【12-2】




 そんな友人以上の絆ができていた私と結花さんが、知らぬ間に親戚になっていたと知らされて、部屋で二人きりになった夜のこと。


 私と結花さんの間で、こんな女子会話ガールズトークがあったんだ。



「花菜ちゃん、啓太くんに昨日の夜は愛してもらえた?」


「えっ……、もしかして聞こえちゃいました?」


 顔を真っ赤にしてしまった私。これじゃ答えは言ったようなものだよね。


 高校2年の夏、『お兄ちゃん』ではなく、初めてのキスを渡し、年頃の男性と女性という意識のなかで抱いてもらった時と同じお部屋。


 私にとってクリスマスイヴは一生に一度と決めているプロポーズをしてもらった特別な日。


 すべてを受け入れたいと、前日の夜は心も体もすべてを解放した。それでも声を出さないように気を付けてはいたのだけれど……。


「はい……。朝まで何回か……。今日が排卵日だって分かっていたので……」


 毎月の基礎体温をつけているから、私の体の周期もほぼ分かる。


「全然聞こえなかったよ。私も似たようなもんだしね」


 結花さんご夫妻は、体の負担を考えてお子さんは彩花ちゃんだけと決めているんだって。


 そんな私のお腹を、浴衣の上からそっと撫でてくれた。


「がんばれ……」


「結花さん……?」


「本当に私の勘でしかないのだけど……。きっとうまくいっていると思う」


「えっ……?」


「勘だって言ってるでしょ? だから本当は分からない。どっちにしても女の子にとって冷えは大敵だから、冷やさないように温かくしておくのよ?」





 すごいな……。あのときの勘を本当に当ててしまった。


 先月末の生理がなかったことで、はたと気がついたんだ。


 どんなに頑張っても、悔しいくらい正確な周期で生理が来ていたのに、初めてのことに動揺もした。


 ここで慌てちゃいけない。生まれて初めて薬局で妊娠検査薬を手にした。


 そう、私は妊娠を望んでいる既婚者だもの。なにも後ろめたいことはない。それなのに、これまでの排卵日検査薬だったり、それこそ昔に避妊具を買ったときより緊張した。





 啓太さんがお仕事に行ったあと、自分一人でお家のお手洗いで検査をして、結果を見るまでの数分間がすごく長く感じて怖かった。




 けれど……、私はその日のうちに産婦人科の受付に名前を書いていた。




 結花さんと啓太さんに報告するのは、きちんと確定してからにしよう。




 そして今日の2回目。子宮内エコーを見たお医者さんは、私に笑ってくれた。


『長谷川さん、頑張りましたね。心拍もはっきり見えています。元気ですよ。ご主人にも嬉しい報告が出来ますね?』


『はい。もちろんです。頑張って産みます』


 先生はその場で書類を書いてくれて、次回までに母子手帳を貰ってきてくださいと言ってくれた。




「今は大事な時期だから、無理しちゃダメよ? もう花菜ちゃんだけの体じゃないんだからね? でも、よかったぁ」


「はい……」


 悲しい天使ママの経験もある結花さんだから、本当に喜んでくれた。


「啓太くんにはいつ報告するの?」


「今夜、お仕事から帰ってきたらです。きっと、生徒の女の子からいっぱい甘いものもらってくると思うから」


「うふふ、どんなチョコにも負けないね」


「あ、忘れちゃいけないですよぉ」


 途中で買ってきたチョコレートを『友チョコ』として結花さんに渡す。


「結花さん、これからも甘えちゃうこといっぱいあると思いますけど……」


「いいのよ。私が花菜ちゃんを預かったのだから、それはこれからもずっと変わらないんだからね。ずっと一緒だよ」


 昔、お母さんがよくしてくれたのと同じように、結花さんは私の頭を撫でながらその胸に抱きしめてくれたの。


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