　結婚する前、夫はとても紳士的だった。

　レストランでのディナーは、とっても優雅にナイフとフォークを使ってたし。箸の使い方も丁寧だったし。自分だけガツガツ食べず、少食な私の食べるスピードに合わせてくれたし。

　けれど、結婚すると人は変わるというか。多分、面接を受ける就職活動の学生みたいに緊張して対応してたんだろうな。

　今じゃあの頃の面影もない。スーツに隠されていたお腹は、肌着の状態じゃそのまま出てトランクスの上に乗っかったスイカのよう。こちらが夫らしい姿だったのだろう。

　目の前に大食いな人がいると、私もつられて、食べるスピードと量が鍛えられた。おかげであの頃から5キロも太った。

　でもまあ、仕方ない。

「お父さん。それ、かなこの分」

「あ、はい」

　すっ、と伸びた夫の手が引っ込められた。

　まったく、自分の陣地（皿）に溜め込んでから食べようとするとか。

　こちらも負けじと大皿から取り分けて、自分と娘の陣地（皿）に持っていく。

　私と向かいあってピザを食べる夫は、今ではすっかりゴヤの『サトゥルヌス』。

　うっかりすると私(の分)どころか子ども(の分)まで食べられてしまうぞ。

ーーー

花金

今週のお題「らしさ」

レギュレーション

食べ物を一つ入れてください。

ゴヤの『サトゥルヌス』がわからない人は、検索を掛けてみよう!!

真面目に恋愛書こうと思ったのですが、先にこっちが思いついてしまいました。

日曜日の夜までに、もう一本書くかも？

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