの匂いがするキッチンから、弥生がキーコ、キーコとやって来た。

「とんでもありません」

 奈々川さんの返事に、島田が二カッと笑って、コーヒーを持って来た。

 三人?で島田の家のリビングにあるブルーのソフャに座る。

「島田。本当にいいのか?」

 島田は熱いコーヒーを私に渡し、「おっけー」と言う。

「島田さん。ありがとうございます。でも、人が傷ついたり人が死んでいいことなんてなにもないです。……藤元さんの力を借りましょう」

 奈々川さんが静かに言った。

「藤元……。あいつで大丈夫か?確か向かいに居るんだっけ?」

 島田が熱いコーヒーを飲んだ。

「藤元さん。いつも私のところへ来て、宗教の勧誘をしているわ。とっても良い人よ」

 弥生も熱いコーヒーを飲むとこだった。

「あ、やっぱりか?」


 私の言葉に、

「ええ」

「藤元か……あいつならできるんじゃないか?」

 島田がまったく逆のことを言うと、私は熱いコーヒーを飲んだ。適度の苦みがあって心が落ち着いた。

「呼んで来ましょうか?」

 奈々川さんが立ち上がった。

「ちょっと待って、誰かが入団を考えているって言えば、喜んで来るわ」

 弥生はニッコリと言った。


 …………


 藤元が喜んで来た。

「いやー、僕の宗教に入団希望者がいるって……やったー。今なら抽選で……」

「藤元。実は……」

 私の説明。それも総理大臣の娘の奈々川さんと結婚し、そのせいでA区とB区の戦争で死亡した人を生き返らせるという。そんな相談をした。

「え、いいけど。僕の役目だし」

「やったー。藤元さんありがとうございますね」

 奈々川さんが喜んで涙を見せる。

「これで、私たちが結婚しても誰も死なないですね」

「ああ。でも、B区の奴らも生き返らせるのか?」

「うーん。僕はこの云話事町で誰も死んでほしくないんだ。B区とA区は関係ないな」

「さっすが藤元さんです」

 奈々川さんが立ち上がり、

「私。夜鶴さんとA区の人たちが好きです。ここで、私たちは立ち上がります! ハイブラウシティ・Bを無くしましょう! A区の底力を見せましょう!」

「おおー!!」

 ?の藤元とスケッシーも立ち上がった。


 藤元が今日も仕事だと言って、出掛けて行った。きっと、云話事町TVだろう。

 しばらくしてから、弥生さんがリビングの花柄のテレビを点けた。


「お早うっス! 云話事町TVです!」

 藤元が美人のアナウンサーの後方から自転車で大急ぎでやって来た。

「藤元さん。遅刻っす」

「おっけー」

 いつもの住宅街を背に美人のアナウンサーがマイクを握り直して、

「今日の天気は?」

「えーと?」

 藤元が空を見つめる。

「多分……曇りです。」

 美人のアナウンサーも空を見つめたが、藤元に視線を戻し、

「そして、今日の運勢は?」

 藤元が小さな本をポケットから取り出し一読みし、

「うーんと、今日は……危険が迫っています……」


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