【9-2】




 ただ、そこまで遠縁になってしまうと、普段の生活の中では親戚とすら言わなくなってしまうかもしれない。


 でも、これまで何度も助けてくれた結花先生が、家系図という書類の上だとしても親戚と言えるようになったってことだよね。


「花菜ちゃん……。よかったぁ。花菜ちゃんとの接点がまたできたぁ!」


 私よりも結花先生の方がことの重大性を分かっているみたい。


「だって、花菜ちゃんともっと仲良くなりたいって思ってたんだもん。ずっと離れたくないって」


「うん、私も……。でも、これからどう呼んだらいい? 結花先生って、なんか他人行儀になっちゃいそう……。前みたいに結花さん……でいいのかな?」


 嬉しそうに笑っている結花さんに抱きついた私。


「やった。これで堂々と『花菜ちゃん』って呼んでもいい?」


「もちろんです! こんな大事な話、なんでもっと早く教えてくれなかったんですかぁ!」


 そうだよ、その事実が判ったのって先月のことだったんだよね。なんで今日まで黙ってたのかなぁ。


 先月には分かっていて、約1ヶ月私たちには知らされなかったなんて……。





 それを口にすると、結花さんをはじめみんなが私を見た。


「花菜が頑張ってることに邪魔はしたくなかったし。本当だったら、今日までにはって思っていたんだろう?」


「う……、うん……」


 啓太さんだけじゃなく、みんな知っていてくれたんだ。


 そう、本当は今日までに『新しい家族が増えます』って報告をしたかった。


 それが、私だけができる啓太さんへのお礼の気持ち。同時に私が自立して生きているよというみんなへのメッセージにできると思っているから。


 児童福祉施設でもある珠実園では、予定外の妊娠のニュースを仕事柄でも耳にしてしまうこととは反対に、生理が予定どおりに来ていて、私たちのような20代の夫婦が、一番条件のいい日に避妊をせずに夫婦生活をしているときですら、受精、着床、妊娠まで確定できる確率は毎月僅か20%を超えるくらいということも学んだ。


 そこに私は免疫抗体の関係で難しいという診断を受けている。もっと確率は低いんだ。


 人工授精という道があることも分かっているけれど、その前にやれることはやってみたかったから。


 毎月、啓太さんに情けない顔を見せるのも申し訳なくて、いつも平然としているようには頑張ったけど。


「花菜は頑張りすぎ。あんまり気にしてるとかえってストレスになっちまうと書いてあった。そのうちにちゃんとできるさ」


「いつもごめんね……」


 基礎体温もつけて、排卵日検査薬も毎月薬局で買って、本当に私の都合で協力してもらっているのに。


 だから、なんとか私たちの記念のこの日に、嬉しい報告をしたかった。


「私、結花さんのお話も知ってる。だから、簡単じゃないのは分かってるよ。でも、私が啓太さんを愛してること……、それをなんとか形にしたくて……。お母さんも孫がみられないことが心残りだったから……」


「花菜、ふたりだって俺は十分に楽しいし幸せなんだ。花菜だけが悩むことじゃない。また次のことも一緒に考えていけばいいんだ」


 結花さんも隣で手を握ってくれた。


「大丈夫。私にもできたんだもん。花菜ちゃんに出来ないはずがない。また一緒にお医者さんも行きましょう?」


「はい……」


 やっぱり私ってみんなに守られているんだね。なんだか、それに改めて気づかされただけでも、今年のこの日は大切な日になったように思えた。


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