第21話 来客。勇者パーティは失笑の的らしい。


 我が師テンコが教えてくれた物にマジックミラーと言う物があった。一見ガラスの鏡だがその裏側からは向こう側が見える。


 俺は今回そのマジックミラーなる物の原理を自宅敷地周りに展開する結界障壁に付与した。


 すると外からやってくる奴らには自分達の姿が見えるだけ、敷地内の俺からその姿が丸見えという状況である。そして、村人バカ共とは関わらない。関わったところで不快になるだけ、ならば相手にするだけ無駄である。


 そうして何日か経った。一台の見覚えのある馬車がやってくる。


「うーん、この村にき戻ってて初めて人間と話せるな」


 俺はそう独言ひとりごとして、出迎えの準備をした。



 俺の家の敷地の前に馬車が近づいてくるタイミングで俺は馬車が入って来れる程の幅の障壁を解除した。

 御者が座る後の両開きのほろが開き、予想通りの人物が顔を出す。


「ああ、マリク、久々だね。故郷に戻ったと聞いて。だが、私を入れて良いのかい?自宅に閉じこもっていると聞いたんだが」


「あなたが来るというのに居留守は出来ませんよ。でも、ちょうど来る頃かなとは思っていました。ルーソンさん」


 そう応じて俺は中に招き入れ、再び誰も入れないようにする。ルーソンが入るのに続き、自分達も…と入り込もうとする奴らを締め出してやる。


「いやはや、のどかな所だ。しかし良いのかい?ここは農村だろう?寸暇を惜しんで畑仕事にいそしもうという村人がいないね」


「ああ、ここの村人はラクを覚え過ぎたんです。だから働かなくなってしまって。そのへんは勇者パーティと同じですね」 


 そう言って俺は丸太を輪切りにして椅子代わりにしたものをルーソンさんに勧め、師匠が好きな緑茶を淹れて彼に渡す。


「勇者か…。そう言えば勇者グリウェルはホブゴブリンの討伐を失敗したようだね。勇者達は自分達の活躍を喧伝しようと吟遊詩人達を多数同行させたそうだ。王室お抱えの有名どころから町の酒場で一曲いくらで歌う流しの者たちもね。だが結果は手下のゴブリン一匹倒す事が出来ず、ホブゴブリンに一薙ひとなぎされたらボロボロになって逃げ帰ってきたらしい。今、カルアリンでは『勇者の醜態』という曲が大流行さ」


「へえ…。でもまあアイツらの実力じゃあそうでしょうね。死なずに済んだのは使いこなせていなくても、着込んでいる防具が伝説級の逸品ばかりですからね。さすがは伝説の装備。付与魔術士エンチャンターとしては憧れの品です。でも、よくそんな歌が流行りましたね」


「さすがに王室お抱えの吟遊詩人は今回の失態を歌にする事は無かったが、町中の吟遊詩人は違う。勇者達が敗退し、作詞料をもらって歌を作る話は立ち消えだ。そうなったら何の見入りも無いばかりか、ホブゴブリンの巣まで無駄足を踏まされただけだ。何の稼ぎも無いばかりか、同行している間に稼げたはずの金が入ってこない。だから吟遊詩人達は今回の失態を面白おかしく歌ったら大ウケして一稼ぎになった。そうすると町の民の誰もが知る勇者の間抜けな物語…みたいな事になったのさ」


「へえ…、人の噂を止める手立ては無い…って奴ですね」


「そうだね。じきにこの村にも噂は伝わってくるだろう」


「ああ〜、そりゃ大変だ」


「どうかしたのかい?」


「勇者ってこの村の村長の息子なんですよ。それだけじゃない、パーティ全員この村の出身です」


「それはまた…。畑には何もうわってないようだし…、勇者達は役立た…いや残念な事になってるし…。なんかこの村…、救いようが無いねえ…」


「俺のせいじゃない…、と思うんですけどねえ…」


 頭をかきながら俺はルーソンさんの話に応じていた。










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