4-4 天職と嘘つき


「「きゃーーー!!!」」


 扉越しに二人の美女の叫び声が聞こえる。

 いやいやいや、なんでまざってんのさ舞香さん……


 やはり扉を開けたのは舞香だったが、俺の予想とは反して大した騒ぎにはならなかった……まぁ、ネット上ではお祭り騒ぎの真っ最中だがね。


 ていうかもう一回言うけど、本当にあいつなんで混ざってんの!?


 舞香がボロを出さずにいられるとは思わない。うん、絶対何かしらやらかしそう。いつもあいつは危なっかしいんだ……


 ……ていうか俺はいつまでここに閉じ込められてればいいんだ?トイレ行きたい……



 *



「うわっ!これ、めちゃくちゃ怖くない……?」


「大丈夫よ、舞香ちゃん。

 もしゾンビが襲ってきてもお姉ちゃんが守ってあげる!」


「こ、怖いこと言わないでよ〜」


 二人は今ホラーゲームの実況配信を行なっている。


 コメント欄を見る限り相変わらずすごい盛況具合だ。視聴者数も10万人から、約20万人と2倍に増えている。


 やはり、すごいなこの二人は……

 俺も音を消して携帯を使い見ているが内容はともかく、画面映えがとてもすごい。凄すぎる。


 いや、改めて本当によくやってるよな俺は。

 普通こんな二人に迫られたら確実に落ちてるはずだろ……まぁ、毎回落ちかかっているのは否めないが……



「てか、yukiお姉ちゃん本当にゲームうまいね。私全然うまくないからこんなプレイを配信していいか心配だよ……」


「そんなことなら大丈夫だよ〜。

 みんな舞香ちゃんのどんなプレイでも見たいはずだから。そうだよねー?」


 雪音がそう問いかけると、コメント欄はすごい勢いで「そうだよー!」や「当たり前じゃん!」や、「よしよししてー!」で埋まっていった。


 ……最後のに関しては兄として複雑な心境である。


 でも、気持ちは分かるぞみんな。俺もアイドルモードの舞香によしよしされたい……


 けど、本人に言ったら絶対してくれそう。だけどされたらきっと落ちちゃう。きゅ、究極の選択だ……って何考えてんだ一人で……


 それにしても本職の雪音はともかく、舞香もいい顔で実況するなぁ。


 本当にこの子は天性の人気者なのだろう。こう言ってはなんだが画面の向こうの距離感が彼女の魅力を最も引き立てせていると感じる。


 雪音にしてもそうだ。

 普段のクールな雪音もいいが、配信時の元気いっぱいの可愛い彼女もたまらない。


 雪音に関しては普段もしてみてと言っても絶対してくれなさそうだけど……


 ていうかめちゃくちゃ盛り上がってるな。なんか羨ましい。後で配信が終わったら俺も入れてもらおう。


 ブブッ


 携帯にメールが来たようで振動する。差出人には絵梨花の文字。


 うん。猛烈にいやな予感がする……


『こんばんは。舞香ちゃんに聞いたけど、体調は大丈夫?帰りにご飯を作りに行くから待ってね!もうすぐ着きます!』





 …………や、やばい!

 やっぱり嫌な予感がすると思った。本来なら嫌ではなく、めちゃくちゃご褒美で思いっきり甘えたいんだけど状況が状況だ。


 とてつもなくやばい!しかももうすぐだと!?

 俺はすぐに


『気持ちは嬉しいけど、今雪音たちが家で配信中だから来ちゃダメだ!』


 そう彼女に送った。

 幸いにも彼女はメッセージをすぐに確認してくれたらしく『了解!』というメッセージが届いた。


 よかった……流石にこの状況でさえ俺の心臓はバクバクのバクなのに、絵梨花ちゃんまで来たとなったら心配すぎて、逆に熱などすぐに下がってしまうくらい青ざめてしまうよ……


 俺は声を出さずにホッと胸を撫で下ろすと、玄関から ピーンポーン と音がなった。



 …………え?


「な、なんだろ、私見てくるね……」


 扉越しに舞香がそう言ったのが聞こえた。

 玄関に言った舞香は、すぐに戻って来た。


 だが、聞こえる足音は先ほどとは違い二人分になっていた。


 まさか……いやいや、そんなはずは……だって、了解って……


「こんにちは、絵里です。

 今日は私もyukiちゃんのライブに出演させて貰いますね。よろしくお願いします」


 と間違いなく絵梨花ちゃんの声が扉越しに聞こえてきた。……いや、なんでー。

 


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