第46話 マークされる


「大丈夫そうですね。これなら何とかなります」


 迷宮の出入口で設置物を調べていたアイリさんがはつらつしていた。何がそんなに嬉しいのだろうか。


「これで迷宮内でスマホ使える〜?」


「1層の近場ならいけそうですよ」


「やった〜!」


 アイリさんとマイさんにとってスマホの電波は生活必需品のようだ。俺はあまり不便を感じないが。


「それにアユミさんが少し心配してました。先生が日本に戻ってこなくなるんじゃないかって」


「えっ?」


 急にこちらに振られた話題に言葉が詰まる。戻らないわけがない。家賃その他の支払いもあるし、母親だっているのだ。いくら父に先立たれて新しくできた彼氏とよろしくやっているせいで実家を追い出されるように一人暮らしを始めることにはなったとはいえ。


 そう改めて言われてみると日本の生活にあまり未練もなかったのかもしれない。


 しかしだ。


 異世界生活も現代日本で暮らしている自分には厳しい。言葉も通じなければ、文明も遅れている。


「さすがに不便すぎてこっちで暮らす気はないですね」


「……それもそうですよね」


「マイはこっちにも家が欲しいかも〜」


 マイさんあたりの対人戦闘力なら住めそう。


「もしかして自分がこっちに住んでも異世界行きたいときに呼び出すために通信環境を?」


「さ、さあ?どちらにせよあった方が便利ですから」


「……たしかに便利ですよね」


 アユミさんならそのくらい想定しててもおかしくない……のか? まぁ移住するつもりは今のところないので気にしないでおこう。迷宮街まで通信環境を整えれるわけでもないだろうし。


「……LANケーブル……光ファイバーじゃなきゃ無理かな……」


 ぶつくさと考え込むアイリさんに、マジかよどこの業者だよと内心つっこみながら我が家へと戻った。




 我が家のちゃぶ台でマイさんがいれてくれたお茶を飲む。今日は2人が泊まるのか。1人で迷宮に潜ったりしないから帰ってくれてもいいんどけども。


「明日はどうしましょうか。朝に潜ってアイリさんのレベルも上げちゃいますか?」


「うーん。ヘイト引く役いた方が安全だと思います」


「マイもそう思う〜硬いし〜」


「アユミさんと合流してからですかね。槍も持っていった方がよさそうですね」


 アイリさんの短刀じゃ防御面はよくてもリーチが厳しい。


「じゃ今日はこれで解散にしましょう。1人で迷宮に潜ったりしないのでお二人は帰ってもらっても大丈夫ですよ」


「だめ〜張られてる」


「えっ?」


 あっさり拒否られた。貼られてる?

 

「先生、見張られています」


「……誰に?」


「探偵かヤクザでしょうか」


「なぜに」


「誰かが嗅ぎつけたのかもですね」


 さらりとアイリさんが言うが見張られるようなことは……してないこともなかった。


「襲ってこないとは思いますが」


「交代で〜警備〜」


「あっはい」


 思ったより大事になってきているのか? それよりおいそれとトイレのためにコンビニにも行きにくい状況なのだと辟易していた。あとプライベートな時間。


「もう向こうに住もうかな……」


「マイも〜」


「いや、それはそれで」


「ありかも知れませんね」


 いえ、ごめんなさい。電気もないところに住みたくないです。

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