ライデン・ハート ~脈動する雷心~
荒場荒荒(あらばこうこう)
第1話 雷と共生する都市
電動都市イノセント
碁盤の目状に区画分けされた場所。それだけならばそこまで特別なことはない。しかしこの都市にしかない特徴がある。それは都市機能が文字通り全て電気によって成立しているのだ。インフラとしてはもちろん、通貨すらも電気で、具体的には送充電できるバッテリーに貯めてある電力(ワット)がそのまま通貨単位になっているのだ。資金力ではなく発電力があれば豊かな生活を送れる、人によっては夢にも思える都市なのである。
そんな夢の都市イノセントはある問題を抱えている。
まずは晴れないこと。都市全体が帯電しているためか、引き寄せられるように雷鳴轟く曇天が常に空を覆う。そのため食用植物や家畜などの食に関するすべてのものを室内で管理する必要がある。
そしてもう一つ大きな問題がある。それが雷那(いずな)と呼ばれる化け物の存在である。雷那(いずな)とは一言でいえば意思を持った電気で、個体によって姿は千差万別。四足歩行の獣もいれば、人間の姿に近いものもおり、果ては空を飛ぶ鳥などいまだ全種類把握されていない状態である。災害級の規模になると一国を呑み込むほどの巨大な龍すらいたという記録が残っている。
そんな雷那(いずな)には共通した特徴がある。それは人間だけを狙って襲うという点だ。全身が電気でできた生物。一般人にはもちろん、戦闘の心得がある人間にすら対処不可能な存在が人間だけを襲うという事実はイノセントに住む人々を戦慄させた。
そこでイノセントを治める者たちは雷那(いずな)に対抗するための部隊を設立した。名を『雷光真衆(スパークル)』。雷那(いずな)に対抗するために電気を武器へと変えた者たち、通称操電師(ブライター)と呼ばれる者たちで編成された対雷那(いずな)戦闘部隊である。
電動都市イノセントの中央にある雷光真衆(スパークル)の本拠地。そこではイノセント全体の様子が把握されており、雷那(いずな)の発生地点や規模などの情報がここで統括されている。建物全体がすべて機械化され、電気がなければただの鉄くずになり果ててしまうような要塞のような場所である。このシステムはイノセントという都市が持つ莫大な電気で半ば無理やり成立させている。そんな雷光真衆(スパークル)の心臓であるこの場所で、一部隊が対処に動こうとしていた。
『A5-13区画で雷那(いずな)発生確認。
雷光真衆(スパークル)の頭脳である制御室から隊長
「今日も隊長はいないのか?なら今日も俺が頑張りまくっちゃおう。」
「そんな張り切られるとこっちが無駄にフォローしなきゃいけなくなるんだからほどほどにしといてよー。」
副隊長のあとについていく形で白い道着を着た
「あの常時迷子な残念隊長のことは放っておきなさい。忘れたころに泥豚みたいな姿で現れるでしょうから。」
上官のことを指しているとは思えないほど辛辣な一言で切り捨てたあと、三人はある場所に向かう。ついた先は大量の乗り物が並んだガレージ。そこには各部隊専用の乗り物がある。その中でも戦闘部隊には小回りが利くように電動バイクが用意されている。本来タイヤであるべき部分は特殊な磁場を発生させて地面から浮かせるホバリング仕様のバイクで、雷光真衆(スパークル)の開発部隊が製作、修理などの全般を担当している。
「雷那(いずな)の発生源付近には複数の一般人の反応があります。今は耐電住居に避難しているとはいえ、そこまで長くはもたないかもしれません。とにかく急ぎましょう。」
そういってそれぞれのバイクに跨がる。ちなみに
三人はガレージのシャッター付近まで近づき、代表してハダネが雷光真衆(スパークル)の頭脳である制御室のオペレーターに連絡を入れる。いわゆるスマートウォッチ型のもので声だけで自由に操作できる優れものだ。
「
『…
オペレーターの一言ともにシャッターが開く。しかし光は差し込まない。いつものように雷を孕んだ曇天が空を覆っているからだ。代わりに要所要所に外灯が常に光を放ち、道を照らしている。そこから大きく飛び出し、目的地へとまっすぐ向かうのだった。
「もうちょっとで、あと少しで助けに来てくれるからね。」
恐怖心にかられ泣きじゃくる我が子を必死に宥める女。彼女は我が子を懐に抱えて家の中で息をひそめる。一歩外に出てしまえば雷那(いずな)に襲われてしまうからだ。彼女は現在、雷光真衆(スパークル)からの救援を頼りに何とか耐え忍んでいた。
雷那(いずな)の発生が日常茶飯事の電動都市イノセント。一般人は当然雷那(いずな)という存在の危険性は重々承知している。またイノセントに住むための住居は耐電機能を十二分に盛り込んでいる必要がある。雷那(いずな)も結局は電気。耐電性がそのまま雷那(いずな)への抵抗力となる。いま彼女が立てこもる場所も当然安全基準は満たしていた。しかし……。
「…嘘でしょ。」
目の前では壁をぶち破る雷那(いずな)の姿。鬼のような姿の雷那(いずな)が殴りや蹴りで壊してこちらへと侵入してきたのだ。とっさに逃げようとするも恐怖心から腰が抜け立ち上がることもままならない状態だった。雷那(いずな)が自らの体を伸ばし電気でできた金棒を生み出す。そしてそのまま大きく振りかぶってきた。まさに絶体絶命なそのとき。
「雷覇一刀・落雷」
大きく縦に割る刀の一撃が雷那(いずな)を真ん中から真っ二つにする。雷を纏った刃が雷でできた異形の怪物を真っすぐに割ったのだった。それはどこからか降ってきた青年による一撃。
「間に合ったみたいだな。よし、今度こそハダネのやつに嫌味言われないで済むぞ。」
そういって辺りを見渡し何かを確認する青年。彼こそが
「出動要請入ってたからてっきりここだと思ったが、もしかしてここじゃなかったか?」
普段から雷光真衆(スパークル)の本拠地にいない分、先回りして見直してもらおうとしたが失敗したことを悟る。ということは他の部隊の対象を横取りした可能性が出てきた。
「まあ遅いほうが悪いってことでトンズラこきますか。」
レントは後ろで呆然とする母子を無視してその場を去る。自分の部下たちのもとへと向かうために。
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