第199話 正宗再来5


「……はい?」

「差し入れを貰った者は、その入れ物にお返しを詰めて返すのが礼儀だぞ。知らんのか」

「!? そんな蜜なご近所付き合いみたいなこと、大名同士でもやるものなのですか!??」

「俺とお前の仲だ。当たり前だろ」


 私と正宗の仲なら、そんな蜜な遣り取りは必要ない。

 何よりあの手籠と風呂敷は越後に置きっ放しだ。そうだ越後!


「お待ち下さい。そもそもあのかすてらは『龍の祀り方』を教わった礼として頂いた筈。それならばと、私はあれを越後の直枝殿にお届けしました。手籠とお返しは直枝殿から頂いて下さい」

「ば、馬鹿! お前は正気で言っているのか! そんな事を奴に言ったら毒饅頭が返ってくる! だいたいあれはお前にやったものだ。何故お前が食わん!?」

「? あの菓子は、本当は桜姫にお渡ししたかったのでは?」

「桜姫? あの天女と見紛うばかりの美しい姫の事か。何故だ?」


 正宗が本気できょとんとしていて、私も釣られて首を傾げた。

 何だか話がかみ合わない。


 ゲームでは『桜姫の依頼』で、雪村が奥州に『怨霊討伐の手伝い』に行く。

 そしてそれを数回繰り返した後、雪村が「館殿から預かってきました」と『正宗の手作りお菓子』を持ち帰る。


 そのイベントが発生すると、通常エンドと雪村エンドで『大阪夏の陣の後、桜姫が館軍に保護される』イベントが挿入されるんだけど……


 そういえばこっちの世界では、私がうっかり「沼田城代だ」って名乗ったせいで、桜姫を経由せずに、直接こっちに依頼がきてたんだっけ。

 私も桜井くんも『正宗の手作りお菓子』は桜姫のアイテムだって思い込みがあったから、そこでおかしくなっているのか。


「申し訳ありません。ちょっと勘違いしていたようです。かすてらは越後でおいしく頂きました」


 照れ笑いで誤魔化したけど、正宗は ふん、って顔をして踏ん反り返った。

「仕方がない。手籠については勘弁してやる。中身だけ寄越せ」


 ……言っている意味が解らない。



 ***************                ***************


「雪村さまぁ、お食事の用意なんて私達にお任せくださいぃ」

「そうしたいのはやまやまなんだけど。館殿が私の料理を所望なんだよ」


 根菜が入ったざるを渡しつつ、根津子と厨勤務の家臣たちが心配そうに私を見ている。


「だって雪村さま、お料理なんてした事ないじゃないですかぁ」

「そう言ったんだけどね。塩むすびと味噌汁だけでいいんだよ。無茶振りしてるのはあっちなんだから」


 偉そうに言っているけど、私は竈を使った事がないし、羽釜でごはんなんて炊いた事がない。

 竈の火加減なんかは厨担当の家臣たちにおまかせだ。


 味噌汁の出汁用に昆布を入れてから、私は包丁を手にした。

 塩むすびだけでいいやと思っていたのに、正宗が「お前、戦の時は汁物を作ると言っていただろう。それを食わせろ」とイチャモン……いや注文をつけてきたから。


「お気に召さなくて怒り出した時の為に、何かおいしいのを作っておいて」


 現世で言えば料理長にあたる御台所頭に保険をかけて、私は改めて具材にする根菜を手に取った。



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