黒と奴隷と救済者
クロノパーカー
第1話 奴隷少女との出会い
それはこのビュオチタン国、王都の隣の町
ミョルフィアでは言わずと知れた優しき少年である。
「暇やなー」
今日もいつも通りだな。
非常にやることがない。
「少し散歩に行ってくるか」
そう言って俺は腰かけていた椅子から立つ。
コン コン
「?」
不意になったノックに疑問をうかべる。
誰だろう、俺の知人はそこまで多くない。
しかも今日は誰か来る予定もない。
「まあ、ドアを開ければ分かるか」
そう言って俺はドアを開ける。
ガチャ
「やあ、久しぶりですね」
ドアを開けると真っ黒のコートに身を包んだ男がいた。
年齢は中年位だろうか?
「えっと…誰でしたっけ?」
「おや、お忘れになられましたか?」
うん、知らんよ。
「私は一ヶ月程前に盗賊に襲われていたところを助けていただいた商人です」
「あぁ!あなたノベルさんか」
「はい。あの時はありがとうございました」
ノベルさんはこのあたりではかなり有名な商人だ。
「それにしても今日はいつもと格好が違うんですね」
そうノベルさんは別名ワイシャツ商人とも呼ばれる程にワイシャツしか着ないのだ。
俺はそこまで関わってはいないが、それでもワイシャツ以外を着ているところは見たことがない。
「まあ、いろいろあるんですよ」
「はあ、それで今日はどういったご用件で?」
「今日は功次さんに頼みごとで向かわせて貰いました」
「ノベルさんからの頼みごと?」
「今はお時間大丈夫でしょうか?」
「全然大丈夫ですよ」
めっちゃ暇してたしな。
「ちなみに頼みごとってどんなことですか?」
「はい。少し待ってくださいね。こちらに」
ノベルさんが呼んだのは…
「女の子?」
そう女の子だ。ボロボロの服を着て傷痕がかなりある女の子だ。
「えっと、ノベルさんこの子はどちらで?もしかしてさらって…」
「いやいや違いますよ」
「なんだ。じゃあその子はどなたで?」
「この子はですね、ある貴族の家にいた奴隷です」
「は?」
ん?待て待て。どういうことだ?奴隷?
こんな小さい子が?
「え?どこの貴族の奴隷ですか?」
「功次さんも知っているはずですよ。このミョルフィアの貴族と言ったら…」
「デルタルト伯爵…」
「はい、この町の政権のトップでありこの町の一番の悪人でもあります」
デルタルト伯爵。俺はいやと言う程知ってる。この国の貴族の一人であり一般市民である俺を何故か異様に嫌っている。何度も刺客を送られている。
「でも何であいつの奴隷をノベルさんが?ノベルさん奴隷商は嫌っているでしょう?」
「いや私の常連さんの一人にデルタルト伯爵の使用人がいましてね。その方がこの子を出た私に預けて来たんですよ」
「でも何で使用人が主人の奴隷を?」
「なんでも一週間程前にデルタルト伯爵が何者かに暗殺されたようでしてね」
「えっ!本当ですか!?」
マジかよそれは助かる。
「はい、ご存知でありませんでした?」
「いや~全然知りませんでしたよ」
知らんかったマジで知らんかった。
「でも何でデルタルト伯爵の使用人がこの子を?」
「なんでもデルタルト伯爵はこの子に暴力などを与えて反応をみて楽しんでいたそうで、ほとんどの使用人はいつもかわいそうにと思っていたそうです。そしてデルタルト伯爵の死後この子を連れ私のところに来られて。このこを引き取って欲しいと言ってきてですね。」
「あーなるほどそういうことですか」
なるほどね。デルタルト伯爵のすることはさすがに使用人も酷いと思っていたようだな。
「でも、何でこの子を俺のところに?」
「それについてですが、この子は奴隷です。何かを学ぶことも出来ずに酷い仕打ちを受けてきました。何かの技術があれば私のところで雇うことも出来ましたが」
なるほどね。
「ましてやこれほどの若いとさすがに労働力としても難しいところです」
「はあ」
さすがに商人だな。物事を合理的考えてる。
「で、それでなんですが駄目を承知して申しますとこの子を引き取って貰えませんか?」
え?引き取る?俺が?
「それはまた何故ですか?」
「私はもう50過ぎたおっさんですし商人です。
収入が良いときもあれば悪いときがあるのでこの子の面倒を見るのはさすがにきつくてですね」
そういうことか。確かにノベルさんは有名な商人だ。ただそれはできる限りの安く売っているからでもある。そのため収入はそれなりであるのだ。
「だからまだ若くて収入も安定している俺に貰って欲しいと、そういうことですね」
「はい。飲み込みが早くて助かります。無理な申し出かもしれませんがこの子を引き取って…」
「いいですよ」
ノベルさんの言葉を最後まで聞かずに返事をする。
「よろしいのですか?」
「はい。いいですよ。どうせお金もそこまで使う事もないですしなんせいつも暇してますしね」
「ありがとうございます。あなたにも断られたらどうしようかと思いましたよ。」
ん?俺にも断られたらってことは。
「ノベルさんってここ以外にも頼んできたんですか?」
「はい。私の店の常連さんや知り合いの商人のところにも頼んできたんですけど見事に断られましてね」
まあ、そりゃそうなるわな。いくら常連といえども子供一人分の生活費が増えるともなると流石にきついだろうな。
「ではどうぞ煮るなり焼くなりご自由にどうぞ」
「いや俺にはそんなこと出来ませんよ」
「知ってますよ。いくら奴隷といえどもあなたはそんな酷いことをしないことくらい」
ただの商人の冗談か。
「では私はこれで失礼しますね。この度はありがとうございました」
「任せてください。ノベルさんも頑張ってくださいね」
ガチャ
そうしてノベルさんから奴隷の少女を任せられた。
「さてとどうしようかね」
とりあえず玄関でこの子と話す事もなかろうて。
リビングに行くとするかね。
「えーと、とりあえず君名前は?」
「………ジュリ」
「分かった、ジュリね。じゃあとりあえずリビング行こうぜ」
「………分かりました」
流石にデルタルトのところで散々なことされてきていたら警戒しているんだろうな。
ジュリを連れてリビングに向かって椅子に座る。廊下を渡っている間もジュリはおどおどしていた。
そして俺が座ると一つ気になったことがあった。
「なんでそんなカーペットも敷いてない部屋の隅っこで正座してるんだ?」
そうジュリは俺が座ったソファの対面にあるもう一つのソファに座ると思っていたのだ。
「………前のご主人様は呼ぶまではずっとこうしていろと言われていましたので」
「あー」
デルタルト、死体でも全力で殴りたい。
「まあ、俺はそんなこと言わないからさ。とりあえず前のソファに座ってよ」
俺はそう言って前のソファを指さす。
「………いいんですか?奴隷はこうしていないといけないのでは」
あ、これあれだ。この子奴隷としての生き方しか分からないやつだ。
「ジュリ、この家だったら奴隷ということは忘れてとりあえず普通の女の子として生きてくれ」
そうじゃないと俺の気分もなんとも言えなくなる。
「……いいんですか?普通の女の子がどのようなものなのか分かりませんがご主人様がそう言うのであればそうさせていただきます」
「あぁそうしてくれ」
そう言ってジュリは少し抵抗を持ちながらも目の前のソファに座った。そんなに気にすることはないんだけどな。
「…とりあえずそうだな。まずはお互いの事を知るのとこれからどうしていくか話してみるか」
「………分かりました」
「じゃあまずは自己紹介からだな」
「………はい」
んーそんなに堅苦しい感じは苦手だからな。
「では俺からだな。俺は世垓功次。この町で何でも屋的なのと本を出して生活している。この国では珍しい姓名が逆なんだ。生まれはミョルフィアの町ではないんだがな。誕生日は8月23日だ。今は16歳だ」
「………分かりました」
やっぱり敬語は苦手だな。
「別に敬語じゃなくていいんだぞ?」
「………すいません…ですがこれを変えるのは少し難しいかもしれません」
「ふむ。それはなんでだ?」
「………いえ、私は今まで敬語でしか話したことがないんです。そしてあまり喋るなと前のご主人様に言われていたので話すのも得意ではありません。ご期待に答えられず申し訳ございません」
んーその割には今意外と話してたけどね。
「分かった。じゃあ改めて自己紹介していこうか」
「………はい、私はジュリ・スキャーブルと言います。ビレコン村で生まれ10月2日が誕生日です。今は12歳です」
ビレコン村か。ミョルフィアの町の東側のにある農耕が盛んな村だったっけ。
「分かった。ジュリ・スキャーブルか、いい名前だ」
「………ありがとうございます」
よしとりあえず自己紹介は終わったな。そう俺が思っていると。
「………ところで私はご主人様のことはどう呼べばよろしいでしょうか」
「へ?」
なんで?名前でいいんじゃね?
「いや別に名前でいいよ」
「………ですが私は奴隷ですのでご主人様と呼んだ方がよろしいと思いまして」
なるほどね。ただご主人様ってのは何か違うな。
「そうか。別に普通に名前でいいよ」
「………分かりました」
「逆に何かジュリは何て呼びたい?」
「私は何でも構いません」
「分かった。じゃあ普通に名前で呼んでくれ」
「………分かりました。では功次様、私は何を」
様?それはご主人様とあんまり変わってなくないか?
「いやジュリ、様はやめてくれないか?」
俺はジュリに様をつけるのをやめるように頼み込む。流石に12歳の少女に16歳の男子が自分の名前に様付けさせてたら犯罪臭しかしないな。
「………分かりました。では功次さんと呼ばさせていただきます」
「あぁそうしてくれ」
「………それでは私は何をすればよろしいでしょうか?」
「何をすればって言われても別に何もないぞ?」
「………でも、私は功次さんの奴隷ですのでご自由に命令してよろしいのですよ?」
命令していいって言われてもなぁ。
「別に普通に女の子として生きて良いん…」
ガシャン!!!
そんな大きな音をたててドアが開いて聞こえてきたのは
「功次!金がない!」
「ん?」
誰だよ、俺のセリフを最後まで言わせずに入ってきたやつは。てか不法侵入だろ。鍵閉めてなかった俺も悪いけど。
「誰ですか…ってお前かよ真式」
そう勝手に俺の家に入って来たのは俺の知人の真式だった。
「あぁ俺だよ誰だと思ったんだよ」
「不審者」
「酷い!」
いやそりゃそうだろ。ノックも無しに家に入ってくるやつとか不審者位しかあり得んだろ。
「で、なんだ?何の用だよ」
「それなんだがな金が無いんだ」
は?なんで金が無いんだ?
「なんで金が無いんだ?言ってみな」
「理由はな近くの酒場のマスターと賭けをしたらな」
「負けたんだな。で、何ソル賭けたんだ?」
「3万ソル」
「はぁ?馬鹿じゃねぇの?それお前の全財産じゃねぇか。お前の今月どうするつもりなんだよ」
「お前に頼る」
「やめてくれ」
誰が全財産ドブに捨てたようなやつの生活費を払わなきゃならんのだ。
「………あの功次さん。この方は?」
俺の後ろからずっと真式とのやり取りを見ていたジュリがそう聞いてくる。そういえばジュリにはこいつの事を言っていなかったな。
「ジュリ、こいつはな
「………そうですか」
「なあ功次その子誰だ?まさかさらって来たのか?」
俺とジュリのやり取りを見ていた真式がそんなことを聞いてくる。
「俺はそんなことしねぇ!」
誤解もいいところだ。
「まあ、お前はそんなことしないだろうがな。んで、結局誰なんだその子」
「この子はジュリ。お前は知ってるか?あのデルタルト伯爵が死んだのを」
「あぁ知ってるぜ。何者かに暗殺されたんだろ」
「そうだ。この子はあいつの奴隷だったらしくてな。あいつの使用人が商人のノベルさんに渡して」
「お前が引き取ったと。そういうことだな?」
「そういうことだ。馬鹿でも理解したか」
「俺はそんな馬鹿じゃねぇぞ」
「そうかい」
ジュリの事を伝えると真式は突然こんなことを言ってきた。
「なあ功次。俺、金が無くて朝から何も食べてないんだ。もうそろそろ昼だろ?何か食べさせてくれ」
そんなことを言われて時計を確認すると確かに昼食時だった。
「確かにな。ジュリはお腹減ったか?」
「………少しは」
ジュリも腹が減ったならせっかくだし食べに行くかね。
「そうか。なら近くのカフェにするか」
「その子ジュリって言うのか?」
あれ?俺真式に言ってなかったっけか?
「俺、言ってなかったっけ?」
「あぁ」
いや言った気がするな。さっきジュリについて説明したときに。
「いや少し前に言ったぞ」
「そうか?まあいい、とりあえず飯行こうぜ」
こいつ記憶力悪すぎないか?まあいいか。
「分かった。ジュリ、行けるか?」
「………はい」
俺はジュリにも確認をとって外に向かうことにした。
「いつものカフェで良いよな?」
外に出てから俺は真式に確認を取る。
「いいぞ」
「………いつものって何処ですか?」
俺らのやり取りを聞いていたジュリは何の事か分からない様子だった。そりゃそうか。
「いつものカフェってのはな。近くのカフェ・オブ・キングってところだ。カフェっぽくないんだよなあそこ」
俺がジュリにカフェの事を説明していると。
「確か最近ステーキも出るようになったんだって?」
カフェでステーキはおかしいと思う。もうレストランで良いんじゃないか?元々名前も変だしな。
「もう行こうぜ腹が減りすぎて死ぬ」
カフェについて考えてたら真式がそんなことを言った。確かに俺も腹が減った。
「分かった。行くぞジュリ」
「はよ行こー」
「ついでにジュリにここら辺の説明もしていくからな」
「………分かりました」
それから俺らはジュリにカフェに行く間にここら辺に何があるのかを説明した。
俺の家は大通りにあるので周りにいろいろある。
洋服店、食物店やら換金所、雑貨屋などを教えた。
特にジュリは洋服店が気になっていた。まあ女子だしな。ジュリの服は傷が付いてるし帰りにいろいろ買ってやろう。
「………ここですか?」
「あぁここだな」
家を出て20分程たって俺らはカフェに着いた。
ジュリにいろいろ教えてると早く感じた。
「なあ功次。何分位かかった?」
「んー大体20分位」
「前より遅いな」
「そりゃそうだろ」
「………どう言うことですか?」
話の意味が分からずジュリが聞いてくる。
「あぁこのカフェに着く時間だよ」
「前は走って来たよな」
「その時は5分位だっけ?」
俺の家からこの店までは1キロ位だ。
「もう倒れる。俺は腹が減った」
「よし、じゃあ入るか」
カランカラン
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」
店に入ると店員がそう言ってくる。大体のところで似たようなことを言われるけど、何処の国もそういう風なのか?
「三人です」
「ではこちらの席へどうぞ」
俺らは店員に席へ案内される。
「窓側か」
ボソッと真式が呟く。このカフェでは窓側は数が少なくレアなのだ。まあ出てくる料理とかは変わらないけど。
「ジュリどうした?」
「あ、いえ何でもありません」
俺らが椅子にに座るとジュリが周りをキョロキョロしている。いや何でもないわけないだろうな。
「本当にどうした?」
「その、皆さんが食べているものがとても美味しそうで」
なるほどそういうことか。そういえば前はちゃんと食べてたんかな?
「さてとどれにしようか」
すぐに何にしようか悩む真式。
「お前早いな」
「功次は何にするんだ?」
「お前がメニュー表を持っているからどうしようもないんだが」
馬鹿なんだろうか。
「俺はもう決まったぞ」
「何にしたんだ?」
「スネークスープとデストロイステーキセット」
「却下」
「何故っ!」
「当たり前だ馬鹿たれ。金がないから奢って貰うのに何故高いものを選ぶのだ」
ちなみにこの二つで400ソルする。
「俺だってうまいもん食いたいんだ!」
「だったら金を貯めろ」
「頼むよ~お前金結構あるんだしさ」
「………」
俺は無言で考える。ここでこいつ甘やかして良いものなのか。
「分かった今回だけな」
「流石功次サンキューな」
「はぁ…」
無駄に出費が出てしまった。
「じゃあジュリ。何が食べたい?」
「………よろしいのですか?」
「構わんよ」
「………そうですか」
そう言って悩むジュリ。
「………では私はサンドイッチでいいです」
「えっそんなんでいいの?何でも頼んでいいぞ」
「何で俺はそんな風に対応しないんだ?」
変な事を聞いてくる真式。
「何でってそりゃ…」
俺は真顔になって真式に言う。
「俺、今までお前に奢ったり金絡みを肩代わりした分を合計すると少なからず大体100万ソルはいくぞ」
「うぐっ…」
表情を歪める真式に対して俺は表情を変えずに続ける。
「俺がお前に渡した分のお金だけで小さな家は余裕で買えるぞ」
「ぐはっ…」
「勝者 俺」
そんなよく分からないやり取りをしていると
「…ふふっ」
ジュリが小さく笑った。その時俺は安心した。この子に感情がまだあって良かったと。
「じゃあ功次も飯、決めたらどうだ?」
「そうだな、俺もジュリと同じでサンドウィッチでいいか」
「では頼むぞ。すいませーん店員さーん」
真式が店員を呼ぶ。
「ご注文は?」
俺らは店員に各々がさっき決めた物を伝える。
「承りました。少々お待ちください」
店員は俺らに頭を下げ厨房へと向かった。
「飯食ったらどうするんだ?とりあえずそのまま帰るか?」
真式がそう聞いてきたので、俺はここに向かう途中で考えたことを伝える。
「いや、洋服店に寄る。ジュリの服を買わないといかん」
「確かにな。その子の服かなりのボロボロだしな」
俺らがそんな会話をしていると
「………よろしいのですか?」
ジュリがそう聞いてきた。
「あぁ、ずっとそんな格好は辛かろうて」
俺がそう言うとジュリは少し笑顔を見せた。
そんなやり取りをしていると
「お待たせしました」
店員が料理を持ってきた。
「ありがとうございます」
「うわー、一回これ食ってみたかったんだよ」
俺がお礼を言うと真式は感情がだだ漏れだった。
「「いただきまーす」」
俺と真式がそう言うった時に俺は気づいた
「ジュリ食べていいんだぞ?」
そう。ジュリは目の前のサンドウィッチを食べようとしなかったのだ。
「………よろしいのですか?」
ジュリがそう言うと
「別にいいぞ?どうしてだ?」
「………いえ、前のご主人様は食べていいと言われるまで食べてはいけなかったので」
なるほど、多分そんな事だろうとは思ったが
「構わんよ。俺の前では自由にしてて」
「………分かりました。ありがとうございます」
そう言ってジュリは少しずつサンドイッチを食べていく。食欲はありそうで良かった。
そうして30分程して俺は食べ終わった。そして会計に向かう。
「お会計、430ソルでございます」
うぐぅ、やはり真式が頼んでやつがかなりの値段になるよな。
「これでお願いします」
俺は430ソル出す。思わぬ出費が出てしまった…
「じゃあ洋服店行こうぜ」
そんな俺の気持ちも考えずに真式は外へ出ていく。あいつ覚えてろよ。
「じゃあジュリ行こうか」
「………はい」
俺がジュリと外に出てくると
「キャーーー!!!」
そんな女性の悲鳴が聞こえた
「どうした!?」
俺が真式に聞くと
「あそこだよ引ったくりだ」
「なるほどな」
俺は引ったくり犯を見据える。
「お前、どうするんだ?引ったくり犯は俺らの方向に来るけど」
そんなの決まってるじゃないか。
「真式!ジュリを頼んだ!」
「だろうな。お前はそうすると思ったぜ。分かったこの子は任せな」
そうして俺はこちら側に向かってくる引ったくり犯と対峙する。
「てめぇそこをどけぇ!!!」
そう言って引ったくり犯はナイフを取り出した。あれだな邪魔物を殺して逃げるために持ってきたものだな。
「真式さん、功次さんは大丈夫なのでしょうか?」
心配そうなジュリに対して真式は
「大丈夫だ。よく見てなジュリ。お前のご主人様の活躍を」
引ったくり犯はナイフを俺に向けて走り出した。
「死ねぇー!!!」
「死なねぇよ」
俺はそう言って引ったくり犯の攻撃を避けて後ろに回る。足を捌いて転がせるか。
「よっと」
俺が引ったくり犯の足を捌くと
「おわっ!」
ドテーンっと引ったくり犯がこけた。よしっ。
「失礼するよ!」
俺はそのまま引ったくり犯の上に乗り全身を拘束する。
「ちょっと沈んでて貰うよ」
そう言って俺は引ったくり犯の首後ろを強くチョップした。
「うっ!」
そのまま引ったくり犯は動かなくなった。気絶したか。
「「「うぉぉぉ!!!」」」
そうして周りの人から歓声が響いた。
「真式、水を」
「分かった」
俺は真式に水を持ってきて貰う。理由はこいつを起こすためだ。
「持ってきたぞ」
俺は真式から水を貰うとナイフを取り上げて水をかけた。
「ぐはぁっ」
そうして引ったくり犯が起きた。
「おはようさん。気分はどうだ?」
「くそっ」
引ったくり犯は悔しそうに俯いている。
「とりあえず奪った荷物は返して貰うよ」
そう言って俺は荷物を取る。
「さてと聞こうじゃないか。なんで荷物を奪ったんだ?」
俺がそう聞くと引ったくり犯は話し出した。
「俺は元カノに金を奪われ逃げられたんだ…そうしてお金が無くなって困った。だから金になりそうな物を奪って売ろうと思ったんだ…許してくれ…」
そうなのか。以外と聞く話ではある。だが引ったくりは立派な犯罪だし俺にナイフを刺そうとしたこれだけでも十分捕まる理由になる。だけど…
「そうなのか。分かった。今回は見逃してやる。こいつを持っていきな」
俺はそう言って引ったくり犯にあるものを渡す。
「これは…お金?しかもこれだけ…」
「800ソルだ。それだけあれば節約していくと1週間は過ごせる」
「いいのか?俺はお前を殺そうとしたんだぞ…」
「構わんよ。別に返さんでもいい。ただしそれをどう使うかはお前次第だ。ギャンブルで溶かすか、女に貢ぐか。それともそれを糧に働き口を見つけるか。それはお前に任せる」
「はい…ありがとう…ございます…」
引ったくり犯はそう言って涙を流す。
「でもまた本当に困った時は俺に言いな。この町で世垓功次の所に行きたいんだがって言えば教えて貰えるからな」
俺がそう伝えると
「世垓…功次…聞いたことがある。優しさの塊のような少年がこの町にいると…そうか、あんたがそうなのか…」
そう言って引ったくり犯はまた涙を流す。
「すまない。そしてありがとう。俺、もう一度頑張ってみようと思う」
そんな引ったくり犯の顔を見て俺は
「あぁ頑張りな」
そう言った。
「大丈夫でしたか?」
俺は引ったくり犯から取り返した荷物を持ち主に返す。
「いえ、あなたこそ大丈夫なのですか?」
「俺は大丈夫ですよ。荷物の方は大丈夫ですか?」
「大丈夫です。本当にありがとうございました」
荷物の持ち主に礼を言われた俺は
「荷物に異常が無くて良かったです」
と、言って持ち主と別れた。
「すまんな真式、ジュリ。大丈夫だったか?」
「いや俺らは大丈夫だ。お前の方こそ大丈夫なのかよ?」
「俺は大丈夫だ。ただジュリすまん」
俺はジュリに頭を下げた。
「どうしたのでございますか?功次さん」
困った様子で俺の事を見るジュリ。
「実はお前の服を買う用のお金さっき渡しちまった」
俺がそうジュリに伝えると彼女は
「構いませんよ」
と、笑顔で返した。良かった。
「じゃあ一旦帰るか」
俺は真式とジュリにそう言って
「おうよ」
「分かりました」
そうして俺らは家に帰った。
私はご主人様が変わった。
前のご主人様とはまるで違う御方に。
以前は出会えば殴られていたのにこの方世垓功次さんは私の事を笑顔で見てくれる。
それがとても嬉しかった。
ただその顔にどんな裏があるのだろうと思ってしまった。
しかし、功次さんは今の所とても裏があるようには見えない。
だから安心した。
あの方の知人の真式さんも優しそうで良かった。
だけど私は思った。
引ったくり犯を前にした時のあの殺意に対する余裕。
あれは何処から来るものなのかと…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます