第3話 能力
街の門に居る門兵に冒険者カードを提示し魔物の森へ向かった。俺を見た門兵は少しニヤついた顔をしていた……俺の噂は随分と広まっているようだ。
しばらく歩き魔物の森へ入って行くと、一匹の青くて半透明なゲル状のプヨプヨした魔物を見つけた。そのゲルの中には目や口みたいなものがプカプカと浮かんでいて中心には小石くらいの大きさの核と呼ばれるその生物の全てを司る器官が見える。冒険者にとっては雑魚中の雑魚のスライムだ。
見た目はプヨプヨ、プニョプニョしていて可愛らしいがこれでも危険な魔物だ。
この国では『祝福の儀』を受けるまで自ら魔物の討伐はしてはいけない決まりになっている。ジョブを持っていないとジョブの
ステータス補正が無ければ剣術の指導を受けていない一般人はスライムと戦うのも危険だ。
俺は剣術の指導を受けていたが魔物と戦ったことは無い。次期領主なのでもしもの事があれば大変だからだ。まあ貴族の中には余興や気晴らしの為に私兵を伴って討伐していたりする奴は居るみたいだが。
基本的にスライムは体の構成上、物理攻撃に対しての耐性が高い。打撃系の武器の場合威力が拡散されて核まで攻撃が届かないからだ。だが武器が鋭利な物の場合は別だ。体の中に見える核まで直接攻撃できるから。その武器が届けばだけど。
勿論魔法攻撃も有効だ。ただスライムの種類によって効く魔法と効かない魔法がある。まあどっちにしても魔法が使えない俺には関係ないけど。
ズバッ!
俺の剣の一撃で、二つに割れた核だけを残しスライムは溶けだす。
始めて戦ったけど……弱いな。核ってあっさりと斬れるものなんだな。
あれ? でもスライムの弱点は核だからそこを攻撃するのはいいけど、討伐部位も核なんだよな? この割れた核でいいのかな? まあダメだったらダメで次から気を付ければいいか、何事も経験だよな。
…………
あれから二時間ほど掛けてスライムを倒したがその数は、まだたったの十匹だった。うーん 思っていたよりスライムが居ない……これは一日五十匹倒すの――いや探すこと自体難しいな。
ガザッガザッ
「ん?」
音のした方に目を向けると、草陰から一匹のスライムが飛び出してきた。スライムは逆に俺が居た事に驚いている感じだった。よし、十一匹目っと。
俺が剣を振り下ろそうとした時、そのスライムは突然――『ピュー、ピュー』と口笛の音色の様な鳴き声を上げた。
なんだ? スライムって鳴き声を出すのか、知らなかった……。
すると――ガザッガザッ! ピョン! 近くの草陰から別のスライムが現れ、俺に向かって突進してきた。
あれ? もしかしてこのスライムを助けに来たのか? へー、スライムに仲間意識とかあるのか。
俺に向かって突進してきたスライムを斬り捨て、さっき鳴いていたスライムを再度見る。俺に怯えているようでまた『ピュー、ピュー』と鳴き声を上げた。
ガザッガザッ
おお!? また別のスライムが出てきた、これでわざわざ探し回らなくてもいいんじゃないか? 便利だな、この鳴き声、マネる事出来ないかな?
≪ピコン! 『スライムの鳴き声』をマネました≫
俺の頭の中にそんな声が聞こえた。
ん? これは――もしかして『ものマネ』のスキルの能力か? どうやって使うんだろ? とりあえず今いるスライムは邪魔だし倒してしまおう。
ズバッ! ズバッ!
よし片付いたぞ。さてと、「『ステータス』!」
―――――――――――――
ディオ (男、15歳)
種族:人間族
冒険者ランク:F
ジョブ:ものマネ士
スキル:ものマネ Lv1:『声マネ』
スロット1:『スライムの鳴き声』
―――――――――――――
『スライムの鳴き声』:仲間を呼ぶことができる。
―――――――――――――
俺の頭の情報が流れ込んできた。
おっ、『スロット1:スライムの鳴き声』っていうのが増えたみたいだな。
「『スライムの鳴き声』!」、これでどうだ?
「ピュー、ピュー」
ガザッガザッピョン、近くの草陰からまたスライムが現れた、ただ俺を見て困惑している様子だ。よし! 上手くいったぞ、ゴメンなスライム君、俺は味方じゃないんだよ――さようなら。
ズバッ!
俺は地面に落ちているスライムの核を麻袋に入れた――少し罪悪感があるけど相手は魔物なんだし、気にせずこの調子でどんどん討伐しよう。
――『ピュー、ピュー』、ズバッ! ふうぅ、よしこれで五十匹目だ、とりあえず一日の最低ノルマ達成だな。
最初の頃とは違い一時間も掛けないでスライムを五十匹倒した。
さてどうしようか? まだ昼過ぎくらいだけど弁当持って来ていないし、討伐部位は割れた核でいいのかの確認もしたいから一度ギルドに戻るか。
その前に『スライムの鳴き声』を解除しておかないと話す度『ピュー、ピュー』鳴いてしまうことになるな。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「ただ今戻りました」
「おかえりなさい。無事でよかったです、でも随分早いですね、スライムが余り居なくて諦めて戻って来たのですか?」
「いえ、とりあえず五十匹ほど倒したんですが」
「五? 五十匹も――もしかして森の奥まで入られたのですか?」
「えーとそんなに奥までは行っていないと思いますよ」
「そうですか、今日もスライム討伐の依頼を受けた新人冒険者が結構居たはずなのですが……」
「……」
「でも入り口付近にそんなにスライムが居るなんて……何か森の奥に異変でもあったのかも? ギルマスに相談した方がいいかしら?」
受付のお姉さんはぶつぶつと独り言を言って悩みだした。――あれ? まずいかな。ここは正直にスキルの事を話した方がいいかも知れない。
「すいませんちょっと大きい声では言えないんですが、実はですね、俺のスキルでスライムをうまく誘い出す事が出来たんですよ」
「スキル……確か『ものマネ』でしたよね、そうですか、スキルの能力は個人情報にあたるので詳しくはお聞きしませんが、なるほど、わかりました」
「では討伐証明のスライムの核をこちらの台の上に出してください」
ドサッドサッドサァァァァァ
麻袋に入れていた欠けたスライムの核を全部出した。
「……」
「そ、そうだ、スライムの核なんですが、倒すのに剣で斬ったので全部割れてしまっているんですが、まずかったでしょうか?」
「い、いえ、割れた核で問題ないですよ。逆に傷の無い核を持ってくる事は新人さんには難しいですよ、魔法攻撃では核が砕け散って溶けてしまう可能性の方が高いですし、よっぽど特殊なスキルでもないかぎりは無理ですよ」
「よかった」
「では計算して換金しますので、あちらにお掛けになって少々お待ちください」
…………
「ディオさ~ん! お待たせしました、細かすぎて買い取り不可になる核も無かったので、丁度スライム五十匹分の核になりました。小銀貨五枚になりますね」
「ありがとうございます」
「問題なければ、ここに受け取りのサインをお願いします」
「はい、あっそうだ、この近くで安くて美味しい食事ができる店はありますか?」
「このギルドの酒場でもお食事を提供していますよ。安くておいしいですよ」
「ありがとうございます。ちょっと行ってみますね」
『ハンバーグ』と言うものを食べた。すごくおいしかった。
こうして俺の冒険者としての初日は無事終了した。
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