第48話 弟子の思惑


「はい。それではまた後ほど。失礼します」


 無事、本日午後に弁護士の予定を取り付け、思わずため息を吐く。


「思っていたより動きが早い」


 この街には大まかに分けると二つの勢力がある。歓楽街を緩く支配する県外資本からなる新興勢力派と、古くからいる地主や地場の有力者からなる旧体制派だ。


 今回の立ち退きの件は、ちょっと困らせてから手を差し伸べる的な旧体制派の、ジャブに等しい牽制の一手だろう。途中経過のお金や人脈の使い方などを観察してこちらの資金力や対応力を測る搦手からめてだ。恐らく向こうから立ち退きを迫るていでやってくる弁護士は不自然なくらい親身に対応して信頼関係を築こうと動いてくるだろう。


 私の仕事場である新興勢力派側はもっと直接的な手段を取る。そのリスクをカバーするために公権力を持つ旧体制派にも情報が流れるように派手にやった。“ギルドに入会や先生に弟子入りすれば回復魔法が覚えられる“。そんなのを口の軽い嬢達に見せれば客の旧体制派にも噂となってすぐ伝わるのだ。


 しかし、行動が早い。腰の重い旧体制派の爺さま達がこんなにも早く先生を確定して手を打ってくるとは……。裏取りにもっと時間がかかると思っていた。そして打ってきた手が割とクリティカルだ。トイレと先生はセットでないといけない。


 とはいえ、繋ぎを作る一手でもあるのでそれほど本腰を入れて地上げなどはすまい。トイレから異世界に行っているとまでは旧体制派は掴んでいないと思うが、新興勢力派にはすでに情報が流れてしまっているので「先生が暴走するかもしれない新興勢力派の極端な取り込み策」さえ防げればそれでいいのだ。


「面倒ぉ。うーん、誰かいい人いたかな……」


 もはや誰か分からない人で埋まってしまっているSNSアプリの連絡先一覧を眺めながらぼんやりと思案してしまう。


 後は旧体制派のキーマンと繋がりを作りつつ、圧倒的武力差の先生派をなし、新興勢力派とも三方良しの関係を築けばいい。

 先生の暴走なんてものが起きてしまえば逃げ込む先は異世界で戻ってこなくなってしまう。それだけは避けたい。


「だから面倒事は弟子の私がやっておきます」


 だからようやく見つけた私の世界異世界の邪魔をしないで。


「最悪、マイさんを派遣してやりましょう」


 うん、気分が軽くなった。どうにでもなりそうだ。


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