第13話 タウラス公国その後の人々(ざまぁ回その参)
~ヒアデス領首都ヒアデス 元領主、現ミノタウロスのタイゲタ視点side
俺はこの街、『首都ヒアデス』の領主だったはずだ。それが今、六匹のミノタウロスを引き連れて数日前から自分の街を蹂躙している。
「ブモ! ブモ! ブモ!(俺だ! タイゲタだ! 分からないのか、ここの領主のタイゲタ・ヒアデスだ!)」
やはり言葉が通じないか……。そうだ! 字を書いてみたら! そう思ったが『蹂躙しろ』と命令されているからなのか、字を書くという動作をしている暇がない、自分の意志は、思考は、あるのに……」
どうしてこうなったんだろう、建物を破壊する度にそう思う。
そして目に前には俺が住んでいた屋敷が見えてきた。あの屋敷には俺の弟や妹達も住んでいる。もう逃げてくれていればいいのだけれど……。
「ブモ? ブモ! ブモ(あっ? 居た! 俺の弟だ、しかも一番下のまだ五歳の)」
俺はそれを掴み――握りつぶした。 目の前に居ただけで邪魔をしたと俺は判断したのだろうか?
周りに居た俺の家臣共もわめき叫んでいる。俺は悪くない。お前等がとっとと弟を逃がさないからだろう。
一番上の弟を筆頭に残っていた騎士共を引き連れて俺達の周りを囲んだ。
しかし、後から俺達と合流したミノタウロス達に全員やられてしまった。
強いなぁあ、あのミノタウロス達、俺と同じミノタウロのはずなのに。特に三体のミノタウロスが――もしかして人だった時強いとミノタウロスになった後も強いのかもしれんな。
なぜなら俺と最初に合流した二体のミノタウロスはもう血だらけで今にも倒れそうだから。
「ブモ! ブモ!(痛い痛い、俺はただの村人だよ、止めてくれ)」
「ブモ! ブモ!(なんでこんな目に、一年前のあの時だって、あの女を連れ込んだ後、直ぐに『牢屋に誰も居ないぞ!』と他の村人達が来て『どうする、領主様に殺されるぞ』、と大騒ぎになって何もできなかったんだ。リーダーに全責任を押し付けて折角俺らは何とか生き残ったのに、こんなのあんまりだ)」
二体のミノタウロスが愚痴を言っているが、街の奴等には言葉は理解できない。
もしかして強いミノタウロスはスキルを使っているのか? 聞いてみるか。
「ブモ! ブモ!(おいお前! スキルを使っているのか?)」
「ブモ? ブモ! ブモ?(スキル? そうだ私のスキルは『転移』、ここから逃げられる……ん? なんで逃げる必要があるのだ?)」
良く分からんが、じゃあ俺も使えば……あれ? 俺のスキルって何だ……。
それはそうと騎士団長のアインや騎士副団長のアマテルが居ないこの街『首都ヒアデス』は壊滅間近だな。領土が広いだけあって時間は掛かったが。
「うぉぉぉぉぉ」、と遠くから歓声が聞こえてきた。その声がした方も見ると騎士団の大群が見えた。どうやら近くの領地の騎士団が援軍に来たらしい。
見ると金色の鎧と、銀色の鎧を装着している者もいた。騎士団長、騎士副団長だ。勿論アインやアマテルが生き返った訳ではない。
この国では昔からその領地で一番強い者二名を選び、騎士団長には金色の鎧を、騎士副団長には銀色の鎧を与える習わしがある。
他の国でも似た様な風習はあるようだが、この国『タウラス』では性格は二の次で実力重視である。俺としても家柄を重視するよりは遥かにましだと思う。弱いくせに後ろ盾が有ったりすると色々と面倒くさいからな。
だが今それを第三者目線で観て思うのは、その領地最強の二人がそんな目立つ派手な格好をしていたら、敵からしたら良い的になってしまうし、その二人さえ倒せば、後は雑魚ですよと言っているようなもので、実に滑稽だ。
色々考え事していると、援軍の騎士団が俺達七匹の魔物に向かって突撃してきた。例の強いミノタウロス三体が落ちている槍をぶん投げたり、拾った剣で斬り殺したりしてどんどん数を減らして行く。
おおそうか、武器を使えばいいんだ! ずっと素手で戦っていたぞ。何で思いつかなかったんだろう。
激しい戦いが続き、相手は金と銀の鎧を装着した二名になり、俺達ミノタウロスも三体やられた。
その二人を観て、俺の部下のアインとアマテル思い出した。あいつ等はこの国『タウルス公国』の中でもかなりの実力者だった。毎年『王都』で行われる御膳試合でも毎回上位に入賞している。
それをあのガキに……一方的に……流石俺のご主人様だ! ん? ご主人様?
それはそうと目の前にいる二人はいつかの御膳試合で観た覚えがある。アインやアマテルほどではないが強かった記憶がある。
こいつらにこのまま俺達が倒されたら、この『首都ヒアデス』は救われるが、その褒美として領主の居ないこの街は奴等に譲渡されてしまうだろう。
俺は辺りを見渡す、居た! 俺の二番目の弟だ! こいつに俺達が倒されれば、弟が領主を引き継ぎ、『首都ヒアデス』という俺の家名が付いた街だけは残せるかもしれない。
俺は弟に近づいていくが、弟は後ずさりする。
「ブモ、ブモ! (おい! 逃げるな、お前が俺を殺すんだ)」
俺の身体には無数の矢と槍が刺さっており、上手く前に進めない、それでも何とか近づいて手を伸ばし――弟を喰らった。
「ブモ! ブモ!(美味い! こんな美味しい物、初めて食べた)」
――すると俺の身体が少し暖かくなり身体に刺さっていた矢や槍を押し出し、傷が消えた。同時に俺の頭の中に情報が流れ込んで来た。
―――――――――――――
『同族喰い』:同族を食する事により体力や傷が回復する。ただしその度に凶暴化する。
―――――――――――――
ほう、ミノタウロスが持って居るスキルなのか!? それにしても俺をまだ人間族と観てくれているとはな。
それを観ていた他のミノタウロス達も、俺のマネをし街の人間を喰らった――しかし俺の様に傷は治っていないようだ……。あいつ等の身体にも数本の矢や槍が刺さっている、治らないのは致命傷だな。
なぜだろう、俺だけの特別な力なのか、血縁者じゃなければダメなのか、それともあいつ等、元は人間族じゃないのか……分からんがまあどうでもいい。考えるのが面倒になって来た。
俺達が人を喰っているのを観た金と銀の騎士は、恐慌をきたしたのか武器を捨て逃げ出した。馬鹿な奴等だ――俺達の蹂躙の邪魔をした奴等を見逃すわけがないだろうに。
……………………
…………
……
俺は今、金と銀の鎧の中身を喰らっている。弟の方が美味かったな。若いからかなぁ? あらかたこの
あれ? この街は俺の街だったような……何て名前だっけ? 俺と同じ名前だった気が……俺の名前は何だっけ? まあいいか。
「ブモ、ブモ……(下等種族のくせに俺に傷を与えるとは……死にたくない……俺は高貴なエル……?)」
それよりも人を喰らうと回復できる俺とは違い、他のミノタウロス達は傷が治らないので、見るからに死にそうだ。あっ! そう言っている間にまた一体くたばりやがった。
結局生き残ったのは俺と、背中に数本の矢が刺さったままの血だらけの、さっきスキルが『転移』だとか言っていたミノタウロスのみ。俺達はお互いに顔を観合わせ頷く。
次は王都に向かおう、ただあそこにはこの『タウラス公国』最強の騎士達がいる。勝てるのか? たかがミノタウロスの俺達に……。
いや、そんな事は関係ない、俺達は命令に従うまでだ!
よし王都に向かおう! そして王都も蹂躙し終えたら俺達は自由だ!
――いや違う、王都も蹂躙し終えたら俺達のご主人様は喜んで下さる!
だから急がなきゃ、早く役目を終えて褒めて貰わなきゃ! ハァハァハァハァ!
「ブモォォォォォォォ! (体中に力が滾るぅぅぅぅぅぅぅ!)」
俺はその事を考えるだけで体中が、下半身が硬く熱くなるのだった――。
『タウラス公国』編 【完】
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