3-3 荷解きと会遇




雪音さんとの再会から一週間程度経過した。


あれから特に母や雪音さんから連絡はなく、俺も普通に・・・いや、いつも通り芸能人二人と騒がしく過ごしていた。


絵梨花ちゃんは忙しいらしく、落ち着いたら部屋に遊びに来て欲しいと何度も言っていた。一昨日に明日行くよといったら撮影が忙しすぎて、部屋が汚いから今はダメと言われた。遊びに行くのはドラマ撮影がひと段落ついてからになりそうだな。


舞香に関しては、林間学校から一緒に寝ようと何度も誘ってくるようになった。

俺も流石にこれを許可してしまうと、ヤバい気がして今日まで誘いを断っている。


とにかく林間学校が終わってからブレーキが壊れたように二人とも更に積極的になったのだ。マジで早めに仙人に就職しなければ、俺の理性は崩壊間近である・・・




今日は土曜日。この頃、休日でも朝早くに目が覚める事が多くなってきた。

うわ、けど6時は早すぎて流石に引くわ・・・



「俊介おはよ〜」


リビングに行くと舞香が洋服に着替え支度をしていた。今日は髪をまとめておらず、そのままおろした綺麗な黒髪に私服は珍しい。


いや、ストレートに私服も新鮮でかわいいな・・・



「ん?舞香は今日も仕事か?」


「うん!まだドラマの撮影があってるからね」


「こんな朝早くに働くなんて大変だな。

 体調管理はしっかりするんだぞ」


「ありがと!

 けど、もうすぐ撮影も終わるし大丈夫だよ」


「ほう。で、どんなドラマなんだ?

 妹の初ドラマはさすがに俺も見たい」


「ダメ!絶対にダメ!」


いや、凄い勢いで拒否るじゃん・・・

演技している姿が恥ずかしいのか?

ま、今度内緒で調べてみよう。


「・・・まぁ、いいや。

 今日の帰りは何時くらいになりそうなんだ?」


「今日は早くて15時だよ!だから帰ったら

家で一緒にごろごろしたい。だめ?」


うっ、かわいい・・・

現役アイドルのあざとい頼み方は流石に反則だ。こんなの断れるわけがない


「あぁ、いいよ。待ってるな」


「やった!じゃあ下に縁さん待ってるから私もういくね!大好きだよ〜」


投げキッスをして、外へと出る舞香。

可愛いすぎるな、この何分かの間にいくつの可愛いを振り撒くつもりだ!?


舞香を見送り、いつも通りリビングで朝食をとり、少しダラーっとすごして勉強をはじめる。


次のテストは絵梨花ちゃんよりいい点数を取りたいからな。






ふぅ。流石に疲れた。

時刻は10時になっており、大体3時間くらいしていたな。じゃあ、休憩がてら動画でもみるとするか。


そう思っていたところインターホンが鳴る。見に行くと、画面には雪音さんが映っていた。すぐさま俺は玄関へと向かう


「雪音さんおはようございます。 

 今日が引越しだったんですか?」


「おはよう俊。

 えぇ、業者にたのんで荷物は運び終えたのだけど、荷解きが私一人じゃすごい量で時間かかりそうだから手伝ってもらえないかな?


 もちろん、バイト代ははずむわよ?」


「それはもちろんですよ。

 あと、バイト代は結構です。」


「ありがとう俊!

 けど、それじゃ私の気がおさまらないわ。


 なら、昼ごはんでも一緒にどうかしら?

 私が作ったものでよければご馳走させて頂くわよ?」


「それは楽しみです!

 なら準備をして伺いますね」


「えぇ、待ってるわね」


そう言って手をヒラヒラと振り、

雪音さんは自室へと戻っていった。


それから、俺は準備をして彼女の部屋へと向かう。インターホンを押すと、玄関はあいており入ってきていいと言われ、俺は部屋へと入る。


「ごめんね、散らかってて。」


雪音さんは作業をしていたらしく、綺麗な水色の髪をまとめ、薄着で汗をかいている。

部屋着なのか?胸元が開いていて谷間が・・・いや、煩悩は忘れろ!


「お、俺は何をすればいいですか?」


「ふふ、なにを緊張しているの?

 じゃあそっちの荷物頼んでもいいかしら」


そう言って雪音さんは手前のダンボールを指さす。気を取り直して作業を始めよう。

俺は指定された箱をあけるが


「っ!?」


「ん?あ、ごめん。下着の箱だったわね」


何事もなかったかのようにそう言い、作業を続ける雪音さん。昔からマイペースというかなんというか・・・とにかく!作業を進めよう




「ねぇ、俊?」


「どうしました?」


あのハプニングから黙々と作業をしていると、雪音さんから話しかけてきた。


「私が転校した時、寂しかった?」


「・・・なんで今更。 

 まぁ、寂しかったですよめちゃくちゃ」


確かにあの時振られたが、キスをしてくれたのだ。それから少しはもしかしたらチャンスがあるかもと思っていた。だが、期待に反して彼女からの連絡等は一切なかった。


「・・・私も寂しかったんだよ?」


雪音さんはそう言った。

だが、雪音さんの寂しいは俺の寂しいとは違い、俺たちと遊べなくて寂しいという意味だろう。


もう俺はわかっている。


「確かにあれだけ三人で遊んでましたしね。

そうだ!今度小吉も呼んでご飯でも食べましょうよ!」


「・・・うん。

 それは楽しそう!楽しみにしてるね」


雪音さんは少し時間を開けて、俺に返事をした。


それから俺たちは思い出話に花を咲かせた。思い出を話している時の雪音さんの顔はいつもの大人っぽいクールな顔というよりも、元気いっぱいの18歳の女の子って感じだった。このギャップにみんな惹かれていくんだろうな。


それと、雪音さんと連絡先も交換できた。

どうやら携帯を変えたことで連絡先が新しくなっていたらしい。



「あ、もう12時だ。楽しかったら時間が経つのって本当に早いね」


「本当ですね、一旦休憩しますか?」


「うん!だけど・・・」


そう言って、雪音さんは部屋を見まわす。

彼女の部屋はまだ荷物を広げた段階であり、ごちゃごちゃなままだった。


「・・・これじゃ、ご飯食べれないね」


「あー。

 もしよかったら俺の部屋来ますか?」


「!  いいの?」


なんか凄く驚いたと思えば、嬉しそうにニコニコしながらそう言う雪音さん。

そんなにご飯が食べたかったのか?


「いいですよ。なら行きましょう」


「う、うん!」



「おじゃましまーす・・・」


雪音さんはそう言い、恐る恐る部屋へと入る。


よくよく考えたら雪音さんを部屋にあげてしまってよかったのか?雪音さん有名配信者だったよな。てか、気軽に遊ぶ約束とかしたら迷惑じゃんか!


「・・・あのー、雪音さん?

 さっきの三人で遊ぶ約束、もし迷惑なら断ってくれていいんですよ?」


「え?どうして?」


「・・・雪音さんって有名配信者のYukiですよね?」


「え! 知っててくれたの!」


「え?あ、はい!

もちろん配信当初からチェックしてますよ」


「嬉しい!すっごく嬉しい!」


ぴょんぴょん跳ねてめちゃくちゃ笑顔になった。そんなに知ってて貰えて嬉しかったのか?


「でもそれがどうして?

 せっかくだしご飯くらい食べましょうよ」


「いや、ファンとかもいるだろうし

 変な噂でもたったらあれですから・・・」


「そんなこと気にしないでいいわ。

 絶対に遊びますからねー!」


そうやって嬉しそうに言う雪音さん。

彼女の楽しそうな顔を見ていると、あの頃の俺たちに戻ったみたいでどこか懐かしかった。


「あ、洗面所かりてもいい?

 手を洗いたいの」


「はい、全然いいですよ」


そう言って雪音さんは洗面所へと向かう。

と思ったら彼女はすぐに俺の元へと戻ってきた。何故か大きな目を少しだけ細くして。


「ん?もう手を洗ったんですか?」


「・・・ねぇ、俊?」


「はい」


「この歯ブラシは何?

 あなた一人暮らしだったわよね」


質問がよくわからなくて、洗面所を覗き込むと二つの歯ブラシがそこには並んでいた。


「あぁ、それは舞香のですよ?」


「ま、舞香ってだれ!」


え?どうしたんだ?・・・あーなるほど。

雪音さんが引っ越したのは二年の始まりだから、舞香が妹になったってのは知らないのか。


「舞香ってのは・・・」


「たっだいま〜!今日は予定より早く撮影が終わったの!俊介あそぼー・・・え?誰?」


説明をしようと思ったら、玄関から仕事終わりの舞香が帰ってきた。まじで、この子はいつもタイミングが絶妙だな・・・


「・・・? 

 !? なんで『Amour』の斉藤舞香さんが、俊の家に?」


流石トップアイドル。

顔を見てすぐに雪音さんは誰が部屋へと入ってきたか認識したようだ。


「・・・は?俊?あんた誰・・・

 ん?もしかしてYuki?

 なんであんたが俊介の部屋に?」


おーい舞香さーん、それアイドルがしていい顔じゃなーい。


めちゃくちゃ人相悪く雪音さんを睨みつける舞香。


「そんな事どうだっていいわ。

 それよりなんで貴方こそ俊の家に?」


舞香に負けず劣らずの迫力を出し、雪音さんも舞香を睨みつける。


「は?」


「何よ」


「いやーあの、二人とも・・・」


「「いいから黙ってて(なさい)!!」」


「・・・はい」


やばい二人とも喧嘩腰で怖すぎる。

止めようと試みたが二人の迫力に気圧され、付け入る隙すら見つけることができなかった・・・


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