第164話 正宗再来3
「おい。自分の言葉には責任を持てよ!」
「ですから私は「解ることならお教えします」とは言いましたが、龍の祀り方は解りません。そこはご自分でどうにかして下さい」
帰ろうとする私を引き止めまくり、正宗はまだぶつぶつ言っている。
龍の祀り方は上森に聞かなきゃ解らない。正宗もそれは解っているけどプライドが邪魔して出来ないんだろう。でもそれはどうしようもない事なので、私は別のことを口にした。
「それとですね、今後はあのような迎えは無用に願います。家臣が驚きますから」
言い終わらないうちに、正宗が頭を掻きむしって怒鳴り出した。
「~~~~っ! 早馬も駄目、龍も駄目と、お前は何故そう拒絶ばかりする! 俺はどうしたらいいんだ!?」
「普通に文を出して下さいよ」
「嫌だ! 返事が来ないと気が狂う!!」
頭を掻きむしって天を仰いでいる正宗を見ながら、何となく理解する。
あ、この人、既読無視が嫌なんだな。
いつの時代も似たようなもんなのかなぁ、そんな事を思いながら正宗を眺めていて、ふと思い出した。
正宗は家族の愛情に飢えてるキャラだっけ。
父親と弟を自ら手にかけ、母親からは疎まれた挙句に毒殺されかけた、っていう、チャラ男厨二キャラとは思えない重たいバックグラウンドを持っている。
だから桜姫に執着するし、強引にでも嫁に取りたがる。
ゲームの正宗ルートはそういう展開だ。
それを思うとさすがの私も慈母のようなキモチになった。
「お返事は必ず差し上げますよ」
「「お断り」の返事ばっっかりだけどな!」
慈母のキモチで返事をした私に正宗が憎々しげに吐き捨てる。……そういえば過去七回お断りしたら押しかけてきたんだっけ。
はははこいつめ。しかし私は慈母のキモチのまま話を続けた。
「ではこうしましょう。私はふた月に一度、越後に行く予定がありますから、その時に怨霊退治をしませんか?」
慈母のホホエミの私に正宗が胡散臭い視線を向けたけれど、具体的な日取りが提示された事で一応は納得したらしい。
私はやっと帰路につくことが出来た。
まだ塞いでいない『歪』に、ほむらがするりと滑り込むと「嘘をつくなよ! 絶対だからな!」と正宗が怒鳴る声が追ってきて、私は苦笑した。
あと数回、怨霊退治に付き合えば『歪』はすべて塞がるだろう。
『歪』がすべて塞がったら、私はもうここには来ない。奥州は、ほむらを使っても遠すぎる。
それまでに『正宗の手作りお菓子』は貰えるかなぁ。そこまでは頑張りたいな。
*************** ***************
『歪』から外に出ると、目の前に六郎と小介、他に数人の家臣たちが松明を掲げて待ち構えていた。
「よかった雪村様、戻って来た!」
小介が情けない顔で膝に手をつき、がっくりと項垂れる。その背をばしばし叩いてから六郎が私の方に駆け寄ってきた。
「申し訳ありませんでした! 主をお守りする事も叶わないなど、情けない限りです……っ!」
こっちもこっちで深々と頭を下げる。
あの状況じゃそりゃ無理だよ、兄上の許可も出てたんだし。
でも想像してたより沼田は混乱してたっぽい?
私は慌てて「ごめんみんな。心配をかけて」と皆を見渡して謝った。
「北端の『歪』から戻られたと、東端に式を飛ばせ!」
六郎が指示を出し、ばたばたと場が乱れる。奥州から戻るとしたら北端か東端の『歪』だろうと、二手に分かれて張り込んでいたらしい。
ちなみに『式』というのは、戦の時に軍配者を務める僧侶や陰陽師が、本陣と部隊間の連絡に使う『式神』の事なんだけど。その陰陽師まで駆り出されているなんて、まるで戦の様相だ。
まずい。思ってたよりすごく大事になってる……!
これ、ふた月後にまた行ってきますって言っていいと思う!?
それに越後は越後で、何でバグったんだかわかんないけど兼継殿の「忠告イベント」が雪村で発生してるし。
正宗イベントは先行き不安だよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます