第7話 崩壊と竜

「まさか次の解放条件が魔物の大きさだったとは、通りで何百匹も倒してもレベルアップしないはずだよなぁ」


 僕はロックタートルの甲羅の中で亀のスープを煮込みながらそう呟いた。

 ここは森の中のロックタートルを倒した場所。本当は父さん達が眠っている崖の下までロックタートルを運びたかったが、いくら『パワータウロス』でも10mもある魔物を持ち上げるのは無理だった。いや、岩みたいな魔物のロックタートルじゃ無かったら持ち上げられたかもしれないけど。


 仕方が無いのでこの場所で解体し甲羅の中身を綺麗に取り出し水で洗い、その甲羅を匂いが取れるまで数日日干したり中で火を焚いて煙であぶったりした。

 手足、尻尾を出し入れしていた部分は石や木で塞ぎ、その中に住んでいる。首の部分は亀の頭蓋骨をドアとして置いて出入り口にしている。中々快適だ。


 毒で倒したので甲羅の中身から取り出した食材は、一緒に数種類の大量の毒消しと一緒に煮込んだ。暫くすると上の方が紫色になって来て、それを全部すくい取り、冷ました後、生け捕りにしていたホーンラビットの口に無理やり流し込んだ。

 すると口から泡を吹き、目を見開いたまま死んでしまった。


 次に紫色の液体を取り除き綺麗になったスープを同じ様に別のホーンラビットの口に無理やり流し込んだ。


…………


――大丈夫なようだな。この方法で亀のスープが飲めそうだ、僕はスープの入ったその鍋にキノコや野草なども入れコトコトと煮込み、暫くの間、美味しいスープ生活を味わった。余っている肉は地面に穴を掘って上から大きな葉っぱを何枚も乗せて保管している。


…………


 数日経った――飽きた、しかもまだ大量にあるけど、何かヤバそうな匂いもするし腐ってきたのかもしれない。

 仕方がない、勿体ないけど燃やして処分しよう。暫くするとすごくいい匂いが辺りを漂ってきた。


 バッサ バッサ、『ん、なんだ?』、空をみると大きな影が通過して行った。

 しかしその影はまたこちらに戻って来て上空を旋回した――ドラゴンだ。


 そのドラゴンは焼いてある亀の肉の傍に降り立った。僕はその真っ赤なドラゴンを見上げた。20mくらいはありそうだな。流石にこれは逃げた方がよさ――。


――そう思っていた矢先、そのドラゴンは焼いてある亀の肉にかぶり付いた・・・・・・


「あ!」、僕は思わず声を上げた。


 暫くの間、僕は『ミニプチタウロス』の姿でその食事風景を甲羅の家の陰から見つめていたが、亀の肉を全部食べ終えた時、突然喉を掻き毟りのたうち回り、そして口から泡を吹いて、最後には目を見開いたまま死んでしまった。


 もしかしたらドラゴンには毒耐性があるのかなと思っ――。


≪ピコン! 『解放条件 龍種の魔物を1匹殺す』を達成した事によりレベルが1つ上がりました。それにより『クイックタウロス』への変化が可能になりました≫

≪ピコン! 『解放条件 大型サイズの魔物を1匹殺す』を達成した事によりレベルが1つ上がりました。それにより『マジックタウロス』への変化が可能になりました≫


 二度、僕の頭の中に聞こえた。


 え? 二回聞こえた気がしたけど、『クイックタウロス』と『マジックタウロス』だったかな?

―――――――――――――

『クイックタウロス』:身長1.8m。全身まっ黒な体で手足が異常に長い敏速特化型の牛の魔獣になる事が出来る。意識を失うか解除したいと思えば元に戻れる。


『マジックタウロス』:身長1.5m。全身紫色の体で2本の太い角が生えており、右が赤、左が青くなっていて、それぞれの角から異なる魔法を放出する魔法特化型の牛の魔獣になる事が出来る。意識を失うか解除したいと思えば元に戻れる。

―――――――――――――

 詳細が僕の頭の中に大量に入って来た。


 すごいぞ、流石はドラゴン! 二つ同時に解放条件を満たすなんて!


「おいおい、どういう事だ? レッドドラゴンが死んでいるじゃねーかよ」


 突然ドラゴンの死骸の傍から声が聞えてきた。そこには全員男の人だと思うが、弓を持って居る耳の長い三人組が居た。もしかしてエルフ族? 初めて見た。


「見て下さい、口から泡を吹いています、変な物でも食べたのでは?」


「……たぶん、毒――」


 え!? エルフ族の一人がいきなり僕の方に向かって矢を放った。


「……あそこ、いる」


「わっ!?」10mは離れているのに15cmの『ミニプチタウロス』が見えたのか? それともたまたまか? 遠すぎて声がはっきりとは聞こえない。

 僕は素早く亀の甲羅の家の陰に隠れたが、エルフ達の視線が集まる。


「何? なんだあれ? ロックタートルの甲羅か? まあいい、おい! 聞こえるか! 出て来やがれ!」


 大声で叫んできた、やっぱりばれている、どうしよう、このまま逃げた方がいいかな? でもエルフ族は確か森の民って呼ばれていたはず……それが三人も居るからミニプチでも逃げきれないかも。


「出てこないようでしたら、その甲羅ごと吹き飛ばしますよ!」


 そんなに怒鳴らなくても……それにしても苦労して作った人の家を吹き飛ばすぞとか、ひどい事言うなぁ。 あっそうだ! 可愛い『ジュニアタウロス』の姿ならエルフ族と仲良くなれるかもしれないな。僕は『ジュニアタウロス』の姿になって奴等らの前に姿を現した。


「ど、どうも、こんにちは」


…………


「なんだあれは? 豚か?」

「いやあれは子牛ではないですか?」

「……ちがう、たぶん、ミノタウロス」


「何? ミノタウロスだと!? あの牛の魔物の?」

「そう言われれば、二足歩行ですし、ミノタウロスに見えますね」

「……そう、あれは、ミノタウロス、即ち魔物――」


 そしてさっきのエルフがまた僕の方に向かって矢を放った。『わっ!?』僕は慌ててまた甲羅の影に隠れた。僕の声が届かなかったようだが、それにしてもなんだよ全然効果がないじゃないか! 安らぎと幸せを与える愛玩特化じゃなかったの? 説明通り抱っこして貰わないとダメなのかな?


 どうしよう? 魔物と勘違いされたみたいだな、うーん、人間の姿で話せば分かってくれるかな?


 人間の姿に戻りエルフ族の前に出て行った。


「ん? なんだ、下等な人間族のガキが居やがったのか、ああなるほどな、お前『テイマー』か?」


 そう言い僕に近づいて来た。


 僕の父さん達は『魔獣使い』という獣系の魔物とのみ契約し『従魔』できるジョブだけど、他にも似たような『動物使い』、『魔物使い』、『精霊使い』などのジョブもある。それを総じて『テイマー』と呼んでいる。


「えーと……」


「まあどうでもいいか。下等な人間族とは話したくもないが、お前なんでドラゴンが死んでいるのか知っているか? いや原因は毒だと言うのは分かっているんだが、なんでこうなったのかだ!」


「見ると、何かの肉を食べたみたいですが……、もしかしてそこのロックタートルの肉ですか?」


「……ロックタートル、肉、毒ない」


「ああそうだ、ロックタートルは毒を持っていない、だから誰かが肉に毒を混ぜたんだろ」


「せっかくレッドドラゴンに目印を付けてここまで後を付けてきたと言うのに」


「……オレの、刺した矢、場所分かる、オレと、繋がっている」


 そういいその男は死んでいるドラゴンの背中を指さした。そこには一本の赤い矢が刺さっており矢羽に小さな魔石のようなものが付いていて、そこから半透明な糸が伸びておりヒラヒラと風でなびいていた。

 なるほど、スキルなのかその矢の効果なのか分からないけど、とにかくドラゴンにその居場所が分かる矢を刺して後を追って来たって事か。


「えーと、何の為に矢を……」


「はぁ? お前馬鹿か、やはり下等種族だな、ドラゴンと言えばお宝だろ、奴等は光輝く物を集めるのが好きでな、たまに気まぐれで街を襲って、そこで見つけた宝石や財宝を自分の巣に持って帰るんだよ。だから後を付けてそのお宝とドラゴンの素材を手に入れるという一石二鳥作戦だったのによぉ、誰かが邪魔しやがって!」


「それで君は何か知っているのかい?」


 え? もしかしてこの人達あのドラゴンを倒せるくらい強いのかな? ホントの事言ったら不味そうだな。


「いえ、僕は何も……気づいたらそのドラゴンが死んでいて……」


「あっそう、じゃあ君はいらないや、最後にボク達みたいな高貴なエルフ族と会話できて幸せだろ、死んでいいよ」


「えっ!?」

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