21.受付嬢は謝る
冒険者ギルドに到着して、銀の翼の主要メンバー二人を差し出す。
残りのメンバーは逃げてしまった。どちらにせよ、アイツらにはモグラ生活が待っている。貧民街へ逃げ込むこともできず、王国を出るしか生き延びる術はない。
「商人の馬車を襲っていたから捕まえた。身柄の引き受けを頼みたい」
最初こそ周りの人たちは信じられないと言った感じを出していたが、縄で縛られた二人を見て周りの冒険者たちが白目を剥いて驚く。
「いーっ! あ、あいつらDランクパーティーだよな!?」
「え、Sランクパーティー……っ! 銀の翼が倒された!?」
「おい、あいつニーノ人だぞ……っ! ニーノ人は無能で頭がおかしいはずだろ、何がどうなってんだよ!」
馬車に荷物を乗せていた商人が証人になってくれて、事情を説明する。
のちに衛兵がやってきて、アゼル達を引き渡した。
ギルドにある客室へと通されて腰を落ちつかせた。
……ちゃんと仕事してくれたな。
少し心配だった。
俺やアリサの時みたいに、信じられないからダメと一蹴されるかもしれないと思っていたから。
すると、俺たちを冷たくあしらっていた受付の人が出てきた。
この人は俺に報酬が出てないって訴えても無視した人だ。
何を言われるのか予測できずにいると、深く腰を折り頭を下げた。
「この度は、Sランクパーティー銀の翼を捕らえて頂きありがとうございます」
頭を下げられるとは思っても居なくて対応に困った。
「そして、冒険者ギルドを代表して、今まで申し訳ありませんでした」
「か、顔を上げてくれ」
商人の男がどよめいた。
無理もない。冒険者ギルドを代表して、と言ったんだ。
この言葉がどれだけ大きいか。冒険者でなくてもよく分かる。
巨大勢力であるギルドが非を認めたんだ。普通じゃありえないことだ。
「今まで銀の翼が行ってきた悪行の数々を見逃し、アリサさんがニーノ人であるからと侮蔑したことの深い謝罪。削られていた報酬は倍以上にして肩代わり致します」
「マジで!? やったぁ~! ねぇニグリスご飯食べに行こうよ。たっかい奴」
「今は静かにしてろ……っ」
空気を読め空気を!
受付の人がようやく顔を上げると、酷く後悔した面持ちで続ける。
演技、なんて出来るような人なら頭を下げるようなことはしない。
「私は今まで、冒険者の実績や噂話を鵜吞みにし、それが正解だと思っていました。ですが、銀の翼の仲間殺しでそれが間違いであると分かりました……私が間違いを犯さなければ、無駄に命を失わずに済みました」
「……あんたのせいじゃないだろ。アゼル達が犯した罪だ」
「いえ、今回の馬車襲撃も防げた事件でした。ニグリスさんたちが居なければ被害は広がっていたでしょう。本当にありがとうございます」
また頭を下げて来る。
思ったよりも責任感の強い人だったようだ。
思い詰めてしまっているな。
「……アゼル達はどうなるんだ?」
「奴隷落ちになります。ただの奴隷ではなくギルド専属なので、普通の奴隷よりも酷い扱いが待ってます」
「そうか」
詳しくないが、薬草やタダ働きのモンスター討伐があるらしい。眠る時間以外は休憩もないそうだ。
これで奴の顔を見る必要もなくなる訳か。
清々するな。
でも、何となく嫌な予感がする。
杞憂だと思うが。
「ニグリスさん達の話を聞かず、ギルドの平等性を損なわせたのは私です。そのことをギルドマスターに相談したところ、辞職で誠意を見せるべきだろうと言われました」
「……そうか」
「それでもギルドへの不信感を払拭することはできないと思います。どうか、私のせいで失った信頼を少しでも取り戻させてください」
……取り返すって言われてもな。
確かに冒険者ギルドへ対する不満や不信感があったことは否めない。
この人は俺たちを差別したし、話を聞いてもくれなかった。でも変わろうとしている。
まぁ、彼女のような人物も居るってことだろう。
すると、フェルスが俺に耳打ちしてきた。
「ニグリス様」
「なんだ?」
「良かったら、この人を貧民街で雇えるようにしてみませんか?」
「貧民街で?」
「はい。冒険者ギルドの受付ってかなり優秀な人間じゃないと出来ないんですよ」
「ほう……」
フェルスがそう言うのなら、確かめてみるか。
鑑定スキルを使う。
鑑定
【種族】人間
リーシャ 29歳♀ 状態:不安
適性
魔力 小
剣士 D / D
魔法 D / D
器用 S / S
忠誠 10
……オウフ。
器用Sって滅茶苦茶有能じゃねえか!
それ以外のステータスは微妙でも、器用が高いって相当重要だ。
机仕事は何でもできてしまう人間なんだろうな。
「……なぁリーシャ。冒険者ギルドをやめるのなら、お勧めの仕事先があるんだが」
「え?」
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