第14話 弟子入り希望


「お疲れ様です! 先生! 私も魔法を使いたいです! 弟子にしてください!」


 アユミさんからそんなハイテンションなメッセージがやってきたのは大盛汁ダク玉を胃に流し込んだところだ。弟子と言われてもなぁ。異世界に連れて行くことができればレベルを上げられるんだけれども。


 そういえば異世界への入口に他の人を手を引いて連れて入るとどうなるのだろう。装備品は問題なく行き来できている。ならば、生き物も手を繋ぐなり接触したまま入口を潜るとどうなる? 見える見えないは置いておいて、連れて行ける可能性はありそうな気がする。


 問題は、だからといっていきなり人体実験するのも倫理的に微妙なところだ。


「人間を辞める覚悟が要ります」


 確かに一緒に迷宮に潜るのなら、むさ苦しいおっさんより華やかな女性の方が断然いい。でも最初の魔素に馴染めるかどうかもある。回復魔法を覚えて商売敵になる可能性もある。実験に大して親しい間柄ではないのは都合がいいといえばいいのだが覚悟だけは問うておきたい。メッセージ送信。



「はい! 人間辞めます!」


 なんだか言葉選びをミスった感。ダメ人間宣言みたいな返信が返ってきた。どうしよう。



「あ、先生!」


 牛丼屋の自動ドアが開き、どこぞの夜のおねーさんが1人でやってきたと思えばほろ酔い状態のアユミさんだった。そういえば初めて遭遇したのもここだった。


「私、人間辞めます! 弟子にして下さい!」


 開口一番これだ。酔っ払い声が大きい。

 人聞きが悪いので声を抑えて欲しい。人間辞めて弟子になるってなんやねん。


「とりあえず牛丼でも食べて落ち着いて下さい」


「はぅ。すいません」


 周りの視線に気付いたようで尻すぼみに謝罪しつつ、頼んだのは並盛り玉子だ。


「最近、お店終わった後に胃が痛くてつい食べちゃうんですよね……」


「病院行った方がいいですよ」


「治ってもまたなっちゃうので……。色々あってお店も辞めようかなって」


 牛丼屋でとりとめもなく語られるアユミさんの個人的事情。

 短大を出て2年、最初は昼職と掛け持ちで夜も働いていたが昼職の給料の安さに夜1本に。最近付き合った彼氏には隠していた妻がいて別れた。結婚してお店を辞めて幸せになったはずの先輩は離婚してシングルマザーで復帰ばかり。その上どんどんと若い女の子が店に入ってくるので年齢を重ねることに絶望感しか感じない。


 重い。


 女性の若くて可愛い刹那の時期に繰り広げられる愛憎絡み合う競争社会。


 お店のNo3として成功しているように思えたアユミさんにも水面下で蝕む闇があった。


「だから魔法で人生を変えたいんです」


「……魔法で人生が変わるかというと、まぁ変わるだろうけど望む方向かどうかはなぁ。後、まだできるかやってみないと分からないんですよね……」


「やってみましょう!」


 食い気味にぐいぐいくるアユミさんだが……やめて声が大きい。


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