第8話・孤児院
翌日の朝、私はザービンコワの依頼の通り、メリナを迎えに医務室に向かった。
医務室に到着すると、ザービンコワとメリナが待っていた。
メリナは与えらえた質素な服を着ていた。改めて立っている姿を見たが、十六歳という年齢にしては、少し小柄だと思った。
「さあ、行こうか」
私はメリナに声を掛けた。
「元気でね」
ザービンコワはメリナの肩に手を置いて言った。メリナは、それに答えるようにザービンコワに一礼をした。
私は城の中を歩きながら、メリナに話しかける。
「これから行くところは孤児院だけど、いいところだし、きっと友達がたくさんできるよ」
「孤児院?」
メリナが不安そうに繰り返した。私はその不安を解消できるように話す。
「身寄りがない子供たちが行くところだよ。私も七年間いたんだ」。
「クリーガーさんは孤児だったのですか?」
「小さい時に両親が亡くなってね。それに身寄りが他にいなかったから」。
その後も彼女の不安を取り除くため、当たり障りのない世間話をしながら歩いて孤児院に向かった。それは、城から歩いて三十分ほどのところにある。
ズーデハーフェンシュタット第四孤児院。
共和国時代に設立された国営の孤児院だったが、帝国に占領後も引き続き国によって運営されていた。
私が居た頃から、もう二十年経つが建物の見た目は記憶の通りで、さほど変わりなかった。我々は孤児院の門をくぐり敷地内を抜けて、建物に入った。
中は静かだ。おそらく、この時間は授業中だろう。我々は教師達がいる部屋に進んだ。扉をノックして中に入ると、数人、おそらく教員だろうと思われる人がいたので話をした。
「今日から、お世話になるメリナを連れてきました」。
中に居た教員と思われる一人がこちらに向かって返事をした
「ああ、聞いているよ。院長先生に会ってください。そこを出て一番奥の左の扉です」
私は教えられた扉の前に立った。扉には院長室と書かれた札が掲げてある。
扉をノックすると、中から入るように声がした。私は扉を開けて入った。すると、赤い服を着た上品そうな白髪の初老の女性が居た。彼女は座っていたが、我々を見ると立ち上がって挨拶をした。
「こんにちは。メリナさんとクリーガーさんね。話は伺っております。私はここの院長のクラウディア・ビーレフェルトです」
「よろしくお願いします」
ビーレフェルトは我々に椅子に腰かけるように促した。そして、メリナに一通り院内の決まりなどを話した。メリナは言葉が理解できているか不安があったが、どうやらほとんど理解できているようだった。
ビーレフェルトは最後に付け加えた。
「メリナさんの部屋も用意してますから、後で案内します」
「では、よろしくお願いします」
私は話が終わったので立ち上がろうとすると、ビーレフェルトが別の話を切りだした。
「ああ、すみません。クリーガーさん。別件で話があるんですが」
「何でしょうか?」
「先ほど、指名手配の似顔絵が回ってきたんですけど、その人、二度ほどここに寄付に訪れた人なんです」
「本当ですか!?」
私は驚いて少々大きな声になった。
「はい。間違いありません。名前は確か、ギュンター・ローデンベルガーだったかと」。
私は前のめりになって再び質問をした。
「寄付に訪れたと?」
「ええ、銀貨の入った袋を置いていきました」
「それは、いつのことですか?」
「もう、二ケ月ぐらい前になるかしら」
現金輸送馬車が襲撃された時期と一致する。
「銀貨を入った袋を見せてもらえますか?」
「銀貨は銀行に預けてしまいました」
「そうですか。では、警察の者をこちらに寄越しますので、詳しくはそちらに話してもらえますか?」
「わかりました」
私は立ち上がって、最後にメリナに声を掛けた。
「じゃあ行くよ。元気でね」
メリナは軽く会釈した。
そして、私はビーレフェルトに一礼をして院長室を後にして、警察本部に急いで向かった。
警察本部で、アーレンス警部を呼び出し、孤児院で例の現金輸送馬車の犯人が現れて銀貨を置いて行ったということを伝えた。
その話を聞くと、アーレンスは慌てて数人の部下を連れ孤児院へ向かった。後は彼らに任せればよいだろう。
私は城に戻って通常の任務に戻ることにした。
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