第235話 初めての贈り物1
部屋で飼っていた真っ白なお蚕様が繭になり、真っ白な生糸になりました。
「立派な糸が出来ましたねぇ。あとは草木で染めて機で織れば、雪村さまのおっしゃるような紐になりますよぉ」
熱湯で茹でたり灰汁で精錬したり、と様々な工程を経て出来た糸は、真珠のように美しく輝いている。お蚕様の冥福を祈って手を合わせた後で暫く考えて、私は根津子にお願いした。
「やっぱり色はこのままにするよ。今度、機織りを教えてくれる?」
*************** ***************
……しまったな。
私は御殿の前で兼継殿の仕事上がりを待ちながら、何でこんな無鉄砲な事をしたんだろう、とぼんやり反省していた。
上手に出来たのが嬉しくて、つい考え無しに飛び出して来ちゃったけれど。
別に急ぐ必要なんて無かったんだよ、いつもの桜姫のお迎えの時で良かったのに。そしてこれまた間が悪い事に、今日は仕事が忙しいらしく、兼継殿はなかなか御殿から出てこない。
夕陽があの木のてっぺんに隠れるまで待とう。もし、それまでに出てこなかったら出直そう。
そう決めて待っていたら、夕陽が木に隠れる直前、いきなり湧いて出てきた雨雲に隠されてしまった。
「……」
「どうした? もう桜姫を迎えに来る時期か。今回は少し早いな」
このタイミングでこれかぁ、何だか本当に間が悪いな。
ぼんやりとした嫌な予感に気付かない振りをして、私は元気に挨拶を返した。
「こんにちは、兼継殿。今日は兼継殿にお渡ししたいものがあって参りました」
夕陽を隠した雲はみるみるうちに空を覆い、あっという間に雨になった。
慌てて兼継殿のお邸に駆け込んだ私は、侍女が渡してくれた手拭いで髪や肩を拭きながら「そんなに雨に当たらなくて良かったですね」と隣を見上げてぎょっとする。
兼継殿は、結構な感じで濡れていたからだ。
私が濡れずに済んだのは、羽織でガードしてくれていたからみたい。
「兼継殿、申し訳ありません」
「何がだ。私の方が身長が高いからな。雨に当たるのも早い」
謝った私に、兼継殿が苦笑して濡れた前髪を掻き上げる。
センターパートで長めの前髪の先から雫が落ちて、私はぽけっと兼継殿に見惚れた。
おお……水も滴るなんとやらと申しますか……さすが乙女ゲームの攻略対象だな。
ゲームではこんなイベントは無かったけれど、あったら絶対にスチルが表示されているよ。
そんなあほな事を考えていたら、私を見下ろした兼継殿がちょっと表情を硬くする。
「顔が赤いぞ。風邪をひいたのではないか? すぐに湯の用意を」
「こ、これは違います。私は平気です!」
「平気なものか。こんなに顔が熱いではないか」
私のほっぺたを両掌で挟んだ兼継殿が、こつんとおでこで熱まで計ってきた!!
ぎゃああああ!!
悲鳴を必死で呑み込んだら、周囲の侍女たちが代わりに絶叫した。
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