レッスン57「畑 (9/10)」

 翌朝、


「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】!!」


 西の森の東に広がる草原で、目の前に広がる広大な地面を深さ数十センチほどまでごっそりと【収納】する。


「「「「「おぉぉぉおおおおおおッ!?」」」」」


 後ろで見物している難民の方々から驚嘆の声と歓声が。

 腹いっぱい食べてぐっすり眠ったからなのか、みな元気なように見える。


 ここは、中央通りからやや北に登った地点。

 わずかに傾斜になった平野だ。

 いまからここに、農村を作る。


「――【目録カタログ】」


 お馴染みのウィンドウを表示させ、大量の土の中から岩や石、草を取り除き、


「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】!」


 土の半分を戻す。

 このとき、ミミズは殺さないように細心の注意を払う。

 そしてその上に、西の森から持ってきた腐葉土を――


「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】!」


 乗せる。

 次に、


「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】!」


 目の前に、大量の骨――一角兎ホーンラビットから分離させた骨を出し、


「ノティア、これ、砕いて乾燥してもらえる?」


 隣にいるノティアがうなずいて、


「肥料ですわね。――【念動サイコキネシス】」


 骨が宙に浮いて、


「【風の刃ウィンド・カッター】」


 風の初級魔法のはずだけれど、ノティアの手から放たれた無数のかまいたちによって、骨が一瞬で木っ端みじんになる。


「【乾燥ドライ】」


 そして骨が、一瞬にして水気を失う。


「「「「「な、ななな……」」」」」


 驚いている難民さんたちと、


「ありがとう、ノティア」


 もはや慣れっこになってしまった僕。


「じゃ次はこれを――【収納アイテム空間・ボックス】」


 言ってノティアの前に大量の草を出す。


「これは――灰にすればよいんですの?」


「おおっ、よく知ってるね!」


「農業は国の根幹ですもの」


 そうか、ノティアは末席とはいえお姫様だった。

 かくいう僕は、灰が肥料になるというのをお師匠様から教えてもらった。

『魔力養殖』の最中に、いろいろとお話してもらえるんだよね。

 その中に『農業基礎講座』ってのがあって、曰く『三大肥料はチッソ、リンサン、カリウム』とか言うらしくって、詳しくは理解できなかったけれど、要は灰が重要な肥料になるらしいんだよね。


「【火炎ファイア】」


 ……なんて考えている間に、ノティアが上質な灰を大量に作ってくれた。


「【収納アイテム空間・ボックス】」


 僕は骨と灰の肥料を【収納】し、


「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】!」


 目の前の耕した部分の上に、まんべんなく肥料を出現させ、


「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】!」


 さらにその上に、残りの土をかぶせる。


「よし! じゃあ最後に――【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】……」


 肥料、腐葉土入りの土を何度も入れたり出したりしてかき混ぜて、完成だ。


「こんな感じですが……どうでしょうか? 農業はよく知らないので、ちょっと自信はないのですが……」


 後ろで目を真ん丸にしていた村長さんに話しかける。


「お、おぉぉ……」


 村長さんは即席の畑に駆け寄り、土をすくい上げて、


「す、素晴らしいぃ~~~~ッ!!」


 振り向いた村長さんの目には涙が浮かんでいる。


「これほどの上質な畑があれば、この地でも十分にやっていけそうです! あぁ、神様……」


「畑神様の誕生ですわね」


 隣のノティアが茶化してくる。


「もぅ……じゃあ次はっと」


 僕は虚空から、ミッチェンさんが一夜で引いてくれた農村の地図を開く。



   ■ ◆ ■ ◆



 そんなふうにして、道を作り畑を作りあぜを作って回った。

 お昼前には、数十の畑が完成した。

 難民の人たちは、見物しながらやんややんやの大興奮だったよ。

 そうして急ごしらえした農村の一角でシャーロッテが入れてくれたお茶を飲んで休んでいると、


「あの、町長様?」


 村長さんがおずおずと聞いてくる。


「ところどころ空いているスペースは何なのでしょう? そこにも畑を入れた方が――」


「あぁ、皆さんが住むための家を入れるんですよ」


!?」


「あとは、川も引き入れます」


ぅ!?」



   ■ ◆ ■ ◆



 少し北上した地点から川の支流を作り、いつものように舗装した。


「じゃあ、流しますよ~! 危ないから川から離れてください!」


 すべての舗装が終わり、あとはノティアが【物理防護結界マテリアル・バリア】でせき止めている部分を接続するだけになって。

 川の周りに群がる難民さんたちに向かって声を張り上げる。


「じゃ、ノティア」


「はい」


 ノティアが展開していた【物理防護結界マテリアル・バリア】が消え、川の本流から勢いよく水が流れ込んでくる。


「「「「「おぉぉぉおおおおおおッ!?」」」」」


 大興奮の難民の方々。

 あはは……最近じゃ僕とノティアが新たに川を引いても、みんな慣れっこになっちゃって誰も驚いてくれないから、逆に新鮮だ。


「町長様ぁ~~~~ッ!!」


 とそのとき、南の方からミッチェンさんが走ってきた。


「家の手配、できました! こちら、30軒分の空き家のリストと連絡相手です」


 ミッチェンさんが差し出してきた紙束を受け取る。


「さすがミッチェンさん!」


 本当に仕事が早い!


「じゃあ僕とノティアで行ってきますので、あとの差配はお願いできますか?」


「お任せください!」


「クリス君、わたくしにも見せてくださいな」


「うん」


「じゃあまずは、王都から参りましょうか――3、2、1、【瞬間移動テレポート】!」



   ■ ◆ ■ ◆



 途中、王都のレストランでノティアとの食事を挟みながら、王都といくつかの大都市を回り、空き家を回収した。

 いや、ノティアに連れていかれたレストランがものすごい高級店で、気が引けたんだけど、『わたくしが出しますから! 後生ですから!』なんて言われちゃね……。

 そして、午後は農村へ空き家を移築して回った。


 こうして、一日にして百数十人が住めるだけの農村が現出した。




***********************

 次回、クリスが難民救済に奔走している裏では――…

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