銃と魔法の杖 ある魔術師たちの物語

アクリル板

第一章 黒い魔導機編

プロローグ

 視界が赤く染まる。

 身体が挟まって動かない。足の感覚も無くなっている。外に出ようにも、これではどうしようもない。

「……一佐……他の皆も……もう、だめかな……」

 僅かに力の入る腕を動かし、操縦桿を倒す。だが、コックピットへ振動が来ることは無かった。

「せめて……マリアだけでも。」

 無事に逃げていてくれ。

 動かないコックピットの中、死を待つのみの彼に出来ることは、もはや祈ることしか残されていなかった。

 そのはずだった。

「タネフミッ!」

「……なっ、マリア……!?なんで……君だけでも、逃げてくれって、そう言ったじゃないか……!」

「……逃げてどうするんだ。私一人で逃げて、どうしろと言うんだ!?何の目的もなく、一人で、どう生きろと言うんだ!?」

「マリア……」

「私に、生きろと言ったのはタネフミだ。お前が言ったんだ。私を兵器ではなく、人として見てくれた。だから私は、決してお前を見捨てない……!見捨てたく、ないっ!」

 白い光が彼女を包む。腕を囲むようにして現れた紋様———魔法陣と呼ばれるそれが、彼女の持つ魔力を現実へ干渉可能な力へと変換している。

「うっ……く、あぁァァァッ!」

「マリア……ッ!」

 焼け爛れた装甲板が軋み、歪んでいく。どれだけの力なのだろうか。魔術によって強化してあるだろうとはいえ、今の彼女の身体的ダメージを考えれば、とんでもない無茶をしていることに違いはなかった。

「だったら俺も、最後まで———!」

 手が繋がる。棺桶のように小さく、狭く歪んだコックピットに挟まれていた身体が、赤く燃える煤だらけの外へ引きずり出された。

「はっ……はっ……はぁッ……」

「なんで、あんな無茶を……」

「私は、お前と生きたい。仲間を、皆亡くして、一人で生きるなんて、出来ない……!」

「……俺もだ。一人で生きるなんて嫌だ。俺は……俺も、マリアと一緒に───」

 

 この日、2035年6月11日。東アジアで起きた戦争は、双方の痛み分けという形で停戦した。

 十数発以上の核が使われ、数多くの人命が失われたこの戦いにより、2つの大国は死に体となり、その間に挟まれた島国もまた、甚大な被害を受けた。

 この二人も同じであった。ある魔術師の手により、戦う為に調整された人造人間ホムンクルス。彼らには10人の仲間がいた。人型魔術兵器、「魔導機」の運用の為結成された特殊部隊の隊員であったが、その部隊は、味方部隊と避難民の殿を務め、全滅した。

 本来感情を持つべきではないはずの彼らは、魔術師の善意か、あるいは悪意か。ただの人間と、何ら変わらない感情を有していた。

 それ故に。この2人は、生きる未来を選んだ。人としての自分を、取り戻すために。




西暦2042年4月。

種文とマリアは、高校2年生になった。


  

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