レッスン27「水 (6/6)」

「これが、マスターの誇る七大奥義のひとつ、【お料理クッキング収納・バイ・空間アイテム・ボックス】さね」


 た、確かにこれは奥義かも。世の中の料理人たちを敵に回しそう……というか、絶望させそう。

 っていうか『マスター』とやらの奥義、また出てきたな。


【首狩り収納アイテム空間・ボックス

洗浄クリーンナップ収納・バイ・空間アイテム・ボックス

お料理クッキング収納・バイ・空間アイテム・ボックス


 あとの4つは何なんだろう?

 まぁ、お師匠様が適当にふかしてる可能性も十分にあるんだけど。


「あの、これ調理させて頂いてもよろしくって!?」


 と、目を輝かせてノティアが言った。


「儂ゃ構わないが、お前さんは?」


「え、僕ですか!? も、もちろん構いませんよ!」


 というか、パーティー解消云々、結婚云々はともかくとして……そのくらいの頼みなら、公女殿下相手に断ることなんて無理だ。


「ではお言葉に甘えて……【念力テレキネシス】」


 2枚の半身がふわりと宙に浮く。

 半身はゆっくりと回転しており、ノティアがマジックバッグから取り出した塩と香辛料コリアンダーで彩られていく。

 香辛料の王様と言えば黒胡椒だけれど、あれは南方でしか育たないから、この辺りでは超高級品なんだ。

 かく言う僕は、香辛料にうるさい猫々マオマオ亭に勤めるシャーロッテから聞きかじったことがあるくらいで、食べたことがない。

 ちなみに猫々マオマオ亭で出てくる香辛料はコリアンダーでも胡椒でもなく、花椒とか山椒とかだ。


「【火炎ファイアの壁・ウォール】」


 ノティアの両手から発生した極小の炎の壁が、ニジマスの半身を両面から熱していく。

 たちまち、ものすごくおいしそうな匂いが漂ってきた。

 ノティアはマジックバッグからお皿を出して、ニジマスの塩焼きを【念力テレキネシス】で盛り付ける。

 ナイフとフォークを添えて、


「召し上がれ」


「え、いいんですか? 頂きます!」


「あー……悪いが儂は遠慮しておくよ」


「もぐもぐ……うっま!? あ、ノティア、気を悪くしないでくださいね。お師匠様は小食なんです」


「あら、そうなんですの。じゃあわたくしが頂きますわ。――ぱく。こ、こ、これは美味しいですわ!」


 ノティアが僕の手を取ってくる。


「クリス、わたくしの伴侶兼専属料理人になってくださいまし!」


「えぇぇ……いやいや、料理したのはノティアじゃないですか」


「わたくしは焼いただけですわ。やはり、小骨や鱗はおろか『臭み』まで分離できてしまうあなたの【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】がすさまじすぎますわ!」


「…………ごほんっ!」


 お師匠様が不機嫌な様子で咳払いをした。


「お前さん、ここに来た目的を忘れちゃいないだろうね? 魚はあくまで、【目録カタログ】による分離の練習代だ。さっさと水の精製をするよ!」


「は、はい! すみませんでした!」


 お師匠様の命令は絶対服従。

 僕は直立不動で返事をする。


「よし、じゃあ儂の【万物解析アナライズ】影響下にある状態で、『水』の詳細を見てみな」


「はい! ――んげっ」


『水』『水中昆虫』『寄生虫』『細菌』『小石』『砂』『その他有機物』『その他無機物』……。

 川の水は煮沸させないと飲んじゃいけない、ってのは冒険者の間じゃ常識だけれど……ここまで気味悪いものだったとは!

 なんだよ、『寄生虫』って……。


「じゃ、虫と虫と細菌と小石、砂、その他有機物は捨てちまいな……遠くに」


「はい!」


 森の中の方へ射出した。


「お師匠様、この『その他無機物』? っていうのは捨てないんですか?」


「これがねぇ、水精製におけるキモなのさ」


「はぁ」


「じゃあその『水』を両手の指で長押しして、片方の指を動かしてみな」


「はい? お、おぉおお!?」


『水』が『水』と『水』に分離した。

 分離元の『水』の量は『計測不能』って書いてるんだけど、分離した方の『水』は『1リットル』と書いてある。


「そんなふうにして【目録カタログ】の中で好きな量だけ分けることができるのさ」


「すごいですねぇ!」


「お前さんの加護エクストラ・スキルさね。んじゃ、少ない方の水から、『その他無機物』を取り除いた上で、飲んでみな」


「はい――【収納アイテム空間・ボックス】」


 言われた通り1リットルの水から『その他無機物』を地面に捨て、コップをテーブルの上に取り出し、その中に水を注ぎ込む。

 嗅いでみる。匂いは――しない。

 飲んでみる。……ん? んんん?


「なんか変わった味……味? いや、これは味が……しない?」


「超純水だからねぇ!」


「超純水?」


「そう。普通の水ってのは、ミネラル――超微細な鉱物が含まれていて、水の味ってのはその、ミネラルの味なんだよ。ミネラルの中にはナトリウム――塩が入っているからね」


「へぇ……?」


「この国の知識水準じゃあ、ちと難しかったかねぇ。まぁとにかく、ミネラルの入っていない水は美味しくないし、何より飲み続けているとミネラル不足になって、体調を崩しちまうんだ」


「――え!?」


「あぁ、一口飲んだくらいじゃ何も影響はないから心配しなさんな。儂がお前さんの体調を害するようなことをするわけないだろう?」


「――――……」


 毎晩の『魔力養殖』でしこたま吐かされてるんですが……。

 おかげで最近は、お風呂とご飯の前に魔力養殖の時間を持ってくるようになった。


「というわけで、その水はもう捨ててしまって、残りの方の水を長押ししてみな」


「はい」


目録カタログ】の『水』を長押しし、『その他無機物』をさらに長押しすると、果たして『ミネラル』と『その他』と表示された。


「よし、『その他』を捨てれば最高の飲み水の完成さね」


 こうして僕は、一生困らない量の飲み水を手に入れた。




***********************

 ここまでお付き合い下さり、誠にありがとうございます!m(_ _)m


 次回、西の森にとんでもないものが出来ていて、クリス、ビビる。

 アリス・アインス師匠「仕事が早い奴は好きさね」

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