レッスン52「畑 (4/10)」
「え、えぇと……ではこちら、あなた様の持つ盾と同じ厚みの――厚さ10ミリの鉄板です」
戸惑い気味の武器商さんが、ナゾの冒険者――ノティアが『フェン』と呼んだ、ものすごく大柄な、犬耳を持つ獣族の偉丈夫――を説得すべく、盾なんかでは銃弾は防げないということを実演しようとしている。
西王国民であるらしい武器商さんの言葉は、多少発音や訛りに違いがあるものの、意味は十分に通じる。
というか、この辺の言語って東西両王国の言語が混ざり合った独自言語に近いらしいんだよね。
ルキフェル王国王都の人たちとよりも、この武器商さんとの方が言葉が通じやすいまである。
「では、撃ちますよ――」
100メートル先の的にぶら下げられた鉄板目がけて、
パァーンッ
カ~ンッ――…
小気味のいい音とともに鉄板が跳ね上がり、
「ご覧の通り、穴が開いておりますでしょう?」
望遠鏡で確認し、その望遠鏡を冒険者フェンに渡しながら、武器商さんが言った。
「なので、あなた様の盾も貫通すると思いますよ」
「いーや、やってみねぇと分からねぇぞ?」
「はぁ~?」
「何せここは魔王国――剣と魔法の国だからな!」
■ ◆ ■ ◆
少しして、銃口を向ける武器商さんと、その先で盾を構える冒険者フェンという、意味不明な光景が射撃場に現出した。
「ほ、ほ、本当にやるんですか!? ケガしても私は一切賠償しませんからね!?」
「男に二言はねぇよ! 何なら【契約書】書こうか!?」
「そ、そこまで言うのなら――…」
言って射撃体勢に入る武器商さんと、
「あ、そうだ――おおい、ノティア!」
と、冒険者フェンがノティアに向かって手を振る。
「んげっ、気づかれてましたの……」
なんだか下品な声を出しつつ、本気で嫌そうな顔をするノティアと、
「久しぶりだなぁ! もし盾が貫通してケガしちまったら、
「あのですねぇ! 勝手に人の道楽に着き合わさせないでくれませんこと!?」
「頼んだぜぇ~」
「で、では本当の本当に撃ちますからね!?」
武器商さんの言葉に、冒険者フェンが顔を引き締め、
「おう、来い!」
その瞬間、冒険者フェンの方から鋭い魔力の気配が漂ってきた。
あれは、まさか――…
パァーンッー……
果たして、ライフル銃から放たれた弾丸は、
「……?」
鉄を弾く音がしない。
「【
ふと、隣のノティアが僕のまぶたに触ってきた。
慣れたことなので、僕はおとなしく目を閉じる。
望遠されたノティアの視界の先では、
「え、えええ!? た、弾が盾に張りついてる!?」
「正しくは、前進し続けようとする弾の衝撃を、盾が吸収しているのですわ」
弾丸はやがて速度を失っていき、高速回転している
シュゥゥゥー……
……ぽろり、と盾の前に落ちた。
盾には、傷ひとつない。
「【
「そう、【
【
超一流の戦士が手に入れられる、究極の武術スキルだ!
自身の魔力を膂力に変えて岩を砕いたり、脚力に変えて空高くまで跳躍したり、さらには――…
「自分の持つ武具をも【
「そう。あの域に達するには、【
とんでもない冒険者だ。
まず、【
スキルレベルとは、
1・2が初級……初心者レベル。
3・4が中級……ベテランレベル。
5・6が上級……一流レベル。
7・8が聖級……その道の体現者。才能ある人が一生かかっても到達できるか否かのレベル、となる。
つまり【
ちなみにスキルレベル9・10は神級に当たるわけで、これは文字通り神々にのみ許された領域。
一説には先王で勇者のアリソン様は神級レベルを持っていたそうだけど、のちに魔法神になったという伝説もあるくらいだから、本当の話なのかも知れない。
「な、ななな……」
【
逆に魔王国民側はと言うと、
「「すっげぇ~~~~ッ!!」」
と、少年のような眼差しを冒険者フェンに向けるエンゾとドナ――いや、事実少年だったね。
他にも射撃場にちらほらといた冒険者からは、
「いよっ、大将!」
「さすがはフェンリスの旦那だぜ!」
というような囃し立てる声。
ん? フェンリス?
「【
現役前衛職の頂点と言われる偉大な冒険者!
魔法職の頂点たる『
「お~いっ、もう1発撃ってくれぇ~!」
そんなものすごい人物がいま、銃弾と盾で遊んでいる……。
***********************
次回、筋肉冒険者フェンリスの危ない(物理)遊び。
そして、貴重なドジっこお師匠様。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます