第21話 冒険者会員


 昼過ぎに来客を報せるチャイムで起床。すっかり昼夜逆転生活だ。来たのは誰だろうと考えるまでもなくアユミさんだった。チャイム連打はご近所迷惑なのでやめてほしい。


「おはようございます! 先生! 連絡つかないから来ちゃいました!」


「……おはようございます」


 テンションが高い。


 そういえばレベル9止まりなのか。もう1レベル上げれば回復士スキルが取れるはずなのだ。念願の魔法使いがすぐそこにあるとなれば張り切るのは仕方ないのかもしれない。


「今日は仕事も休んじゃいました!」


 張り切りすぎじゃない?


 とりあえず台所でのっそりと顔を洗い、歯を磨く。振り向けば完全防備のアユミさんがいた。


「では行きましょう! あ、これ買ってきたんですけど食べます?」


 コンビニのおにぎりと緑茶のペットボトルが入ったビニール袋を差し出され、嬉しくなってしまう。


「いただきます!」


 おにぎりをぱくつきながら装備を整える。


「そういえば胃の調子はどうです? 診断ダイアグノーシス


「それが調子いいんです! 朝も快調に起きれましたし!」


 診断ダイアグノーシスでも健康に見える。レベルアップはやはり身体も丈夫にしてくれそうだ。


「冒険者会員もありだなぁ……」


「何ですか?」


「いえ、月会費の会員制で異世界行く人を作ってもいいかなって」


「月会費ですか。スポーツジムみたいなものですかね。ゴルフ会員権みたいな感じなのかな……」


 ゴルフ会員権とかバブルの頃の話なのでは? 検索してみるとまだ存在していた。しかも高い。会員になるのに数十万円とかかるのにプレー料金はまた別らしい。


 なるほど。お金はあるところにはある。


「うちの社長が言ってました。安いところには安い客しか来ない。高いところでそれを自覚して高いサービスを心掛けろと。こう見えて色々勉強してるんですよ? こんなレベルアップなんて他ではできないんですし、変な人が寄ってきても面倒なので取っていきましょ!」


「……10万円とか?」


「うーん。もっと取ってもいい気がしますけど。会員権って辞めるときお金戻ってきたり換金できたりするみたいですし。戻ってこなくて揉めるのも多かったみたいですけど」


 あれ?貰えるわけじゃないのかな?


 再び「ゴルフ会員権、税務」で検索。出資金か預託金、ようは預かり金だ。なるほど使い込んじゃいけないお金なのだ。何のために取るかというとなんかあった時の保証金みたいなもんかな?

 でもまぁ連れて行けるのは自分だけなのであんまり大っぴらに広げる気もない。


 最初に色々お金がかかるのだ。ロッカー買ったり、トイレ付いてる隣の部屋借りたり。一時的に預託金から借りる感じにしておけば大丈夫だろう。


 アユミさんに知り合いの税理士と弁護士を紹介してもらうことにして、とりあえず会員になるのに預託金個人10万円、法人30万円、異世界行きは1時間1万円ということにした。


「友達を誘ってみますね!」


 そんな話をしながら1層から5層を経由して6層へ。


「ここは気を抜くと怪我をするので気をつけてください」


「は、はい」


 こちらの緊張感が伝わったのだろう。小声で伝えた注意に真剣な顔で頷く。


 猫ちゃんエリアは本当に危険だ。


「迅動」


 スキルを発動した途端、動きの鈍くなった猫ちゃんの右側の前脚と後脚を斬り抜ける。


「とどめを」


「はっ、はい!」


 慌てて抜いたアユミさんの剣が喉を貫き、猫ちゃんは土に還った。


「レベル上がりました!」


 武士の迅動スキル、強い。


 覚えたから使ってみたかっただけとも言うが開幕で使えば危なげなく完封できる。


 これならあのトンボも。



 次は後脚1本だけ斬り飛ばし、アユミさんに戦ってもらう。その次は前脚1本。そして無傷の猫ちゃんだ。


「先生、盾士が解放されました!」


「おお……そんなのもあるんですね。一旦教会に行きましょうか」


 ローヒールじゃ治せない傷を負うわけにはいかないので、防御主体で戦ってもらったアユミさんには盾士が解放されていた。まだまだ知らない職がありそうだ。



 どうでもいいけど、この経験値システムじゃすぐにレベルが追いつかれるんですけど……。



「先生、こっちの言葉を教えてください」


「こっちの言葉ですか? 分かりませんけど」


「えっ、会話してましたよね?」


「え、銀貨の数え方を何種類か覚えてるだけで会話になってないですよ」


「えー!そうなんですか!」


 はい、実はそうなんです。



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