15. 新女王戦(破)
念のため、さきほどの戦いについて説明しておこう。
新女王選の立候補者が複数いた場合、落選者全員の棄権による不戦勝にならない限り、新女王就任式の場で戦いが行われる。新女王戦というわけだ。
新女王が壇上に立つ前に、落選者が誰も攻撃しなかった場合が不戦勝。なお、新女王は最初に攻撃してはならない。
落選者は一人につき二発ずつ魔法を放つことができる。一方、新女王が放つことができるのは、落選者数の二倍だ。つまり今回の辛子は、四発まで魔法を放つことが可能だったのである。新女王・落選者ともに自分の放った魔法の取消魔法はカウントされない。
落選者が複数の場合、落選者は自分または他の落選者が一発放った後、三秒経過するか新女王が一発放つまでは、次の魔法を放ってはならない。だから落選者は他の落選者の動きにも気を配る必要がある。
攻撃を受けると敗退だ。落選者は、二発放った時点で新女王が敗退しなかった場合に敗退となる。
新女王敗退または全落選者敗退で戦いは終わる。
戦いに加わらない者を負傷させてはならない。落選者は落選者を攻撃してはならない。これらはかすり傷一つでもアウトであるが、服が汚れたりとか、びしょびしょになって透けてブラが見えるくらいは問題なし。むしろ嬉しい。
どんな違反や不正も即敗退となる。
不戦勝もしくは新女王が敗退せずに戦い終了で、女王就任が確定する。新女王敗退となった場合は、敗退していない落選者同士で新女王選が行われた後に、再び就任式に臨むこととなる。これは女王確定まで繰り返される。
今回の黄葉のように、途中で勝負を投げるのもありだ。投げると当然敗退だ。
戦いの一部始終は魔法録画装置で記録されており、魔法測定システムとの連携により、勝敗判定と違反・不正監視がリアルタイムで行われている。さらに、高等部の優秀な魔法少女が五人だけ来賓として参列している。アンフェアな戦いをした者は、放課後に彼女たちから体育館裏へ呼ばれることになる。
以上、説明終わり。ちょっと長くなってしまったが、PTA会長の挨拶よりかは短かったと思うので許してほしい。
就任式が続行している。
グラウンドに設置された壇上に立つ辛子が、就任挨拶を笑顔でこう締めくくる。
『私を選んでくれてありがとうございまーす。私のウィータは、みなさんのウィータです。これから一年間、たっぷり嗅がせてあげるねっ!』
続いて、旧女王が新女王に一粒の紅い丸薬を手渡す。これは、遺伝子組み替え
これを飲むと、なんと通常の三万倍もの量のウィータを放つことができるのだ。女王はこれから毎日、これを一粒ずつ与えられる。女王期間は、二年生の秋から三年生の秋までの約一年間。
そして就任式を閉じる一発。女王就任後の初発。辛子が壇上で生徒たちに背を向けた。
――ぷすぅぅぅ~~~~~~~~~~~~~~~ぅ~~~~~ぅ~~~
さすが三万倍の量。噴出時間がかなり長い。といっても三万倍の時間がかかるわけではない。極めて濃厚なのが約八〇秒間続くのだ。過去最長記録は、なんと九一秒。
音は微かである。壇上から少し離れて列を作っているその先頭の生徒にはたぶん聞き取れていないはず。仮に聞こえていても、相手は思春期の女子なので聞かなかったことにする。
放たれたウィータはじんわりとグラウンドに広がって行く。よほどの強風がない限りすぐには散らない。とても清々しい香りだ。今日のような良く晴れた秋空よりも爽やかに軽やかに健やかに。
中等部全生徒並びに教師・来賓のみんなが揃って、しばしポワァ~~ンとした幸せに浸る。
ちなみに辛子の記録は、惜しくも八八秒だった。最長記録更新ならず!
まあ何はともあれ、これで今年も無事に次の頂点つまり女王が決まったのだ。
特に今年は第三〇代の節目の年でもあり、そして何より姪がその栄誉を勝ち取ったので、中等部教頭・
来賓席には第零代女王・
しかもウィータ女王制度が始まって以来初となる水着姿の女王だ。一〇月の少し柔らかさが感じられる日差しが、紺色の布地を照らしている。これもまたご褒美である。野馬辛子を選んで本当によかったと、多くの男子生徒と一部の女子生徒は思っていた。
みんな女王に敬意を示してはいる。しかし多くの女子が水着姿に関しては「わたしのほうが似合うわよ」と思っているのだ。大勢の男子の視線が辛子一人に集まっていることが何よりも悔しいらしい。
秀香学園中等部は、国営新ガス専売公社(略称:新ガス社)への女子就職率が去年初めて全国二位に躍り出た。数年後には間違いなく一位の座を奪うだろうとも言われている。
今年の三年生では、女子一一二人中の九九人までもが新ガス社に内定しており残りは高等部へ進む。男子は一一八人中の四人だけが新ガス社で、他は全員高等部行きだ。
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