第7話 可憐な姫はバッドエンドを回避する
信厳公が亡くなってからふた月が過ぎた。
私は外出先で摘んだ花を桜姫に渡すために、姫の部屋へ向かっていた。これは数日おきのルーティンになりつつある。
何故ならゲーム中の雪村がそうしていたからだ。これは母上に続いて父上まで亡くした姫が元気になるまで続けなければならない……んだけど。
正直、私は迷っていた。こうして姫との好感度を上げて雪村ルートに入った場合、この世界でも私は死ぬのだ。
どうしよう……私、自分の死亡フラグたててまで姫とイチャイチャしたいかな?
姫はか弱くて可愛いから守ってあげないと、とは思う。でもそれとこれとは話が別なんだよ。
私としては姫との好感度はほどほどにセーブして、出来れば円満にフラグを折って、誰か別キャラのルートに誘導したい。
だとしたら誰がいいだろう。「カオス戦国」は
それ以前に、誰のルートでも雪村って死ぬんだよね。私が死なないで済むルートはどれだ。通常ルートですら大阪夏の陣後だからエンディングでナレ死だよ?
うーん……
強いていえば兼継ルートだけは、関ケ原の合戦後にエンディングだから雪村が死ぬ描写はない。
あ、よく考えたら兼継でいいんじゃない?
個別ルートに入ると桜姫は夢の中で、剣神公から天に
それを聞いた攻略武将が「姫の身を
ただ兼継は
私としてもこちらの都合で、ヤル気まんまんの狼どもに子羊差し出すような真似は心が痛むしね。まして桜姫があんなに内気だとますますだよ。
……よし、姫には兼継ルートに進んで頂こう。
そして兼継と一緒に天に還ってもらいましょう。
*************** ***************
「姫、雪村です。お加減はいかがですか?」
いつも通り声をかけたけれど、中から返事がない。おかしいな、姫は部屋から
内気な姫でも雪村にはそれなりに懐いている。返事がないなんておかしくない? そこまで考えて、何かあったのではと不安になった。
私がプレイしていた時の桜姫は、元気に首をつっこむ選択肢ばっかり選んでいたからそんな印象なんだけど、この世界の桜姫は本当に繊細なのだ。
人知れず倒れていてもおかしくない。
「姫!失礼します!」
私は勢いよく
中では本当に桜姫がぐったりと
慌てて身を起こさせると、青白い顔の桜姫が白くなった唇を震わせていた。 何か言いたそうなんだけど聞き取れない。
「誰かある!医者を……!」
部屋の外へ呼びかけた瞬間、桜姫が思いのほか強い力で私の胸元を叩いてきた。
あ、生きてる
そう思って改めて周囲を見ると、桜姫の陰に
姫の膝上にも、あんこが入った食べかけの餅が落ちている。
……まさかでしょ?
慌てて部屋に入ってきた姫付きの侍女に「水を」と命じ、私は姫の背中をばしばし叩き始めた。
「雪村はわたくしの命の恩人ね」
いやそれより、こんな事で好感度稼いでどうするよ私……。
「いえ、ご無事で何よりです」
今考えた事はおくびにも出さず、私はにっこりと微笑んだ。好感度は稼ぎたくないけれど、積極的に嫌われたい訳でもない。
「おもちを喉に詰まらせたなんて恥ずかしいわ。どうか内緒にしてね?」
「はい」
「ふふっ、ふたりだけの秘密ね?」
ふたりだけの秘密……そんな甘美な響きが似合うイベントだっただろうか……
それはさておいて、私は先日言われた兄上からの提案を桜姫に伝えることにした。
「お館様が
一応お伺いという形はとっているけれど、ここはもう選択の余地なく来て頂く。
何故なら『兄上の用事』というのは、上田に兼継が訪ねてくると文が届いたから、出迎える為に帰るのだ。
いよいよ姫と
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