第14話・真相
翌日、私は傭兵部隊の通常任務を終わらせると、ルツコイの執務室を訪れた。
王女メリナが、無事、シンドゥ王国の船に乗れたのか確認するためだ。
ルツコイによると、メリナは引き渡され、シンドゥ王国の三隻の戦艦は、目的を達成できたので、あっさりと自分たちの国に向けて出発したという。
私がそれを聞いて複雑な心情であった。できれば、私は彼女を引き渡したくなかった。しかし、メリナの故郷セフィード王国が危機に陥る可能性、また、こちらの大陸にシンドゥ王国の軍隊が派遣される懸念などから、やむを得ない対応であった。
この件は、いくら考えても、私ではどうすることもできなかっただろう。私は、もう忘れようと思った。
私は今日の全ての任務が終了したので、自分の部屋に戻って、上着を脱いでベッドに横たわって考え事をする。
現金輸送馬車襲撃の犯人ギュンター・ローデンベルガーの事を思い起こす。
実は、私はローデンベルガーについて、ルツコイに報告していないことがある。
倉庫でローデンベルガーと話をした時、奴が逃走用に船に乗り込んだ後、勝てるかどうかはわからないが、私は一人で奴を始末しようと思っていた。
しかし、ルツコイは兵士達を船に潜伏させると言い出した。たとえ兵士の人数が多いとはいえ、もし船内の通路など狭いところでの戦いになった場合、兵士達は取り囲んでの攻撃ができない分、圧倒的に不利だっただろう。下手をすると兵士達が数十名犠牲になる可能性あると思った。最悪、全滅の可能性もあった。
現金輸送馬車の襲撃の時、私も自分の部下五名を殺害され、ローデンベルガーを許すつもりはなかった。しかし、ローデンベルガーを倒すために、目の前で、さらに数十名の犠牲者を出すことは、とても容認できなかった。
そこで、私はローデンベルガーを逃がすことにした。奴に逃走用の船に兵士が隠れていると教えた上で、私と奴とで、船上で一芝居討つことにしたのだ。
兵士達が甲板に出てきたところで、私は火の玉を放つ。あらかじめ、メリナが巻き込まれないように、奴は彼女と距離を取っておくと約束していた。
奴の体に火が点くが、海に飛び込めばすぐに消えるだろう。
私が現金輸送馬車の護衛の任務で、初めて奴に遭遇して、同様に火の玉を放って奴の体に火が点いた時、奴はそこから加速魔術で一瞬で移動し、近くの沼に飛び込んで火を消したと、最後に潜伏していた倉庫内で聞いた。
ローデンベルガーは海中に転落後、加速魔術を使い、水中を素早く移動し船から離れる。転落した付近を見るだけでは、奴の姿を見つけることは出来ない。甲板から見ると、兵士たちは奴が海中に沈んでしまったように思っただろう。
しかし、奴は、そのまま泳いで街の外の岸までたどり着いているはずだ。奴がそこから、どこへ逃げるかは言わなかった。聞いても答えなかっただろう。
ローデンベルガーが海に転落するのを私だけでなく、多くの兵士が目撃することになり証人も十分だ。奴は行方不明として処理されることになった。奴の望み通りに指名手配が取り消されることはないが、捜査の手は緩むことになるのは間違いないだろう。
もう一つの事実として、ローデンベルガーも昔、私と同じあの孤児院で育ったというのだ。それで、奴は、私に少し親近感を持ったようだった。
奴は、育った孤児院に盗んだ銀貨の多くを寄付し、そして、残りの銀貨は潜伏の為の資金にしたという。
さらに、奴は孤児院の近くの宿屋に偽名を使って潜伏していた。孤児院に何度か軍服を着た者が出入りするのに気づき、一度、軍の訪問者が会った際、 加速魔術を使って孤児院に潜伏し、訪問者とメリナや院長との会話を盗み聞きしたという。それで、孤児院にセフィード王国の王女メリナが居るということ知ったという。
これは、おそらく、ルツコイ司令官が訪問した時の事だろう。
そこで、奴はメリナが重要人物なので、彼女を人質にして街から脱出することを思いついたという。その矢先、私たちが彼女を連れて出したので、慌てて街中で襲撃したのだ。魔術を封じるために街中を選んだわけでは無い様で、それは偶然だったようだ。
これらのことは、私の胸の中に収め、誰にも話すことはないだろう。
しかし、メリナの件も、ローデンベルガーの件も、今回はとても後味の悪い事件だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます