第2話 俺様は獣王になる

~獣人国 獣王ウォルフ城門前


「また殺し屋を寄越しやがったなぁ! ウォルフ卑怯だぞぉ、正々堂々と戦え!」


 今日もまた俺様は城門に来ていつもの様にウォルフが居るであろう城に向かって叫んでいる。五年前までは俺様が住んでいた元デネボラ城に向かって。


 俺様の名前はレグルス、金獅子きんじし族だ。俺様の親父は先代の獣王だった。が前回の『獣王祭じゅうおうさい』に敗れて死んだ――いや、正確には戦う前に毒殺された。


 犯人は現獣王のウォルフとその恩恵で大臣になった四人の裏切り者。証拠は無い、毒を入れていた容器も見つからないし、こいつらが組んでお互いのアリバイを証言したから。そして最終的に無関係なとある種族に全ての罪を被せてこの国から追放した。


 だから俺様は今回の『獣王祭じゅうおうさい』に出場し新たな獣王になり裏切り者達に制裁を加えるつもりだ!


 だが一つ問題が発生した、それは奴等が急に『獣王祭じゅうおうさい』のルールを変えてきた事だ。“勝ち抜き戦”や“代理出場”などどうでもいい、不味いのは“持って居るスキルを先に大会委員に報告しなければならない”これだ。大会委員に報告、即ちウォルフの耳に入ると言う事だ。


 はっきり言って俺様のスキルは強い。がある意味外れスキルなのかも知れない。サシでの戦いならまず負けることは無いと思うが、能力がばれてしまうと対応されやすい、そして負けた時の代償は俺様の消滅。ただの死ではなく消滅なのだ。


 だから俺様のスキルの能力は絶対にばれてはいけない。勿論味方でさえばれたら殺さなければならない、なぜならスキルや魔道具で無理やり吐かされる可能性があるから。だからレジスタンスには参加していない。まあ向うは勝手に色々と情報をくれるけど。


 ただ不可解なのが前まではこの国の冒険者ギルドにも『ステータス鑑定の水晶』があった。それも『魔法国家キャンサー』産の他国より性能が良い水晶が。それをウォルフが獣王になった時にすべての水晶を破壊した。それにより他人の能力を観る事が出来なくなった。勿論『鑑定スキル』持ちや『魔眼』持ちは別として。


 まあ獣人族が持って居るスキルはほぼ似たり寄ったりで、皆が持って居る『獣魔化』や相手を怯ませる『咆哮』、後は身体能力を上げる能力に一族固有のスキルそんな感じだろう。なので水晶が無くなってもそれほど困る事は無かった。それなのにまた他人のスキルを知りたいとは一体どういう事だ?


 新たなルールには現獣王はスキルを報告する義務は無いようだから自分が有利になる念の為のルールなのか、それとも自分の能力に知られたくない事があってあの時は水晶を破壊したのかは分からないが。


「出て来て正々堂々と勝負しろ! 『いにしえの掟』にもあるだろ! 何か問題が起きた場合は全て武力による決闘で解決しろと、ウォルフ俺様と戦え!」


…………


 チッ、ダメか、これだけ毎日煽っているが、やってくるのは金で雇われた暗殺者ばかり。裏切り者の四人の大臣すら来やがらない。ただ昨日は久しぶりに二回目・・・までいったが、遠くから観察していた偵察部隊が居たから丁度良かったけどな。そう考えると念の為今後はワザと二回目までいった方がいいかな。


 ある程度煽っていると、いつもの様にゆっくりと二人の門兵がやって来た。


「レグルス坊ちゃま、今日もご苦労様です、そろそろこの辺で」


 この城で雇われている門兵達は元々親父の部下だった者も多い。優秀な人員も他に居ないのでウォルフの奴も仕方なく雇い続けるしかないようだ。ただいつまでも坊ちゃま呼ばわりは勘弁してほしい。


「やあ、お前達もお疲れさん、分かったよ、そろそろ退散する、後、毎回言っているけど坊っちゃまと呼ぶのは止めてくれ」


「あはは、申し訳ございません坊っちゃま、つい癖で」

「それよりレグルス坊ちゃまは『獣王祭じゅうおうさい』に出場なさるのですよね、楽しみです、応援していますので頑張ってくださいぃぃぃぃぃ!」


「あ、ああ、ありがとう、じゃあな」


 俺様は城を離れ『獣王祭じゅうおうさい』を行うコロシアムに向かう。

 仕方がないがルールの件は一度諦めてもう期限も近いしエントリーしに行こう。


 遥か昔からあるばかでかい石作りのコロシアムの前に立ち、俺様はスキルの報告の仕方を再度頭の中で反復させる――よし行くか。


 中に入り受付に向かう。受付の台を観る。よし、報告通りやはり『ステータス鑑定の水晶』はなさそうだな。


「いらっしゃいませ、あっレグルス坊ちゃま、やっといらしたのですね、待っていましたよ」


 受付のお姉さんが愛想良く挨拶してきた。この人も勿論親父が獣王だった時の知り合いだ。そして『鑑定スキル』持ちではない。だからこの日に来た。まあ獣人族で持っている奴はほぼ居ないが。


「ああ、ちょっとルール変更の件で俺様も色々やる事が有ってね」


「そうですか、俺様ですか、ふふふ、ではこちらのパピルス紙で出来たエントリー用紙に記入お願いします」


 パピルス紙とは簡単に説明するとその植物の茎を細かく砕いてくっ付けて乾燥させ擦って滑らかにして作った紙の事。羊皮紙よりは安いがそれでも高価な紙だ。


―――――――――――――

名前:レグルス

性別:男

年齢:13歳

種族:金獅子族


獣魔化以外の持って居るスキルと説明を以下に全て書き出す事。


スキル名:不死身

スキル能力:無敵で死なない、しかも最強


     以上

―――――――――――――


「これでいいかな?」


 俺様はパピルス紙を受け付けのお姉さんに渡した。


「確認いたしますね――まあ! もう十三歳になったのですね、月日の経つのは本当に早いものですね、あの頃のレグルス坊ちゃまはこんなに小さくて可愛らしくて、いえいえ今は可愛らしくないと言う意味ではありませんよ、今は可愛いと言うより凛々しいといった感じがしますわ」


「そ、そう、ありがとう、それよりそれでいいのかな?」


「あらつい……あっ、レグルス坊ちゃま、スキルが一つしか記載されていませんよ、持って居るスキルを全部書かないと後から色々と面倒くさい事になりますよ」


「ん? ああ、俺様の持って居るスキルはそれだけだよ」


「え? そうなのですか……分かりました、ではこれでエントリーしておきます」


「ところで、どれくらいの人数がエントリーしているんだい?」


「本当は秘密なのですが、ここだけの話レグルス坊ちゃまを入れて、六名ですわ」


「六名か、俺様の記憶ではいつもより随分少ない気がするけど」


「そうですね、色々裏で何かやっているのかも知れませんが、やっぱり一番の要因は勝ち抜き戦になった事ですね、あれは不公平すぎますよ。あっウォルフを入れ忘れていました、全部で七名ですね」


「そうか、ありがとう、じゃあ後はよろしく」


「何か胡散臭いので坊ちゃま気をつけてくださいね」


 現獣王を呼び捨てにするお姉さんにお礼を言いコロシアムを出た。


 エントリー用紙には『不死身』と書いたが本当は違う。しかも俺様は獣人族が皆持って居る『獣魔化』スキルすら何故か持って居ない。いや、ある意味能力の根本が『獣魔化』に似ているからそれが進化したスキルなのかもしれないが。


「『ステータス』!」


―――――――――――――

レグルス (男、13歳)

種族:金獅子族


スキル:四死

―――――――――――――

 名前や年齢に種族、スキルなどの自分の情報が頭の中に流れ込んできた。更にスキルの能力を詳しく求めた。


―――――――――――――

『四死』:死ぬ度に強くなり万全の状態で復活する。上限は四。但し日付が変わると共にスキルの能力は全てリセットされる。


 ・一度目の死でスキル『視死しし』:相手の弱点、攻略方法が見える。が使用可能になる。また最初の四分間だけ全ステータスが二倍になる。


 ・二度目の死でスキル『刺死しし』:自分の死に関わる事を刺激臭として嗅ぎつける事が出来る。が自動で発動する。また最初の四分間だけ全ステータスが四倍になる。


 ・三度目の死でスキル『四思しし』:四回だけ他人の思考を操れる。が使用可能になる。また最初の四分間だけ全ステータスが八倍になる。


 ・四度目の死でスキル『四止しし』:一度だけ時間を四秒間止められる。が使用可能になる。また最初の四分間だけ全ステータスが一六倍になる。


 ・五度目の死でスキル『私死しし』:自分の存在そのものがこの世から消える。が使用可能になる。また使用可能になった瞬間強制的・・・・・に発動する。

―――――――――――――


 条件付きだが要するに俺様は死ねば死ぬほど強くなる。最初の四分、一日四回目までは――この能力の攻略方法は至って簡単。


 パワーアップしている最初の四分間だけ逃げるなり、隠れるなりして元に戻ったところを仕留める。もしくは四分間で倒しきれない物量で攻める。日付が変わる前にそれを四回繰り返すだけ。


 そして多分五度目の死で俺様に関する記憶が皆から消える――酷いスキルだよ。


 だから誰にも知られてはいけない――。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る