異世界行ったけどHDDを壊さないと
見切り発車P
第1話
トラックに轢かれて。
目覚めると、見知らぬベッドの上で。
ただしそのベッドは病院じゃない場所(教会らしい)に置かれていて。
体の傷は治したが頭のほうはどうか、などと問われ問題ないと答えると、
豪華なホールに通された。
ホールは大学の講堂に似ている。
と思う。大学生じゃないので想像だ。
大学なら学生が座るであろう席に、俺も含めて何十名かが腰掛けている。
そして講師が立つであろう場所に、メガネをかけた、周囲の空気がぴんと張るような美女が立っていた。
ただしその髪は黄緑だった。薄れていた現実感がさらに薄れる。黄緑の髪の人がいないとは言わないが、ものすごく少数派であることは確かだろう。
「あいつ、耳とがってるぜ」
周囲の誰かがつぶやいた。
髪色にとらわれて気づかなかったが、たしかに美女の耳はヤギのようにとがっていた。
もちろん整形などで耳をとがらせている人もいるだろうが――、どっちかといえば、その美女がいわゆる人類ではないと見たほうが、確率が高い気がしてきた。
「こほん」
美女は軽く咳払いをしただけで空間を黙らせた。
「まずは、この地、メトシェラにおいでくださったことを感謝します。
ようこそいらっしゃいました。
メトシェラがあなたがたにとって良い第二のふるさとになりますように」
この国(地域?)の名前はメトシェラというらしい。
それはいい。地球にもありそうな名前だし。
ただ、『第二のふるさと』という表現は気になった。
「わたくしの名はデボラ。
今日からあなたがたの案内人を務めます。
具体的には――」
デボラは一呼吸置いた。呼吸の必要というよりは、俺たちが話についてこれてるかどうか、確かめながら話している感じだ。
「――あなたがたにはメトシェラで冒険者になっていただきます!」
冒険者。
うーん、冒険者ね。
黄緑の髪をした、耳のとがった人が、トラックに轢かれたはずの俺(や、だいたい同じ境遇らしい他の人たち)に冒険者になれという。
かなり絶望的な感じがしてきたが、もうちょっと話を聞いてみよう。
「あ、あなたがたは死んでこの世界に転生してきました。
帰るところはないのでそのつもりで☆」
やっぱり異世界か!
そして帰れないらしい。
帰れないとか。
「まずいじゃん」
俺はつぶやいた。
「HDDの中身を消さなきゃいけないのに」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます