ラッチストーリー
綾音 リンナ
第1話 ラッチと恋
日の差し込む部屋の窓から暖かい風が入り込む。光が部屋を照らすにつれてひとりの少女が目を覚ました。しぶしぶと開けられた大きくエメラルド色の輝く瞳。
茶色のサラサラな長い髪をなびかせ、ベッドから起き上がる。
「おはようございます。ラッチ様。」 私服に着替え廊下を歩くと、奥から大勢のメイド達が立ち並ぶ。ラッチはその間を通りながら「おはようございます。みなさん今日もよろしくお願いします。」と、礼儀正しく挨拶を返した。
「シャム!おはよう!」「あら。ラッチおはよう。」広い居間に入ると、お気に入りの薔薇に水をあげている義母のシャムがいた。政治関係の仕事をしており、この家庭の莫大の財産を代々と引き継いでいる。ラッチにとってシャムは特別な存在でもあり、自慢の義母でもある。
「ねーえ。シャムー…。」 「どうしたの。」
ラッチは頬を膨らませて、カップに入っている紅茶をのぞきながら言った。
「言ったでしょう?私は紅茶が苦手なの!」「紅茶は品があって美しくふるまうことが出来るのよ?それに、ラッチが昨日『頑張って飲むよ!』と
張り切ってたじゃない。せっかく準備してあげたんだから綺麗に飲みなさい。」「う、うううう!」
「行ってきまーす!」
城のような大きく立派な家の戸を開き、ピンク色の鞄を背負う。小学1年生のラッチは学校一のお金持ちで、特別な生徒として私立の小学校に通っている。ラッチが通っている学校には裕福な生徒が多く、通うにも高額の学費などが必要である為、なかなか入学出来ないエリート校でもあるのだ。その学校でラッチは特別扱いをされ、『学校の宝物』 ともいわれている。
成績はいつも優秀であり、身体能力も高く、佳人の美しさに華を咲かせている。
優しく明るい性格で女子にも男子にも人気があり多くの人たちに愛されている。
学校に着けば必ずラッチを中心にして、注目される。中にはラッチを好み憧れる者も
いれば、ラッチを嫌い 良くない噂を立たせる者もいる。「おっはよーうっ!!」背中をむけるラッチの耳がピクリと動いた。 (ーリリカちゃんだ!!ー)
「おはよう!リリカちゃん。」リリカは世界的なモデルであり、テレビ出演に多く登場していてドラマの完璧な演技力が魅力だと大手の事務所が推していることをマスコミや、ネットに掲載されて話題になった。
そんな有名人がラッチの親友なのだ。
「ラッチ―!聞いて!このまえさぁ服を買いに行ったんだけど―、歩いてるときにサイフを落としたのだよー。それでさ後に『あっ落としちゃった。』って気づいたわけ。そのとき偶然に馬君と会っちゃったの!そしたらね、『これ落とした?』ってね言ったのよ。何かと思えば私が落としたサイフだったのー!めっちゃ優しくない!」
隣で興奮するリリカのエピソードにラッチはへ~と感心した。
「馬君が服を買うなんて珍しいね。」 「ちょっとラッチー、そっちじゃないでしょー。」リリカがラッチに冷たい視線をむける。
「じゃあどっち―?」「今は馬君が優しい話のほうでしょー。」「えー?」
「なあに。ラッチってば馬君に興味ないの?」
「うん!大丈夫!ないよ!!」
「きっぱり言ったな~…。」 「だって私、恋とか興味ないもん。」すると、リリカは目を見開きうそー!と驚いた。ラッチは首をかしげる。
「なんで?恋なんてしなくても生きれるよ?」
「ラッチってばー。大人に成長するには恋だって必要なんだよ!]
しかし ラッチは上を向きながら眉をひそめる。
大人になるには恋をしないとダメなんて事ないし。 そもそも、恋なんてわからない。
「あっ!わかったぁ~!!ラッチってばそもそも恋なんて何なのか知らないんじゃない?!」ラッチは無理やり笑みをつくり「えぇっ!?」と肩を上げる。出会ったときからリリカは読心術のようなものを極めているのかラッチの表情を読み、考えている事がすぐにわかってしまう。悲しいときも楽しいときだって。
「うん、正直なところわからないよ。」ラッチはきっぱり答えた。
「まぁそれは後でわかるよ!私がおしえることなんて、出来ないしね。」
「う、うん…?」
ー放課後ー
ラッチの班の2班はトイレ掃除の当番決めに頭を巡らせていた。「うーーーむ。どうする。女子どもよ…。」
「はあ?もう良いじゃない!男子はトイレで3人、女子はラッチだけでトイレ掃除させるの!今日ひとりだけ女子が休みだからってあまり悩みこむ必要なんてないでしょ!」ラッチと同じ班の春花が声を荒げる。けれども話を聞こうとしない男子の
(どうしよう・・・。このままじゃ二人とも喧嘩しちゃう・・・!)ラッチは慌てて止めに入った。「大丈夫よ。ちゃんと1人で出来るんだからっ。」。すると、二人の口論が一瞬吹いた風のように消え去った。「ラッチ様がそこまでいうの
なら・・・。」五月はようやく諦めたようだ。
「ラッチ!ごめんなさい!後はよろしくね!」
春花はラッチに頭を下げ、教室へと向かっていく。
「あーあ。ラッチ様の花柄ワンピースが濡れてしまうぜー。」五月ははあ・・・とため息をつく。
「五月の服じゃないから良いだろ。」と
すると、五月が何かを思いついたらしく、面白がるようにして馬の耳に囁いた。すると、馬が顔を真っ赤にして小さな声で『お前、バカか!』と、怒鳴る。
ラッチは何がどうしたのか知らないが、その状況が【馬の耳に念仏】のようだと考えた。意味は違うが・・・・。
「ふぅ。後はこれだけね!やっぱり掃除するのって楽しいな。」ラッチは箒で大量のホコリを集めていた。ラッチが真面目だからなのか、どんなに汚くても面倒がらず、最後までピカピカに仕上げるのだ。普段、家にいる時はメイドや清掃員が掃除をしてくれるのだが、学校にいる時はみんなで先生の手伝いをしたり、掃除をする。「拭き掃除も終えたし後はトイレットペーパーの補充とちりとりだけね!」
すると、トイレのドアがゆっくり開いた。「ラッチ、入るよー!」背後から声が聞こえてきたので「はーい!」と返事をし、振り返ると…。
「!!…う、う、うう馬君!?」
「なっ何でここに…!?ここ女子トイレだよ!!」
「いや、一人じゃ大変かなって…。」
「恥ずかしいからーぁ!!」
「トイレの個室のトイレットペーパーの補充ぐらいならしていいんじゃない?」馬は遠慮がちに言った。
「良いの?手伝ってもらって・・・。」
「うん。そのために来たからね。」馬はにっこりしながら頷く。ラッチの胸がどきんと鳴る。
(わぁ―・・・。馬君。ちょっとは優しいかも・・・?)
「じゃ、じゃあよろしくお願いします・・・。」
「さぁ!あとはちりとりを片付けるだけ・・・・っと。」ラッチはちりとりを手に取り、固まったような体を起こしながらドアへと向かった。
ーするとー
「きゃぁっ!!」
ラッチは足元にあるトイレットペーパーの芯を踏み潰して滑ってしまった。
「ラッチ!?」
何かがラッチの体を素早く支えた。
「ん・・・・。」
ラッチは瞳を開けると目を丸くした。
ラッチの唇に馬の唇が合わさっているのだ。
(キ、キスゥゥ!?)
「「わああああああああああああ!!」」
ラッチと馬の頭は大混乱だ・・・!何故か。それはキスをしてしまったからだ!!
時間が立つと二人は騒ぎを止め、静まり返る。沈黙の気まずい空気にラッチは一言に声を出した。「何ですかこれ・・・。」 「知るわけないだろ・・・。」 ラッチは馬と目が合い、時間が止まったかのようにお互いの顔を見続ける。
「・・・がとう。」ラッチは小さく呟く。馬はえっ?と聞き返す。
「ありがとう・・・。馬君。」ラッチは花が咲くように微笑む。やさしく優雅に。
「・・・・どういたしまして。」馬は照れながらラッチから目を逸らした。
なんだか馬くんを気に入っているみたい 私
もしかしてこれが・・・こ・・・
キンコンカンコーン!!!
「わっ!もう帰る時間!?」ラッチの思いを断つ鐘に ラッチは飛び上がった。ラッチは急いでドアから出るとその後に馬君がついてくる。息を飲みこみ、後ろにいる馬に話しかけた。
「あの・・・、良かったら一緒に帰りませんか?」
今 初恋を した
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