VTuberを始めたら学園一の美少女"氷姫"が高額投げ銭でデレてくるガチ恋勢になっていた
水都 蓮(みなとれん)
第1話 "氷姫"との少し特別な時間
陽キャと陰キャという言葉がある。
容姿に優れ、コミュ力に長け、クラスの中心となって昼休みにサッカーをするのがお似合いな存在が陽キャ。
雰囲気が暗く、話しかけられてもうまく会話が出来ず、クラスの隅でひっそりと生きるのがお似合いなのが陰キャ。
この俺、羽生
「はぁ……本当にルナルナはかわいいなあ……」
当然、友達もいないので、昼休みにはこうして屋上に上がって推しの「夢見ハルナ」の配信を一人眺めるのが日課だ。
『こんるな~。学校に通ってるみなさーん、仕事中のみなさーん、今日がお休みのみなさーん、毎日がおやすみのみなさーん、仕事明けのみなさーん、毎日の家事でお疲れのみなさーん、それからそれから、えーっと……とにかくみなさん、今日も生きててえらい!! おつるなでーす』
おっとりとした聞いてて癒やされる声、いわゆる文学少女のような、オタクの好きをこれでもかと詰め込んだ清楚な容姿、そしていつでもファンサを忘れず、リスナーとのやりとりを大切にする距離感の近さが魅力的なVTuberだ。
【コメント】
:こんるな~
:勤務中に見てます。こんるな~ \5,000
:今日はAREX?
:ソロマス耐久まじですか?
:ソロマスター達成の前祝いです。 \30,000
『そですね。今日もAREXでみんなを血祭りに上げてこうとおもいます。今日こそマスターに行きたい!!』
とまあ、雰囲気こそはほんわかとしていて清楚そのものなのだが、どこかサイコっぽさを感じさせる言動の多い子だ。
基本的にとても気の利くいい子なだけあって、そのギャップが魅力的に思える。
「オタクくん、今日もここにいたんですね」
「げっ……」
そんな昼のわずかな癒やしの時間を邪魔するように一人の少女がやってきた。
「『げっ』とはなんですか? こんなにかわいい子が会いに来たっていうのに」
かわいい子を自称するなんて、自己評価が高すぎるが、確かにその言葉を俺は否定できない。
一見すると物静かでクールな雰囲気の
その美貌から"氷姫"と密かにあだ名され、学園一の美少女として他校にまで知られている。
だが俺にとっては、目の前にいる美少女よりも、画面の向こうにいる推しの方が優先なのだ。
「美少女だろうとなんだろうと、俺とルナルナの時間を邪魔されたくないんだよ」
「そんなに仮想世界の住人が良いんですか……? ここには生身の美少女がいるんですよ? VTuberと違って直に触れられますよ。ひらひら~」
そう言って、姫宮さんがスカートをちらちらとめくり始めた。
「触れねえよ!! というか、年頃の女の子がそんなことするんじゃない」
「もしかして、照れてるんですか?」
姫宮さんがいたずらっぽい笑みを浮かべた。
くっ、この女、俺のことをからかってやがる。
「でも、それは仕方ないことなのです。なにせ今あなたの目の前にいるのは、街を歩けば百人中百人は振り返るほどの絶世の美少女です。女の子と付き合った経験のなさそうなオタクくんには刺激が強いでしょうね」
「どど、童貞ちゃうわ!!」
「いえ、別にそこまでは言ってないのですけど……」
おっと、自爆してしまった。
なんて、誘導尋問のうまい女なんだ。
「それにしても、どんだけ自己評価高いんだよ……」
俺の貞操の話はさておき、姫宮さんの自分への容姿の評価は高すぎる。
山で言えばエベレスト、海溝で言えばマリアナ級だ。
一体、どんな育ち方をしたら、そんな風に自信満々に言い放てるのだろうか。
「だって、私にはこれぐらいしか取り柄がありませんから」
「取り柄って……」
しかし、その自信とは裏腹に、彼女の口から出たのは重いトーンの言葉であった。
あまりに自虐的に言うものだから、気の毒に思えて、こちらのペースがかき乱されてしまった。
「……あんまり自分を卑下するなよ。姫宮さんの変に自己肯定感高いところ、俺は結構気に入ってるんだ」
とりあえずフォローを入れてみる。
俺が気に入ったところでなんの慰めにもならないだろうが、彼女の自虐を否定してやりたかった。
それに、お世辞でなくこれは本心だ。
こんな変な性格だが、俺は姫宮さんとの日々のやりとりを楽しいと感じている。
初めて彼女と言葉を交わした時は「なんだこの女」と思ったが、こうして昼に二人でいる内に、彼女との距離感を心地よく感じるようになっていた。
「私の捻くれた性格を肯定してくれるのはあなただけですよ、オタクくん。もしかして私に気があるんですか?」
また、姫宮さんがからかい始めた。
まったく、いたいけな童貞を弄んで何が楽しいのだろうか。
「ねえよ!! 第一、姫宮さんには恋人がいるだろ」
だが、その手には乗らない。
なにせ、彼女には決まった相手がいるのだから。
「違います。親同士が勝手に決めた婚約者ってだけです」
「それって、ほとんど内定してるようなもんだろ。あんなイケメンで金持ちで勉強も出来るやつが将来の相手なんて、学園中の女子が羨むを通り越して妬んでるぞ」
彼女は否定するが、生涯を共にする相手としては申し分ないどころか、オーバースペック過ぎる相手だ。
おまけに、両親が政治家と弁護士で、フランス人のクオーター。
姫宮さんもどこかの社長令嬢らしいし、住む世界が違いすぎる。
そう。俺のようなモテないオタクくんが、こんな美少女に気後れせずにいられるのは、絶対に彼女が俺に好意を寄せることがないという自信があるからだ。
彼女は上流階級の人間で、俺なんかとは比にならないハイスペックな婚約者がいる。
そんな人間が、俺なんかに気を持つはずがない。
その安心感から、俺は変な勘違いをしないで済むのだ。
「ステータスがよければ好きになるというわけではありません。それに……わ、私の好みはああいう派手な人じゃなくて、黒髪でちょっと暗めの雰囲気の人ですし」
えっ……?
その一言にドキリとした。
まるで、俺のことを指しているように一瞬、聞こえたからだ。
い、いや、それはありえない。いつものように、彼女は俺をからかってるのだろう。
「おい、マジかよ!! その情報、学園に流したら、モテない男子達が血で血を洗う抗争を始めるぞ」
だから俺は、頭をよぎった"勘違い"を無視して、彼女を茶化す。
この鮮やかな機転、俺でなかったら出来てないね。
「な、なに盛り上がってるんですか。それだけは絶対にやめてください」
「学園ラブコメでよくある、学園を巻き込む抗争、昔から憧れてたんだよなあ」
「ほ、本当にやめてくださいね。ああ……こんなことなら、口を滑らせるんじゃなかった……」
珍しく姫宮さんが狼狽している。
これは思わぬ弱みを握ったかもしれない。
「もういいです。そもそも、私はあなたと無駄話をしに来たわけじゃありませんから」
「さっき美少女が会いに来たとかなんとか言ってたはずだけど……」
「うるさい、お黙りなさい」
彼女はため息をつくと、少し離れたところに座りこみ、弁当の包みを開いてスマホを取り出した。
「今から、昼食をとるので、邪魔しないでくださいね」
「へいへい、先に邪魔してきたのは姫宮さんだけどな」
クラスのトップカーストに所属する彼女だが、なぜか昼はこうして屋上で食事をする。
人気のないところがいいそうで、おかげで俺は学園一の美少女と食事を一緒にするという奇妙な体験をしている。
小柄な見た目に、オタク趣味、陰湿な雰囲気。
名前が誰にも覚えられないせいで、付いたあだ名はオタクくん。
それがこの俺、羽生豊陽だ。
本来なら、姫宮さんと接点なんてあるはずがなかった。
誰かに話しかけられれば、少しびくつきながらなるべく明るく応じ、宿題を写させてと頼まれれば内心嫌だと思いながらも快く見せ、毎週買ってるジャ○プは通学中に読み終えて、教室に入れば陽キャグループに献上する。
友達と呼べるほどの人はいないが、それでも陰キャなりに、このコミュニティからはじき出されないように、日々をやり過ごす、それが俺の高校生活だ。
そんなつまらない学園生活を送る俺だが、この昼だけは違う。
姫宮さんとこうしてくだらない会話を交わしたりすることができる。
俺と彼女の住む世界は違うが、それでもこの瞬間は、彼女と同じ時間を共有することが出来る。
俺と彼女のような関係をどう呼ぶのかよくは分からないが、それでも俺はこのささやかな時間を密かに楽しみにしていた。
だけど、そんな日々は、たった一度の過ちで全て無に帰してしまうのであった。
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