第47話 僕の尻尾が危なかった
子ども達を預かる保護施設へ、再び牛車で向かう。その後ろから、荷車を引いた二人の男性が付いてきた。お菓子を購入した店の人だ。皇族の視察のお買い物ルールで、周辺の同業種の店からも買う。一軒を
同じお店でたくさん買って値引きしてもらえばいいのに。単純にそう考えるアイリーンに、兄と姉は苦笑いした。いつも同じ店で購入すれば、価格調査の意味がなくなる。何より、
子ども達の喜ぶ顔を思い、小さな声で歌を口遊む。街中の道は整備されており、がたがたと揺れることはなかった。平らに固めた道路の表面は、特殊な方法で土を固めたもの。この方法を編み出したのが三代前の大巫女メノウ様だった。
徐々に地方へ向かう道も整備しているが、まだ都周辺だけで手いっぱいだ。この道なら荷車も引きやすく、馬や牛を使う必要もなかった。人々の暮らしが格段によくなる発案をすれば、歴史に名が残る。この舗装を、メノー
やや坂を下り、見えてきた建物は二階建てだ。木造の古い住宅だが、裏に蔵もあって敷地は広かった。門をくぐれば、すぐに出迎えが飛んで来る。
「うわっ! お姫様がいるぞ」
「本当だ、園長様にお知らせして」
子ども達が手分けして大人を呼びに行く。萩の園と名付けられた保護施設は、秋になると赤紫の絨毯のように萩が花開いた。アイリーンは残念ながら、秋に立ち寄ったことはない。
「リン、こちらへ来て」
「はい、ヒスイ姉様」
ココを抱っこして姉の後ろを歩く。出迎えた園長らと話す兄を置いて、木造家の奥へ向かった。雑草は少なく、代わりに畑がある。野菜が植わっているが、まだ収穫前だった。
「手伝ってほしいのよ」
姉は腕まくりをしてタスキを掛け、手際よくアイリーンの準備も整えた。それからは大騒ぎだった。子ども達が手伝いと称して邪魔をする。本人達は手伝っているつもりなので、叱ることも出来なかった。笑いながら、アイリーンは
ある程度の年齢の子は手伝った経験があるようで、手慣れた様子で藁をよって、蕪の葉を束ね始めた。小さな子が見様見真似で藁を掴むも、なぜかチャンバラごっこに発展する。正直、アイリーンもそちらに混じって遊びたかった。我慢だけど。
一通りの作業が終わり、姉は手拭いで妹の頬に飛んだ泥を落とす。ココを探せば、子どもに追われて木の上に逃げていた。迎えに行って抱っこする。
『尻尾の毛を
「お疲れ様、無事だったんでしょう?」
こくんと頷くが、よほど恐ろしかったようだ。尻尾をくるりと巻いて、絶対に届かないよう注意している。笑ったら拗ねちゃうわね。そう思いながら園長様の厚意でお茶を頂いた。
視察目的のお兄様、保護施設を見に来たお姉様、どちらの用事も済んだ。残っているのは、アイリーンの「奉納舞い」だけだ。
「蕪の収穫を手伝ってもらったんだもの。私も手伝うわね」
舞いが上手な姉の申し出に、アイリーンは嬉しそうに頷いた。
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