第219話 【侵食】④

 凄まじい戦闘により擦り減った精神へと何者かが侵食してきました。


『このままじゃあケロナ死んじゃうねぇ...、速く入れ替わった方がいいんじゃない? 貴女はまた私に体の一部を捧げてくれたんだよね? だったら速く入れ替わろうよ、でさぁ、この苦しみから解放されよっ』


(黙れ...!)


『私は黙らないよ? せっかくケロナが【砂鉄】を使ってくれているんだからさぁ...、私ならケロナよりも砂鉄を上手く使いこなすことができるからきっと目の前の敵を消す事だってできる!』


(黙りなさい!!)


『お〜怖っ! でもさぁいいの? 【砂鉄】を使っているのに対価を完全には支払ってないよね? 【目】だけを支払ってくれてもそこまでの力は貸してあげられないよ? だからさぁ...、全身を...髪の毛先から足のつま先までぜ〜んぶちょうだい...、そうしたら目の前のあいつくらい一瞬で消し去ってあげるよ?』


(...)


 確かに彼女の言う通りです。


 私は対価を支払うと言っておきながら、今現在左目だけしか支払っていません。


 エルサは倒したいけれど、得体の知れないこいつに私の体を明け渡すのは怖いと感じているのだ。


 しかし、彼女の甘い声は余裕のない私には魅力的に聞こえてしまうのも事実。


『サラったら可哀想に...、姉がこんなに不甲斐ないばかりにあんなに血をこぼして...、早く助けてあげないと死んじゃうかもしれないよ?』


(サラ...!)


 私の弱みに漬け込んでくる辺りが本当に汚い。


『さぁどうする? 体を開け渡すの...? それとも死を選ぶの...? 答えがこの2つしかないのなら答えはもう決まっているのでしょう?』


 まるで私の心の中を見透かすかのような言葉使いを続ける彼女。


(卑怯な取引ね...)


『なんとでも言いなさい』


 しばらく考えた後に私はこう答えるのでした。

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